株式会社ヘラルボニー。不思議な名前のこの会社は、「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、「福祉実験ユニット」という事業を展開。障害のある人たちが描いたアートを活かしてファッションアイテムを作ったり、公共施設の装飾に用いたりするプロジェクトを手がけています。
同社を経営しているのは、松田崇弥さん、文登さんの双子のご兄弟。その活動は世界的にも注目を集め、2019年には「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2019」を受賞しています。障害のあるアーティストに活躍の場を創出しながら、インパクトのある発信を続けているお二人は、人や社会の未来像をどのように描いているのでしょうか。お話を聞きました。
障害のある人たちが「かわいそう」といわれる世の中を変えたい
編集部(以下、――) まず、ヘラルボニーを創業したきっかけを教えていただけますか?
松田崇弥さん(以下、敬称略):僕たちは「福祉実験ユニット」と名乗っています。
今、知的障害のある人によるアートが注目されています。障害者自立支援法が制定されたこともあって、障害のある人が描くアート作品の展示会も増えていますが、作品のライセンス、二次使用の方法が定まっていないことも多いんです。そのため、ヘラルボニーではアーティストの作品を預かって、プロデュースやマネジメントを行っています。
もともとアートに思い入れがあって始めたわけではなく、出発点は、知的障害のイメージを変えたいという思いからでした。僕たちは双子なのですが、3人兄弟で、自閉症の兄がいます。生まれたときから兄と一緒に暮らす中で、兄が周りから「かわいそう」といわれることに疑問を持ち、そんな世の中を変えたいと思っていました。その思いが高じて、それぞれが働いていた広告業界とゼネコンを退職して、この会社を作りました。ヘラルボニーというのは、兄が自由帳に記していた謎の言葉からとって、社名にしたんですよ。
ビジネスパートナーとして共に仕事をする
――お二人はどのようなスタンスで、障害のあるアーティストの方々と向き合っておられるのですか?
松田文登さん(以下、敬称略):僕たちは「株式会社」という形態をとっていて、収益を上げ継続性を持って事業をしていきたいと考えています。「社会貢献のため」というフィルターを通して、障害のある人とお付き合いをしているわけではありません。ビジネスパートナーとして、一緒に仕事をしているつもりなんです。
崇弥:その姿勢をドライと感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、人は障害があってもなくても、個性にグラデーションがあるものだと思っています。だからこそ、知的障害があるからこそ打ち出せている世界観だと感じるアーティストと、ビジネスパートナーとして契約を結ばせていただいています。
ビジネスパートナーになる以上、企画の内容もしっかりお話しなければならないと思い、毎回企画書を作って、知的障害がある人に対してプレゼンをする場合もあります。プレゼンの内容がわかるかどうかが問題なのではなく、一人ひとりに向かい合うことが大事だと思うからです。
文登:「これが正解だ」と決めつけず柔軟な感覚がある方々や企業と、一緒に仕事をしたいですね。緩やかな流れで、社会を変えていくことができると思います。
――障害があるかどうかにかかわらず、その方固有の価値に目を向けておられるのですね。
崇弥:アートについては、作者がどんな知的障害があるではなく、「作品がかっこいいから世に出していこう」と思える方と仕事をしています。知的障害は欠落だと思われることもありますが、障害が作品に対する強烈なこだわりを生むきっかけにもなっています。そのこだわりを強みに、絵筆を借りて画面上で力を発揮している方たちです。
文登:子どものころ、兄と一緒に障害のある人をご家族に持つ方たちが集まる団体に通っていました。そこではさまざまな人がいることが当たり前で、それぞれ固有の価値がありました。そのころから、自然と多様な個性に目を向けていたのかもしれません。しかし、一歩外の世界に近づく中学校に入るタイミングで、兄が「障害者」とひとくくりにされるようになり、憤りを感じました。
――SDGsがクローズアップされていることについて、どう思われますか?
崇弥:「知的障害のイメージを変える」という視点からいえば、「自分には関係ない」と思っている方たちに、アートを通じて接点を作ることがしやすくなっていると思います。これからはアートを見てもらうだけではなく、アーティスト本人と会ってもらうことにも取り組みたいです。
自分たちが率先して自己開示する
――障害のある人を含め、人材ごとの価値を活かすために工夫しているポイントがあれば教えてください。
文登:知的障害のある人は、福祉施設、ホテルなどのベッドメイクが上手な方も多くいるのではないかと思います。自閉症の方向けのTEACCH(ティーチ)という自立支援プログラムの中に「空間を構造化させる」という考え方があるのですが、皆さん空間認知のレベルが高いので、仕事のプロセスをできるだけ細分化し、業務も細かく切り分けて任せることで、質の高い仕事をしてもらえます。
また、弊社社員の妹さんが知的障害のある人なのですが、カフェを開いたときに、その妹さんとのコミュニケーションをお客さんが楽しんでくれて、エンタメ的な付加価値となりました。障害のある人でも、できないことをオープンにして、セグメント化することで新しい価値が生まれ、いい仕事ができると思います。
――経営者としては、どんなことを大切にしていますか?
文登:当社の社員は6名(2020年1月現在)で、長年の知人もいれば会社に共鳴してくれて入ってくれた方もいます。社外のパートナーを合わせても10名強で、お互いに仲間としてよく知っているという規模感です。
その中で、一番大事にしていることが「自己開示」です。嬉しいことも、つらいことも、数字なども開示します。自分たちが率先して丸出しに自己開示するから、メンバーも安心して自己開示できると思います。
崇弥:全部見せること、開示や透明性というのは、大きな組織では難しいかもしれません。ただ、大きな組織でも、小さいユニットに分ければ実現できるのではないでしょうか。メンバー全員が、危機感や喜びを共有できる組織になるといいと思います。
文登:自己開示できるようになれば、個人の多様さがあらわになり、障害などのセグメントが消えていくのではないかと思います。マイノリティという概念も変わっていくのではないでしょうか。
――ヘラルボニーは、今後どんな社会の実現を目指しているのでしょう?
崇弥:「障害者」はこの世にいない、個人をあらわす表現ではないという考え方をもっと当たり前にしたい。例えば個人が「自閉症の」とカテゴライズされることがなくなるようにしたいです。40歳になるまでに、障害者が本質的な幸せを追及できるようなグループホームを作りたいと思います。
文登:いまは出会いをつくり、コミュニティ変容を促す時期です。この段階を終えたら、いよいよそこから、障害のある人や多様な個人同士が知り合い、つながっていく出会いの場をつくりたいと思っています。
――今日は貴重なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 障害のある人とも、ビジネスパートナーとして一緒に仕事をするという意識を持つ。
- 例えば空間認知のレベルが高い知的障害のある人には、仕事をする空間をできるだけ細分化し、業務も細かく切り分けて任せるなどをして、人材の価値を引き出す。
- 経営者が率先して自己開示することで、メンバーも安心して自己開示できる。
- 自己開示することで、個人の多様さがあらわになり、マイノリティの概念が変わっていく。
【プロフィール】
株式会社ヘラルボニー代表取締役社長/CEO・松田崇弥
代表取締役社長。チーフ・エグゼクティブ・オフィサー。小山薫堂率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。異彩を、放て。をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。東京都在住。双子の弟。誕生したばかりの娘を溺愛する日々。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。
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