多様性×マンガ漫画メディアパレットークは、LGBTsや多様性について、Twitter上で発信しているメディアです。パレットークの編集長で、ベンチャー企業の経営者でもあるAYAさんに、多様なメンバーが集まる組織で個人のパフォーマンスを引き出す方法についてお話をうかがいました。
一人ひとりが「ライフハック」を意識して働く
編集部(以下、――) AYAさんは、どのような想いからパレットークを運営されているのですか?
AYAさん(以下、敬称略):やるからには、社会を変えなければいけないと思っています。セクシュアリティやジェンダーについて、LGBTsや、障害を持つ当事者の意識を変えて周りに合わせるのではなく、周りが変わることを促したいです。
どんな人にとっても、「楽しい」と感じることを制限する足かせが少なくなり、選択肢が増えて、自由度が上がっていくといいと考えています。当事者に対して「あなたが頑張ればいい」と言うのではなく、周りをほぐすことでWell-beingの実現を目指したいです。
北欧は人生の選択の自由度が高いと言われますが、多様な個人が人生の中で何かを選択しようとしたときにその選択肢が多いため、幸福度が上がっているのではないでしょうか。そのような社会を実現するためには、当事者や近い関係の方だけではなく、「もしかして私にも関係があるかも」と感じている方たちに伝える必要があると思います。そのために漫画を用い、Twitterで拡散をしています。
――表現がソフトで、とてもわかりやすいと思いました。
AYA:わかりやすい表現で、見た方に「なるほど」と思ってもらえるよう工夫しています。Twitterを見ていて、文章ではなく漫画がタイムラインに流れてくると、興味をひかれて自分に関係なくても見ることが多いと思います。そうやって見ていただいた結果、「私自身もこういうことを言っていたかもしれない」と気づいてくださったという反応があると、嬉しいですね。
――人材活用についてはどのように考えていますか?
AYA:前職では、HR系の会社で仕事をしていました。その会社のメンバーと「週5日間、死んだような顔で働いている会社勤めの方たちを元気にしたいね」と話していました。働く人が元気になれば会社が元気になり、社会が元気になると思います。
企業は即戦力を求めて人を採用しますが、どんなにスキルを持った人材でも、その企業にカルチャーフィットしていないと働き続けられないと感じています。でも、足元の組織運営に気をとられ、組織と人材のカルチャーフィットまで意識を向けられず、結局、人材が定着しないケースが多くあるのではないでしょうか。
一人ひとりが生き生き働けるようにしなければ、組織そのものが続かないかもしれません。そのためには、メンバーを縛ったり、やらなくていい業務をさせたりせず、個人のパフォーマンスを上げることが大切だと思います。
一人ひとりが、仕事をする上で「ライフハッカー」のつもりで働くのもひとつの方法かもしれません。例えば、仕事以外の趣味の時間をつくるために、1時間でできる業務量を50から100に伸ばしたり、これまで1時間かけていたことを30分で終わらせたりという、効率性やパフォーマンスを最大化するような工夫をするのはどうでしょう。働く個人の側だけではなく、経営者側も同じだと思います。経営者は、「この人が8時間でやっている仕事を4時間でやってもらうためにはどうするか?」と考えて工夫するといいですね。
私たちについていえば、出勤に時間がかかる人はサテライトオフィスで仕事ができるようにしました。また、メンバーのほとんどがリモートワークを活用しています。パフォーマンスを上げるためにいらないものはカットしようという意識が浸透しているので、台風の日はもちろん前日からリモートでした。このような意思決定はできる限り素早く行っていますね。
メンバーとの関わり方で大事にしているのは、「この人は私を軽視しないな」と感じてもらえる接し方を心がけることです。リモートワークで離れた場所にいるとしても、メンバーが「仕事をさぼりたくない」と感じるようなコミュニケーションを意識しています。
組織という「車」を、しっかりと「整備」する
――リモートワークを活用していて、難しさを感じることはありますか?
AYA:リモートワークは楽だから取り入れるのではなく、より成果を上げることを目的に取り入れているので、評価の仕方が大切だと思います。「この期間でこれだけの成果が出なければ、仕事の仕方がよくない」という評価ができるようにしています。ダイバーシティも同じではないでしょうか。
企業がダイバーシティに取り組むひとつの理由は、心理的安全性が確保されて気持ちよく活躍できる人を増やす、というところにあります。せっかく採用した人材に、嫌な思いをして働いてもらうのは企業としても良いことがありませんよね。そういった状況ではパフォーマンスも上がりませんし、従業員たちの心が閉ざされてしまうと、そこにコストを割く必要も出てくると思います。
ダイバーシティを重んじ、一緒に働く仲間が余計な心配をせずに仕事に熱中できる環境を整えていくことは、単なる社会貢献だけではなく、「経営のコストパフォーマンス」の話にもつながることだと考えています。例えば職場内のちょっとした発言にしても、従業員の多様なあり方を軽視しないような場所にしていかないと、どんなに優秀な人材を採用しても、すぐに辞めてしまうかもしれません。ご縁があった人と長く働くために必要な考え方のひとつが、このダイバーシティなのだと思います。
――多様なメンバーをマネジメントする上で、心がけていることはありますか?
AYA:組織の中で、価値観のすり合わせは行ったほうがいいと考えています。多くの企業が「バリュー」を掲げていると思いますが、バリューというのは、車の機能と同じで、エンジンとなるバリュー、乗り心地のもととなるバリューなど複数あっていいと思います。例えば、私たちは6つのバリューを持っています。
<株式会社TIEWAのバリュー>
〇 本音の対話なくして、良いプロダクトなし
わかるとおりこの会社のテーマは「対話」。これなくして、良いチームも良いプロダクトもない。迷ったら本音で話そう。(エンジン=踏んでよし)
〇 セーフスペースであれ
違いも、本音の対話も私たちにとっては良い掛け算の材料でしか無い。怖がらないこと。誰もあなたの話を軽視しない。
仲間にとってもユーザーにとっても安心できる場所しか持たない。誰の痛みも無視しない。(サスペンション=乗り心地)
〇 ライフハッカーであれ
効率的に働くために時間を生み出す。無駄な時間や不要な仕組みに支配されない。ライフハックを制するものは労働時間を制す。(ギア=約束ごと)
〇 「伝わっているか」にこだわる
伝わっていない挨拶、謝罪、仕様、思いは意味がない。きちんと「伝わったかどうか」を意識したアウトプット。(ギア=約束ごと)
〇何も知らない自分を知る
常に勉強家であること。「自分はわかっている」と思い込まない。こんな仕事をしているからこそ自分に驕らぬこと。(ブレーキ=行きすぎないところ)
〇迷ったら野心的な選択を
ふつうにおさまっていては、世の中を変えることはできない。世界は、「それなり」を求めていない。(ハンドル=1人で決めるときの指針)
メンバーにとって安心できるスペースであろうとすること、努力しつづける姿勢を会社がとることが大事だと思います。車を安心して運転できて、初めてレースで勝負できるのと同じで、安心して働ける会社でなければメンバーもパフォーマンスは出せないのではないでしょうか。会社を安心できるスペース、居場所のようなスペースにすることは、経営・組織側の課題だと考えています。
また、メンバーと接するときには、その人を決めつけないようにしています。例えば、金髪白人の外見をした方でお箸を使うのが上手な方が箸を使って食事をしたいのに、お店に行くと、外見で判断されお箸を出してもらえないという話を聞きました。そういった決めつけをしてしまわないように、個別の事情は常に変わっていくので、対話を持ち続けることが大事だと思います。私は隔週で30分ずつ、メンバーみんなと1on1を行っています。
男性だから、外国人だから、女性だから…と決めつけず、相手をただ「一人の人間」として扱うことで、メンバーは会社の中に居場所を感じてくれるのではないでしょうか。人間関係の改善や心理的安全性の確保に時間を使わせず、成果にコミットする時間に集中してもらえるように整えることが、私の仕事だと考えています。組織という車は、整えればしっかり走るものだと思います。
小さな工夫で、会社が安全で居心地のいい場所に
――働く個人は、どんなことを意識するといいでしょう?
AYA:「できることを増やす」のは素晴らしいという前提で、自分のやりたくないことや苦手なこと、やると時間がかかってしまう弱みなどを教え合うのはいいことかもしれません。その方が苦手なことや、絶対できないことはやらなくていいように組織をつくることができます。
例えば、うちで仕事をしているADHDの社員は、話を聞きながらメモを取ることが苦手です。でも、私たちはメモを取ることを求めているわけではなく、話した内容を忘れてしまったり、同じことを繰り返し伝えなければならなかったりすることを避けたいだけです。メモはあくまでひとつの手段です。そこで、彼女と打ち合わせをするときは誰かが代わりにメモをとるか、話の合間にメモタイムを取るようにしました。仕事中に、突然後ろから肩をたたかれるなどして話しかけられることも好きではないとわかったので、前に回って声をかけるようにしています。
そんなちょっとした、1分の工夫で、彼女にとって会社が心地いい場所になります。組織でコミュニケーションを取る方法はひとつだけでなく、「上から」「下から」「迂回路」などさまざまな方法で行うことができます。複数の選択肢を作ること、新しい道の発掘に時間をかけることが大事ではないでしょうか。そのためにも、個人の苦手を引き出し、みんなに知ってもらえる環境が必要だと思います。
――小さい組織では細やかな対応ができても、大企業では難しいのではないでしょうか。
AYA:そうかもしれませんが、大企業も小さい組織の集まりと考えれば、基本は同じではないかと思います。大企業でそういった対応ができないのは、これまで社内で活躍してきた人の成功事例が、主に「決められたレールの上で頑張ってきた人」だからかもしれませんね。高度経済成長期には業務もある程度オートメーション化されていて、会社の方針に逆らわず、多少我慢しても決められたことを頑張る人が評価され、出世できる時代だったのでしょう。でも、今は変わってきていますよね。世界的にも、「一人ひとり生き生きと働けるほうがいいよね」という流れではないでしょうか。
――最後にあらためて、ダイバーシティを実現するために、経営者や人事担当者がすぐに取り組めることはなんですか?
AYA:まずは健康診断的に、「この子つらそうだな」と思ったメンバーに向き合うことは良いかもしれませんね。「まずいかも」という兆候を見過ごさず、早めに声をかけること、そしてその人ではなく、組織のシステムに働きかけることではないでしょうか。無意識の偏見もあるので、気をつけなければならないと思っています。「ハロー効果」という言葉もあるように、人を評価するときはバイアスがかかりやすいもの。本質的にみんな偏見があり、何かを決めつけてしまっているということを、リーダーが自覚することから始めてもいいと思います。怖がって目をつぶらず、思い切ってテーブルに上げ、会話してみるといいのではないでしょうか。人と対話することは、人にしかできないのですから。
そしてこれらのことは、企業経営者の自己満足ではなく、成果につなげるために行うのだということも、覚えておきたいですね。目の前の人を大切にして組織運営をすることに、正解やゴールはないと感じています。思考停止せず、組織をよりよくするための効率化にチャレンジすると良いのではないでしょうか。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 一人ひとりが、「ライフハッカー」のつもりで働く
- 組織のメンバーに対し、「この人は私を軽視しないな」と感じてもらえる接し方を心がける。
- 安心して働ける環境を整えれば、メンバーのパフォーマンス向上、経営の効率化につながる。
- まずは健康診断的に、「つらそうだな」と思ったメンバーに向き合って会話する。
【プロフィール】
多様性×マンガメディア「パレットーク」編集長 AYA
1992年生まれ。新卒でIT企業に入社し、ゲーム事業部に所属。その後転職を経て2018年5月に「Palette」を立ち上げ、2019年9月にフォロワー3万人を記念して「パレットーク」としてリニューアル。株式会社アラン・プロダクツで「人の性のあり方・多様性への考え方を変える」事業部の事業責任者を務めた後、株式会社TIEWA代表取締役CEOに。
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