「フェムテック」を知っていますか?
Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけ合わせた言葉で、テクノロジーを使って、女性の体にまつわる悩みや課題を解決していくプロダクトやサービスのことを指しています。
最近話題になっている生理用ショーツや月経カップをはじめ、月経から妊娠・出産、更年期に至るまで幅広い製品があります。
今回は、日本のフェムテック市場を牽引するfermata(フェルマータ)株式会社CEOのAminaさんに、フェムテックのこと、すべての人が働きやすい社会を実現するために必要なことを教えて頂きました。
テクノロジーで、女性の健康をサポートする
――fermataで販売されている生理用ショーツを初めて使ったのですが、モレやベタつきもなく、本当に快適で驚きました! こんな便利なものが、なぜ今まで日本になかったのだろうと思いました。
Amina:日本で生理用品と言えば、ほぼ紙ナプキンのことを指していますよね。日本で初めての紙ナプキンが発売されたのは1961年、アメリカから約40年遅れでした。それまで、日本の女性たちは脱脂綿を使っていたんです。以来60年近く経ちますが、紙ナプキン一択の状況はほとんど変わっていません。さらに、文化的な違いや言葉の壁、そして薬事での規制などいろいろな障壁があって、優秀なプロダクトを販売するまでに時間もコストもかかってしまうんです。
世界のフェムテック市場には、最先端のテクノロジーを使ったさまざまな製品があります。さまざまな理由で紙ナプキン以外の生理用品がなかなか普及しないこの国で、まず手に取りやすい製品はなんだろうと考えたときに、たどり着いたのが生理用ショーツでした。
――「フェムテック」という言葉に馴染みのない方も多いと思うのですが、fermataが考えるフェムテックの定義や、今、なぜ世界で注目を集めているのかをあらためて教えていただけますか?
Amina:フェムテックは、テクノロジーを使って、女性の健康まわりをサポートするプロダクトやサービスのことです。fermataでは生理用ショーツのほかにも、おりものの質で妊娠しやすい時期がわかる妊活デバイスや、骨盤底筋を鍛えるデバイス、デリケートゾーンケア、セクシャルウェルネスアイテムなど、さまざまなプロダクトを取り扱っています。
〈フェルマータで取り扱っている生理用ショーツ〉
Amina:フェムテックという言葉自体は、デンマーク出身の起業家が、この分野への投資を募るために使い始めた造語なんです。2012年ごろ、ドイツの会社が、月経周期を管理するためのアプリを開発したのですが、投資の世界は大半が男性。なかなか資金を集めることができなかったのだそうです。そこでフェムテックという言葉を作っていかにもそのマーケットがあるように見せたのが始まりです。
日本でも、最近少しずつフェムテックが知られるようになりましたが、fermataではプロダクトだけではなく、女性が自分の体や健康に目を向けるムーブメントそのものがフェムテックだと捉えています。
フェムテックで女性の選択肢を広げる
――世界的に見ても、フェムテックという概念が生まれたのはごく最近のことなのですね。
Amina:はい。例えばFDA(アメリカ食品医薬品局)が、医薬品の治験を行う際、被験者に女性が入っていなければいけないと決めたのも、1993年とごく最近です。女性の体については、十分に研究されていないこと、知られていないことがとても多かったんです。
――Aminaさんはなぜ、フェムテックの分野で起業しようと考えたのですか。
Amina:私はもともと公衆衛生・医療経済が専門で、国内外の医療・ヘルスケアスタートアップへの政策アドバイスや、マーケット参入のサポートをしてきました。フェムテックを知ったきっかけは、以前ベンチャー・キャピタルで働いていたときに、自宅で女性の「妊よう性(妊娠しやすさ)」を測れるキットを販売する会社に出会ったことです。ちょうど私自身が結婚、妊娠、キャリアなどに関して周囲からプレッシャーを受け、息苦しく感じてたこともあり、このような技術が広がれば、女性の選択肢が増え、生きやすい社会になるのではないかと考えました。
2019年9月、世界中のフェムテック企業のプロダクトを集めた展示会を開きました。有料かつSNSでしか告知していなかったにもかかわらず、120人くらいの方が来てくださいましたし、メディアでも多数取り上げてくださって。プロダクトがないから話題にならないだけで、「実はみんな気になっているんだな」とニーズがあるのを感じました。そこでCCOの中村と2人で、2019年10月に起業。ちょうど1年が経ち、メンバーも21人に増えました。
〈2019年に開かれた展示会の様子〉
オフィスには「うるさいところ」と「静かなところ」が必要
――fermataには、女性のメンバーも多いと思います。女性が、自分の体のリズムや、健康を大切にしながら働き続けるために、心がけていることはありますか?
Amina:環境づくりは大切だと思います。当社の勤務時間はいわゆる「9時5時」ではなく、好きなときに仕事ができるようにしています。オフィスはありますが、出社しなければならないという決まりもありません。子どもを連れてきたり、犬と一緒に出社したりするメンバーもいます。自己管理して成果を出していれば、働き方は自由です。また、立場にかかわらずオープンに発言できるよう、メンバーの言葉を否定しないことを心がけています。
コロナの影響もあり、オフィスがいらなくなっていくと言われる時代ですが、やはりメンバーが集まる場所は何かしら必要ですよね。最近特に思うのは「うるさいところ」と「静かなところ」があるといいのではないかということです。生理中でお腹が痛い人や、妊娠中で休みたい人、メンバーと一緒に出勤した子どもが寝られるようなスペースと、仕事をしたり子供が遊べるスペースが両方あると理想的ですよね。
――私たちは「サーキュラーHR」というプロジェクトを通じて、誰もが持続的に働き続けられる社会の実現を目指しています。fermataの働き方は、私たちのコンセプトにも通じるものがあると感じました。
Amina:そうですね。「複業・副業」について言えば、実は、fermataのメンバー21人のうち、正社員は4人だけなんです。兼業や副業をしているメンバーは、別の視点で新しいアイディアを持ち込んだり、ほかの業種や業界とfermataを繋げてくれたりするので、メンバーにとっても会社にとっても相乗効果があってメリットが大きいと感じています。長い間、ひとつの会社で働き続けることにはメリットもありますが、どうしても価値観が固定化しやすくなる一面もありますよね。
「今日の調子は?」メンバーの心身の状態を「天気」で共有
――日本企業では、制度として生理休暇があっても実際にはあまり利用されないなど、女性が自分の体の状態に合わせた働き方を選択することがまだ難しい状況です。今後、女性が働きやすい環境づくりやダイバーシティに取り組みたい企業の管理職・人事担当者に向けて、アドバイスをお願いします。
Amina:私は子どものころから海外で育ち、3年前に日本へ帰国しました。生理休暇のような制度は、今の日本にはまだ必要なものかもしれませんが、少し極端かなという気もしています。「生理なので休みます」と会社の人にはなかなか言い出しにくいですし、言わなくていいこともあると思うんです。メンタルやフィジカルが元気かどうか、担当している仕事が順調に進んでいるかどうか、最低限これらをチームで共有できれば十分ではないでしょうか。
男女を問わず、人の心と体は、アップダウンがあって当たり前です。fermataでは「天気予報」という形で、メンバーの心身の状態をシェアしてもらっています。毎朝、勤務を開始するときに、その日の気分を「晴れ」「曇り」「雨」などのマークで共有するんです。言いたければ理由を言ってもいいですが、あえて言わなくてもいい。雨マークのメンバーがいたら、今日一日そっとしておいてあげようというふうに、お互いのコンディションをさりげなく知ることができるんです。
また、先日、120人の男性の前で講演をする機会があったのですが、終了後、質問の列ができて、皆さんパートナーとの関係性など個人的な悩みを相談してくれました。性や体についての悩みは、タブーだと感じる方が多いテーマですが、fermataで取り扱っているような、目に見える「モノ」があると、皆さん話しやすくなるようです。ダイバーシティの研修やワークショップなどでフェムテックのプロダクトが必要な場合はご協力することもできますので、お声がけ頂ければと思います。
女性のウェルネスの分野で、世界一のマーケットプレイスを実現したい
――今後、fermataの事業を通じて、どんな未来を実現していきたいと考えていますか?
Amina:乃木坂の「New Stand Tokyo」内にある当社の路面店は「未来の日用品店」というコンセプトで運営しています。生理用ショーツや、女性のためのセクシャルウェルネスグッズの横に、Tシャツやクッキーの型が並んでいたりします。私たちが扱うプロダクトは、今はとても珍しいかもしれませんが、3年後、5年後には当たり前にコンビニやスーパーでも買える日用品になっていたらいいなと思っています。
Amina:グローバルな視点で見ると、フェムテックの分野において、アジアはまだまだ発展途上だというイメージがあります。当社はシンガポールにも拠点があるのですが、女性のウェルネスの分野で、世界で一番大きいマーケットプレイスを作って、そのイメージを覆したいですね。マーケットプレイスでは製品を販売するだけでなく、体や心についての情報を提供して、女性のさまざまな選択肢に寄り添うようなサービスを提供していきたいと思っています。
――最後に、キャリアに悩んでいる読者へのメッセージがあれば、ぜひお聞かせください。
Amina:何か決断をしなければならないとき、私は「何が一番大切なのか」を見きわめて判断するようにしています。目の前に、簡単な道と辛い道があり、自分にとって大切なものが辛い道の先にあるなら、そちらを選ぶと後悔がないと思います。
もうひとつ心がけているのは、今の自分が「本物だな」と感じる人を大切にすることです。「すごいな」と思った人とのつながりを大切にしていると、そこからまた新しいご縁が生まれて、会社や友達以外のコミュニティができていくと思います。
――今日は素敵なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 2012年ごろから、テクノロジーを使って、女性の体にまつわる悩みや課題を解決していく「フェムテック」という言葉が使われるようになった。
- fermataは、世界的なフェムテックへの関心の高まりを背景に、2019年に創業。生理用ショーツをはじめ、女性の選択肢を増やし、生きやすい社会になるためのプロダクトを販売している。
- オフィスには、「うるさいところ」と「静かなところ」を両方用意すると、多様な働き方に対応しやすくなる。
- 性や体についての悩みなど、タブーだと感じる方が多いテーマも、フェムテックのプロダクトなど、目に見える「モノ」があると多くの人が話しやすくなる。
【プロフィール】
fermata 株式会社 Co-founder / CEO Amina Sugimoto, DrPH
DrPH/公衆衛生博士
東京大学修士号、London School of Hygiene & Tropical Medicine (英) 公衆衛生博士号取得。 福島第一原子力発電所事故による被災者の内外被曝及び 健康管理の研究を行い、東京電力福島原子力発電所事故 調査委員会(国会事故調)のメンバーでもある。日本医療政策機構にて、世界認知症審議会 ( World Dementia Council ) の日本誘致を担当。厚生労働省のヤングプロフェショナルメンバーにも選ばれ、「グローバル・ヘルスの体制強化:G7伊勢志摩サミット・神戸保健大臣会合への提言書」の執筆に関わる。近年、Mistletoe 株式会社に参画。また、元 evernote CEO の Phil Libin 氏が率いる AI スタートアップスタジオ All Turtles のメンバーでもあった。国内外の医療・ヘルスケアスタートアップへの政策アドバイスやマーケット参入のサポートが専門。
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