「顔の見える電力™️」をコンセプトに、生産者のわかる電力小売りサービスを提供する「みんな電力」。世界でも類を見ない事業モデルに注目が集まっていますが、実は、メンバーの働き方も、とてもユニークなんです。
今回は、サーキュラーHRの稲葉編集長が、みんな電力で働く長島さん、佐藤さんのお二人に、「みん電」の自由なワークスタイルや、未来の働き方についてお話を聞きました。
電気を「作る人」と「使う人」をつなげるサービス
稲葉編集長:みんな電力が登場する以前、私たちがふだん使っている「電気」を誰が作っているのか、意識する機会はほとんどなかったと思います。電気の生産者を「見える化」するというアイディアは、どこから生まれたんですか?
佐藤チェルシーさん(以下、敬称略):代表の大石の経験が原点になっています。ある日、地下鉄に乗っていた大石は、携帯の充電がなくなりかけていることに気づきました。そのとき、目の前に座っていた女性が、ソーラー充電器のキーホルダーをバッグにぶら下げているのが目に入ったのだそうです。「そうか、電気って誰でも作れるのか!」と面白みを感じたことが、創業のきっかけになりました。
稲葉:みん電さんが供給する電力は、すべて再生可能エネルギーなのですか?
佐藤:はい。太陽光発電、水力発電、風力発電など、日本各地の大小さまざまな自然エネルギーの発電所と契約しています。再生可能エネルギーの中でも、例えば乱開発によって建設された発電所は選びません。発電所の顔を見せられるような、皆さんに安心して買っていただける生産者の電気を扱っています。
<みんな電力HPより>
長島遼大さん(以下、敬称略):創業9年目になる現在は、電力だけでなくさまざまな分野で、「顔の見える」サービスに挑戦しています。「ソーシャル・アップデート・カンパニー」として、作る人と使う人をつなげることを大切に考えているんです。
稲葉:なるほど。作る人と使う人、そのつながりを回復させていくというところが、みん電の目指すところなのですね。みん電の提携先はユニークな発電所ばかりだと思うのですが、お二人の「推し」発電所はありますか?
佐藤:たくさんあって、選ぶのが難しいですね。津波の被害にあった土地を活かした発電所、最先端の技術を駆使した海の上の発電所など、大小さまざまな発電所があります。例えば、神奈川県小田原市の「おひるねみかんODAWARA発電所」は、耕作放棄地をおひるねしていた田畑ととらえ、その土地で太陽光発電と稲作を同時に行っています。収益を上げながら地域を元気にしていくという、良い循環が生まれていると思います。
長島:おひるねみかんODAWARA発電所がユニークなのは、エネルギーと食を同時に作っているところです。出来たお米は、地元の造り酒屋に持ち込み、自分たちで育てた農薬不使用のみかんと混ぜ合わせてお酒を造るなど、発電所を中心にしたコミュニティが生まれつつあります。
佐藤:地産地消に限らず、例えば青森県で作られた電気を、当社の技術を使って人口の多い都市部に供給することで、地域の「関係人口」が増えて、新たなつながりが生まれると考えています。
稲葉:なるほど。関係人口という考え方は面白いですね。新型コロナウイルスの影響もあり、今後仕事を失う人が増えていくと予想される中、みん電の取り組みは、地域の新たな雇用を創出することにつながるかもしれません。
長島:例えばバイオマス発電を地域の林業と絡めれば、雇用が生まれる可能性もあります。太陽光発電そのものは新たな労働力を必要としませんが、農業だけで生計を立てることが難しかった人たちが、自分たちが作った電気を売ることで副収入を得て、さらに電気を買ってくれる人たちとつながり、直接野菜を買ってもらうというような仕組みも実現可能だと考えています。
「やってみなよ」と背中を押してもらえる場所
稲葉:お二人がなぜみんな電力で働こうと思ったのか、キャリアについてのお話もぜひ聞かせてください。
長島:私はもともと電力業界で働きたいと思っていたわけではなく、そこにみん電があったから選んだ、という感じです。最初はインターンで入ったのですが、「顔の見えるサービス」というみん電の軸となる価値観に豊かさを感じましたし、代表の大石が、どんな提案にも「やってみなよ」と背中を押してくれることで、モチベーションが上がりました。正社員になったのは2019年4月。当社で初めての新卒入社でした。
稲葉:企業の軸がしっかりしていて、創業者との距離が近いのは、働く場として魅力的ですね。最近は、みん電のように社会性の高い企業で働きたいという学生も増えていますが、これから就職活動をする人に向けアドバイスはありますか?
長島:「個性」って何だろうということを、最近よく考えます。今はSNSなどで、誰でも発信ができる時代です。発信力のある人は個性的に見えるので、そういった人と自分を比べて自信を失くしてしまうことがあるかもしれません。でも、わかりやすい「強烈な個性」がなくても、仕事をする中で自分なりの個性を見つけることはできると思うんです。
稲葉:そうですね。やりたいことが明確に決まっている人もいれば、そうではない人もいる。別にやりたいことがなくてもいいと思います。会社の価値観に共感して仕事をする中で、充足感を得られるかもしれない。「ここにいたら人とのつながりが持てる」という心地いい居場所を提供することも、企業の大切な役割だと思います。
ラッシュの安田雅彦さんが「安心して、『ひとまず働け』と言える会社であること」が大切だと仰っていますが、まさにそういったイメージですよね。人間は誰でも困ったり迷ったりすることがありますが、そんなときに、企業がシェルターとしての仕事を提供することができるかどうか。企業が、自分たちに人生を預けてくれた人に、後悔させないような倫理観を持って関わることが、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。
CAからみん電へ。転職を決めた理由
稲葉:佐藤さんは、元CA(客室乗務員)という異色のキャリアをお持ちです。なぜみん電で働こうと思ったのですか。
佐藤:私は高校を卒業するときからCAになりたいという一心でがんばっていました。夢が叶い、楽しんで働いていたのですが、がんばりすぎて心身の調子を崩してしまって。私にとってCAは「持続可能な働き方ではないな」と感じたことが、転職のきっかけです。
そんなときに、ある人から「面白い会社がある」とすすめてもらったのがみん電でした。広報担当者の募集だったのですが、当時の私はもちろん、広報の経験などありません。でも、「会社のファンをつくる」という意味では、CAと広報の仕事に通じる部分があると思い、勇気を出して応募しました。
「私だから」任せてもらえる仕事をしたいと考えていたときにみん電の面接を受けて、この雰囲気の中でなら私も自分の意見を言うことができる、「絶対ここだ!」とピンときたんです。2019年の8月に入社しました。
稲葉:なるほど。佐藤さんにとってみん電は、ある意味で「セカンドキャリア」のような場所なのですね。みん電は、まったく別の仕事をしていた人の経験やスキルを活かすことに長けていると感じます。
佐藤:経験やスキルだけではなく、私が持っているポテンシャルを見て話を聞いてくれたのは、本当に嬉しかったですね。採用して良かったと思ってもらえるような仕事をしたいと強く思いました。
長島:当社は、「みんな電力の長島」という前に、「長島」というひとりの個人であることを尊重してくれる会社だと思います。会社が用意した役割に人を当て込むのではなく、その人の個性に合わせて役割をつくっていくイメージです。
「電気」を通じて、それぞれの「野望」を実現する場所
稲葉:そんな土壌がある組織だから、みん電にはユニークな方がたくさんいるのですね。
佐藤:そうですね。採用のときには必ず「あなたの野望は何ですか」と質問されるんです。みんなそれぞれの野望を叶えることも目的の1つとして入社しているので「会社に順応しよう」という発想がもともとないと思います。
長島:「紅白で歌う」という野望を持って入社した民謡アイドルやお笑い芸人など、本当に多様なメンバーが、個性を活かして働いていますよね。
稲葉:それぞれの「野望」を実現するためのツールが「電気」というわけですね。私たちは「サーキュラーHR」というプロジェクトを通じて、誰もが持続的に働き、個人の価値を発揮し続けられる社会を目指しているのですが、そういった観点からも、みん電の組織づくりは非常に興味深いです。
女性は一般的に、出産・育児などのライフイベントによって働き方を変えざるを得ない場合も多いと思うのですが、みん電ではいかがでしょうか?
佐藤:前職は女性が多い職場だったので、女性に配慮した制度がたくさんあったのですが、個別の事情にかかわらず、同じ制度を全員に当てはめることに窮屈さも感じました。当時は、子どもが生まれたら仕事を続けることは難しいだろうと考えていました。
一方、みん電では、やるべき仕事ができていれば、働き方も本当に自由です。特別な制度を設けているわけではありませんが、子どもがいるメンバーが、子どもを連れて出社して、手が空いている人が順番にその子と遊んでいるという光景もごくふつうに見られます。赤ちゃんが生まれて、半年間一度も出社せず、在宅で仕事をしている男性社員もいます。
稲葉:個別の事情に合わせて働き方の相談ができるのは素晴らしいです。子どもが生まれることでより自由になれるのであれば、働く女性へのエンパワーメントになりますね。
みん電の事業を通じて新たなつながりを生む
稲葉:最後に、お二人がみん電で実現したいことや、将来のビジョンを教えていただけますか?
長島:私はみん電の事業を通して、「安心できる場所」「第二の故郷」を作りたいと考えています。例えば都会の人が、毎日使っている電気が小田原の田んぼで作られていることを知り、電気を作る人と使う人の交流が生まれる。そうやって視野が広がるのは、お互いにとても気持ちのいいことだと思うんです。そういったつながりを通して、みん電にかかわる人たちがその人らしく生きることができるようになったらいいなと考えています。
佐藤:みん電の電気を選んでくれるのは、トレーサブルな製品にこだわりを持った企業や、個人の方が多いです。電気を通じてつながった企業の商品をみん電で紹介するなどして、みん電の電気を使っていない人にとっても、ストーリーが見える商品を購入するという選択肢が増えたら素敵だなと思います。
<サーキュラーHRへのヒント>
- みんな電力では、日本各地の大小さまざまな再生可能エネルギーの発電所と契約。「顔の見える電力」をコンセプトに、生産者のわかる電力小売りサービスを提供している。
- 電気を使用する人口が少ない地方で作られた電気を、みんな電力の技術を使って人口の多い都市部に供給することで、地域の「関係人口」が増えて、新たなつながりが生まれる。
- みんな電力では、多様なバックグラウンドを持つ社員の個性やポテンシャルを活かした採用活動をしている。会社が用意した役割に人を当て込むのではなく、その人の個性に合わせて役割をつくっていくという土壌がある。
- 特別な人事制度は設けていないが、個別の事情に合わせて自由な働き方を設計することができる。
【プロフィール】
みんな電力株式会社 社長室 プロジェクト推進チーム 長島遼大
1995年、横浜市生まれ。大学卒業後、環境問題を学ぶため13カ国を周り、5カ国でボランティア活動を行う。帰国後、2018年12月みんな電力株式会社に入社。再生可能エネルギーの利用を普及させるため、生産者と消費者が直接会える“発電所ツアー”や、再エネ利用企業と社会貢献意欲の高い学生のマッチングを目指す就活イベント“電力就活”といった様々な企画を担当。休日は、有機農家と共に立ち上げた“畑を中心とした新しいコミュニティ団体”の活動を通じて、地元横浜市で農業を行う。
みんな電力株式会社 社長室 佐藤チェルシー
1990年、カリフォルニア生まれ、大分育ち。大学卒業後、日系航空会社で国際線客室乗務員を約6年間勤める。2019年8月、みんな電力へ入社し広報を担当。みんな電力SNS中の人として「日本一絡みやすい電力会社」を目指して発信中!