LGBTの求人情報サイトを運営する株式会社JobRainbow。 LGBTを含めた多様な人材をどう活かしていくかが課題となる中、「すべてのLGBTが自分らしく働ける社会の創造」を目指し事業を展開しています。代表の星賢人さんに、今、企業がダイバーシティに取り組む意味についてお話をうかがいました。
LGBTと企業をつなぐプラットフォーム
編集部(以下――) JobRainbowは、これまで社会の中で可視化されていなかった、LGBTの活躍を促すことで、人事領域でダイバーシティの実現を目指していらっしゃいます。何かきっかけがあったのですか?
星賢人さん(以下、敬称略):私は大学生のとき、LGBTサークルの代表を務めていました。トランスジェンダーの先輩が、エントリーシートの「男女欄」の記載や服装の問題で困ったり、面接で「あなたのような方は社内にいないです」と拒絶されたりして、就活がうまくいかず、大学も辞めてしまったということがあったんです。
LGBTであることと、仕事の能力はまったく関係ないのに、社会で活躍すべき人材が活躍できていないのは大きな問題です。個人と社会、双方がWin-Winになるようにという想いで事業を始めました。近年、LGBTフレンドリーな会社が急増していますが、そういった企業の情報を知っているLGBTの方は半数以下といわれているんです。情報を必要としている人がいるのに、必要な情報が伝わっていないという非対称性を解消するため、マッチングプラットフォームを始めました。
私も就活をしたのですが、当時はちょうど就職氷河期が終わったころ。就活がうまくいかなくて自殺する人がいたり、入社したらブラック企業だったりということも多くて、学生のほとんどが「働きたくない」「行きたい会社がない」というモードでした。通勤ラッシュもひどくて、働く人も通勤電車でみんな暗い顔をしているんですよね。通勤を1時間ずらせば少し楽になるのに、わざわざみんな一斉に通勤して、物理的にも精神的にも追い詰められる人がいる。そういう状況を見ていたので、LGBTの問題にかぎらず、働き方についての課題感は強かったですね。
私は、実はとても朝が弱くて、学生時代も遅刻と欠席が多く、決められた枠組みの中で生きるのがしんどかったんです。就職してからも、既存のシステムの中で働くのは嫌でした。就活を始めて、マイクロソフトのサマーインターンに行ったんです。当時からマイクロソフトはフルフレックスで、寝坊してミーティングに遅れても何も言われないんです。「遅刻したせいでキャッチアップできなくて、成果が出なくてもあなたの責任でしょ」と言われるんですね。
アジェンダが少なければ、10分でミーティングが終わることもあるし、ミーティング内で発言していない人は「別にいなくていいんじゃない」と言われたり。働く時間は評価にまったく関係なくて、成果だけで評価される。そういう環境に入ったときに、それでも会社は成り立つし、むしろ生産性の高い人がバリバリ働いていて、最先端だなと思いました。
社内にはLGBTサークルがあって、20~30人が所属して飲み会をやっているんですね。更に衝撃的だったのが、レズビアンの先輩が、会社に申請したら結婚お祝い金も結婚休暇ももらえて、異性婚カップルと同様に扱われてハッピー、みたいな様を目の当たりにしたんです。外資系企業は成果主義ですが、実は個人のアイデンティティもすごく大事にしているんですよね。こういう会社が世界を変えていくんだなと思いましたし、日本でもこういう会社がもっと増えたらいいなと思いました。
LGBTの問題に取り組むことは、マイノリティという意味で、障害者の方や外国人の方、育児をしている方など、あらゆる人材が働きやすい職場を作ることにつながっているんですよね。LGBTの働き方に関わることがダイバーシティ推進の突破口になる。当事者目線と社会的な目線の両方から「この事業には価値があるんじゃないか」と思って、事業を始めました。
LGBTがプライドを持って働ける社会に
――起業されて、大変だったのはどんなことですか。
星:4年前、起業した当時は学生だったので、ビジネスのことがまったく分からず、自分が生きていくだけのお金も稼げない状態が続いて、苦労しました。当初は、LGBTフレンドリーな企業の口コミサイトだったのですが、徐々に広告料をいただく求人広告業にシフトして、事業が軌道に乗ってきたんです。大学院を修了するとき、大手企業から内定もいただいて、事業を続けるかどうか悩みました。
そんなとき、ゼネラルパートナーズの進藤さんと話をする機会があったんです。「私たちの事業は、障害のあるお子さんのいるお客様から『あるだけで勇気をもらっている』と言われたことがある。星君の事業も『あるだけで救われる』方がいる、そういう事業なんじゃない?」と言ってくださって。必要としてくれる人がいるんだから、後悔しないようにやろうと思って、JobRainbowを続けることを決めました。
―――起業されてからの4年間で、LGBTを取り巻く環境は変化したと思いますか?
星:最近は当事者団体の頑張りもあって、新聞などでもLGBTが取り上げられるようになりましたよね。創業当初は企業側の理解を得るのが難しい場合も多かったのですが、今はお声がけいただく機会も増えました。社会全体としてリテラシーが向上した結果、当事者側の意識も変わったと思います。JobRainbowの事業をやってきたことで、その変化に貢献できているという気持ちはあります。
例えばJobRainbowを通じてITベンチャー企業に転職されたトランスジェンダーの方は、入社2ヵ月目くらいで女性として出社し始めました。「こんなふうに働けるなんて夢にも思わなかった。理解のある会社で働けると生産性も上がります」と仰ってくれています。少し前まで、当事者の方でも差別や偏見を内面化していて、「特別扱いされたくない」という場合が多かったんですね。本当にLGBTフレンドリーな企業は当事者を特別扱いするのではなく、平等に扱うということをやっているんですよね。当事者がプライドを持って働くという選択肢を持てるようになったのは、非常に大きなことだと考えています。
LGBTフレンドリー企業の見分け方
――HR全般についても聞かせてください。人材活用について、大切にされているのはどんなことですか?
星:2つの軸、4つの視点があると思っています。ダイバーシティという「全体的な課題解決」と、例えばLGBTなどの「個別具体的な課題解決」、そして、組織の中での「上(経営陣)から」と「下(現場)から」という4つです。
最初の「全体/個別」という軸では、どちらに偏ってもよくないなと思っています。ダイバーシティ全体の課題が放り出されているのに、LGBTに関する課題解決だけやっているのも違うでしょうし、逆に、ダイバーシティ全体についての取り組みをしているけれど、個別具体的なことがぼやけてしまって、当事者目線での取り組みがないのも問題だと思っています。
「上/下」という軸でいえば、組織の上と下、両方の視点から取り組んでいかないと、日本のダイバーシティ課題は解決していかないと思っています。LGBTについても、安心してカミングアウトできる、カミングアウトするかどうかを選択できるような環境を、トップ主導でつくっていく必要があります。一方で、トップだけが旗を振ってもうまく組織に浸透していかなかったり、現場の声をうまく吸い上げられなかったりするので、現場が声を上げて、双方で解決できるようになるのが理想です。これからの時代、社会課題はどんどん複雑化していくので、ほかのマイノリティについても、同様に解決していける手法だと思います。
――中には「形だけLGBT支援をやっている」企業もあると思います。どう見分けていますか?
星:「労働資源としてのLGBT」という考え方をする企業は、そもそもJobRainbowにたどり着いていないと思います。万が一そういうことがあったとしても、当社では、求人を掲載する企業の担当者様に必ずLGBT研修を受けていただいています。また、カスタマーサクセスチームが丁寧にユーザーの声を拾って、ユーザー側からクレームなどがあれば、すぐに企業側に伝えています。
ただ、本当にLGBTフレンドリーな企業を見きわめるのは、かなり難しいことだと思っています。例えば、5万人の社員がいるような大企業では、年代も個人の意見もさまざまな方がいるなかで、一人ひとりの価値観まで変えるのは難しいでしょう。本社に近いところでは理解があるけれど、地方の営業所では古い価値観がぬぐい切れないということもあると思っています。
大切なのは、何かあったときに、セーフティネットとして会社が機能するかどうかだと思っています。例えばLGBTの人が地方拠点でセクハラを受けたとき、就業規則に「差別禁止」の項目が盛り込まれていれば声を上げることができます。会社としてきちんと対応する必要がありますし、人事担当が理解と正しい知識を持っていれば、部署に対する適切な指導もできます。でも、そもそもルールがなければ、何も対応ができませんよね。われわれが考えるLGBTフレンドリー企業は、人事担当者などコアになる方がきちんと研修を受けていて、その後、LGBTフレンドリーであり続けるためにどうしたらいいか、常に探求し続けている企業だと思っています。
――LGBT当事者で転職を考えている方へのアドバイスはありますか?
星:インターンなど、実際にオフィスに行って一緒に働かないと、本当にLGBTフレンドリーな企業なのかどうかはわからないと思います。面接などでお会いするのは、社内のごく一部の方なので。入社を決める前に、内部の方にたくさん会ったほうがいいと思います。客観的な指標としては、離職率を見るといいかもしれません。見せかけだけフレンドリーな企業は、結局どんどん人が辞めちゃうんですよね。LGBTという観点で離職率や働きやすさがわからなくても、障害者雇用や女性活躍推進などに取り組んでいる企業は、マイノリティ人材の活用に関する意識が高いと思います。
サーキュラーHRが人間の幸福を最大化する
――私たちは「サーキュラーHR」という考え方を広めて、人材や人的資源が循環する社会を実現したいと思っています。
星:サーキュラーHRの考え方、私はとてもわかりやすいと思いました。現在の日本の大きな課題は労働力不足、人が雇えないから事業が広がらないということだと思っています。特に介護の現場などは需要過多なので、人=経営資源となっています。サーキュラーHRの5つのコンセプトは、全部進めた方がいいし、これからの時代はどの企業も取り組まざるを得ないだろうと思います。
テクノロジーで課題を解決するというのも、ひとつの方向性かもしれません。これまでは、ロボットを導入するより人を雇う方が安いから、時給800円などの時給で雇っていたのですが、技術の進歩と共に、そこが変わってくると思います。「人間がやるべき仕事は何か」を考えることや、仕事を続けるためのリカレント教育も非常に重要になってきますよね。
「働くこと」は「生きること」そのもの、仕事は人を孤独から解放していくプロセスだと思っています。生きるために働くというよりは、個人の幸福度を最大化していく過程なんですよね。だからサーキュラーHRは、人間の幸福に関わる大切な考え方だと思います。
――サーキュラーHRでも重要な要素のひとつである「ダイバーシティ」を実現するために、企業や組織のリーダーはどう行動すればいいのでしょうか?
星:ダイバーシティは「余裕がある企業がやるもの」とか「無駄なコスト」と考えられがちなんですが、組織をどんどんアップデートして変化に合わせていくことは、結果的に組織を強くします。ダイバーシティに取り組むことを「コスト」と感じる意識から変えていかないといけない。やっていかないと、取り残されてしまうんです。サーキュラーHRも同じで、当たり前に実践していかないといけないと思います。メンバー一人ひとりが、長く働きたいと思える会社作りを私たちも一緒にやっていけたらと思います。
――働く個人として、できることはあるでしょうか。
星:私自身も、「自分らしく働く」ってどういうことだろうとよく考えるんです。電通の過労死事件以来、働き方改革を真剣に考える企業が増えて、ここ数年で働き方もすごく柔軟になってきたなと思っています。だから、もし自分らしく働けていないなと思ったら、自分を縛っている鎖を外して、動いてみてほしいですね。
そういう人が増えるほど、国や企業も変わっていくと思うんです。例えば、最近、企業の人事担当者の方からよく聞くのですが、面接で「LGBTについてどんな取り組みをされていますか?」質問されることが増えているそうです。面接官の方が質問に答えられず内定を辞退されてしまい、それがきっかけでJobRainbowに問い合わせがくることがあります。そういうふうに、行動に移せる人が増えれば増えるほど、国や企業が変わっていくんです。
自分らしくいることは勇気がいるし、リスクが伴うことでもありますが、個人が「きちんと選んで働く」ことで、社会は変わっていくと思います。
――今日は貴重なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- LGBTの問題に取り組むことが、ダイバーシティ推進の突破口になる。
- ダイバーシティに取り組むことは「コスト」ではない。組織をアップデートして変化に合わせていくことが、結果的に組織を強くする。
- 行動に移せる個人が増えるほど、国や企業が変わっていく。
【プロフィール】
JobRainbow代表取締役 星賢人
1993年生まれ。板橋区男女平等参画審議会委員。22才で東京大学大学院在学中に起業。数々のビジネスコンテストにて優勝、フォーブスが選ぶアジアで最も影響のある若者30人(Forbes 30 under 30)の社会起業家部門に日本人として唯一選出。ソフトバンクの孫正義が直々に選出した孫正義育英財団の財団生としても選出。若手起業家として、国内・海外のテレビやマスメディアなどでも注目を集めている。
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