英国発のフレッシュハンドメイドコスメブランドとして日本でも人気のLUSH。動物実験反対や、高品質な原材料を倫理的な条件に基づいて調達する「エシカルバイイング」を通じた社会と環境の再生など、企業としてさまざまな社会課題にも取り組んでいます。
そんなラッシュジャパンのPeople(人事)部門責任者を務める安田雅彦さん。生産部門や全国の店舗で働くスタッフを含む社員たちとどのように向き合っているのか、お話をうかがいました。
ラッシュを辞めた後も、付き合っていける会社にしたい
編集部(以下――) ラッシュには、社内マニュアルがないと聞きました。ビジネスの方向性や、社員・チームの成長、接客方法も、一人ひとりがオーナーシップを持って行動するという方針のもと、人材育成というより人間性の育成に注力されています。
研修も、「インスピレーションを与え、気づき・学びを得る機会」と位置付けておられますね。私も先日、全国から200名以上の社員さんが集まる研修に参加させていただき、皆さんの熱意に驚きました。
社会課題とも向き合っていく企業の人事責任者として、どのようなお考えで、どんな施策を行っているのでしょうか?
安田雅彦さん(以下、敬称略):社員がラッシュを辞めた後でも付き合っていける会社になれるといいなと思っています。先日の研修でも、講師として登壇していた方や設営を行ってくれた方が元ラッシュの社員でした。アラムナイ(企業の離職者やOB・OG)を大事にというわけではないのですが、ラッシュを通じて成長し、会社を離れた後もいい感じでつきあっていける、そんな会社と人材の関係を作りたいです。
具体的な人事施策としては、まず、ラッシュには定年がありません。年齢差別をなくしました。定年は、日本の労働慣習に従っているだけの制度だと思います。人材一人ひとりを見て、情熱を持って仕事ができるのなら年齢がいくつでもかまわないはずです。
契約社員という雇用身分も廃止しました。契約社員でも正社員でも、仕事の内容は変わらない。働いている人は、勤務時間や仕事内容が同じで特別な理由がなければ、正社員として働きたいと思っているはずです。それならば全員正社員にしよう、と考えました。
よく、契約社員の方に向けて「頑張って働けばいつか正社員になれますよ」と言って会社へのエンゲージメントを高めようとすることがありますが、それは会社の都合だと思うんです。
社内のメーリングリストなど、契約社員の方が入っていないグループがあるのも違和感を覚えます。共に働いている人同士なのに、フェアではないと感じるからです。
また、ラッシュでは個人の事情を考えない、社命での人事異動なども行いません。
人材はビジネスのキードライバー
――ラッシュの社員さんは、社会課題に対して意識が高い方が多いと思いますが、そういった社員の方たちの評価や採用はどのように行っていますか?
安田:私は、評価というのは教育のツールだと思っています。ラッシュでは評価の方法を変えて、さまざまなステークホルダーからのフィードバックを受けられる評価にしました。
多様な視点からの評価を通じて、失敗を受け入れて成長できる組織文化を浸透させていきたいと思っています。
採用については、労働環境が変化する中で、自分たちの基準を持って働ける人を求めています。
埼玉大学の宇田川元一先生がおっしゃっていたのですが、仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせることでその人が輝くようにしていきたいと考えています。
採用にしても評価にしても、組織の論理と個人の論理が合わない場合、個別の人事制度を作るとまではいかなくとも、一人ひとりを見て処遇をしていきたいです。
――社員の人材育成に力を入れられない企業も増えていますが、その点についてはどう思いますか?
安田:私は、人材はビジネスのためのキードライバーだと思っています。その前提で、社員が仕事を通じて社会と接触を持ち、育っていくようにしたいと思っています。
会社で人が育つためには、日頃、仕事の中でチャレンジをして、周囲と支え合いながら成長していくことが大事です。そのためには、共に働く人との信頼関係が必要です。1on1をいくらやったところで、信頼関係に基づいたフィードバックができなければ意味がないわけです。自己理解、他者理解を繰り返しながら信頼関係をつくり続けることで、働くことでハッピーになれる会社にしていきたいです。
「ひとまず働く」ことで景色が変わる
――ラッシュさんのようなエシカルな企業では、社会意識の高いZ世代(1990年代後半~2000年生まれの世代)も力を発揮しやすいと思います。一方で、多くの企業でZ世代とマネジメント層の価値観が異なり、ハレーションを起こしているケースが見られますが、どのようにご覧になりますか?
安田:X世代(1960年~1974年生まれの世代)へのアドバイスとしては、Z世代の価値観を理解するよう歩み寄るしかないと思いますね。発想を変えていくしかない。
Z世代が情報源としているTwitterなどを見ていると、コンセプチュアルなことが的確にたくさん発信されている。若い世代はそういったものをたくさん読んでいるわけで、「べき論」的なソリューションについてはものすごく知識豊富だと思います。ただ、具体的にアウトプットした経験は少ない。
そういった前提を踏まえて、Z世代の考え方を知り、より民主的なマネジメントをしていくことが必要だと思います。
――サーキュラーHRの読者や、企業で人事に関わる方が、明日からすぐ取り組めることはあるでしょうか。
安田:「とりあえず働け」ということですかね。僕はそういう点、結構体育会系なんです(笑)迷っている人は、ひとまず働いてみると、途端に風景が変わることがあります。
企業については、働く個人がハッピーであることが大事です。その会社に関わり、仕事をすることそのものをハッピーにするということ。安心して、「ひとまず働け」と言える会社であること。形式にこだわりすぎて、画一的にならないように。
「働き方改革」も、形にとらわれると画一的になりかねません。例えばある企業では、業務時間外に仕事の連絡が来ると子育てなどに影響があるので、「連絡不可時間」を作る試みを行っていると聞きました。でも、もしかすると、夕方に子どもの世話をして、一段落してから夜間に仕事の連絡をしたい、ということもあるかもしれません。それぞれ個別の事情があるものです。信頼関係に基づいて、画一的ではない仕事のやり方が受け入れられる社会になってほしいと思います。
働く人と企業が、お互いを知る努力をし、仕組みを体系化することによって、信頼関係を築いていけるのではないでしょうか。
――今日は貴重なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせることで、その人が輝くような採用・評価を行う。
- 共に働く人との信頼関係を築くことで、ハッピーに働ける組織をつくる。
- 画一的にならず、個別の事情に合わせた働き方を受け容れる。
【プロフィール】
株式会社ラッシュジャパン人事部長 安田雅彦
1989年南山大学卒業。西友にて人事採用・教育訓練を担当後、子会社出向の後に同社を退社。2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年よりラッシュジャパンにて現職。
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