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「今、ここ」に生きることで、個人と組織のレジリエンスが高まる
~Waris共同代表・米倉 史夏インタビュー

2021年6月23日

不確実性が高まるVUCA(ブーカ)の時代。組織にも、個人にも、不測の事態や大きな変化に柔軟に対応する力、「レジリエンス」が求められています。

サーキュラーHRを運営する株式会社Warisは、共同経営者である3人の女性が、東京・福岡・ベトナムとそれぞれバラバラの場所を拠点にしています。以前からリモートワークを基本にしていたので、コロナ禍においても大きな混乱が起こることなく、通常通り業務を継続することができました。

変化に強い組織を作る上で大切なことは何なのか、個人が「偶発性」を味方につけてキャリア形成をしていくにはどうすればいいのか、Waris共同代表の米倉史夏に聞きました。

Warisの起業は「偶然」に近い

稲葉編集長:史夏さん自身のキャリアのお話から聞かせてください。もともと、起業したいという気持ちがあったのですか?

米倉史夏:初めから起業したいと思っていたわけではないんです。会社勤めをしていた頃は、正社員として働き続けるイメージを持っていました。それは私だけでなく、共同代表の3人とも同じです。Warisを創業したことは、ある意味「偶然」に近いかもしれません。

稲葉:どんなきっかけがあったのでしょう。

米倉:一番大きかったのは、やはり子どもが生まれたことですね。Warisが創業した2013年ごろは、子どもを持つ女性が仕事を続けることが、今よりもさらに難しい状況でした。祖父母の助けも借りて、出産前と同じようにハードに働き続けるか、いったん正社員を辞めてライトに仕事を続けるかという極端な二者択一を迫られる女性が多かったのです。

私自身、出産前は、朝8時か9時に出社して、夜9時ごろまで残業するのが当たり前の生活でした。仕事で結果を出すためには、そういう働き方の「型」にはまることが必要だと思っていたんです。子どもが生まれる以前のパフォーマンスを、子どもがいる状態で出し続けることに、大きなハードルを感じました。

幸い、私はそれまでの経験を活かし、時間や場所にとらわれず働ける仕事を知人のつてで紹介してもらいました。この働き方を自分以外の人にも提供したいと思ったのですが、当時はそういうサービスが存在しなかった。だから、自分たちで作るしかないと思ったのです。

稲葉:ままならない状況に直面したときに、起業という新たな選択肢が出てきたのですね。

米倉:生まれてきた子どもは本当に愛おしく、子どもと過ごす時間は幸福に満ちていました。その幸福な時間の一部を割いて仕事をするのならば、自分が心から幸福を感じられる仕事に時間を使いたいと思うようになったのです。子どもが生まれたことで、働くことに対する価値観も変わったのだと思います。

稲葉:出産前は、仕事に対する考え方も今とは違っていた?

米倉:そうですね。以前は、働くことが修行というか、頑張らなければいけないもの、仕事を通じて成長していかなければならないという思いが強くありました。出産後は、自分自身が幸福になれる、社会貢献につながる仕事がしたいと考えるようになりました。人生の大切な時間を、魂を込められる仕事に注ぎたいと。

未来を心配しすぎず、自由に働く人が増えている

稲葉:計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory ※1)という考え方がありますが、史夏さん自身のキャリアも、まさに偶発性の影響を受けていたのですね。

社会環境がめまぐるしく変化する中、個人もこれまでの「型」を破って自由になることが求められると思います。自分で意識して型を破るというよりも、偶然ままならない状況がやってくることが、型を破るきっかけになることも多いのでしょうか。

米倉:日本の場合、特に40代以上の方は、育児や介護など、柔軟な働き方を選ばざるを得ないファクターが押し寄せてきたときに、自由な働き方を求めたという方が多いですね。一方、30代前半の世代は、どうしようもない状況から逃れるためというよりも、最初から自由になることそのものを目的に、キャリア選択をする人が増えていると思います。

稲葉さらに若いZ世代の人たちは、そもそも「型」の存在すら意識していないかもしれません。

米倉:そうですね。私たちが創業した8年前は、育児、介護、病気などを理由に働き方を変えたいというご相談を受けることがほとんどでしたが、今はまったく違う状況です。自分が作ったプロダクトを世界に向けて販売したいので、週1日はそのために時間を使いたい。それ以外の日でできる仕事を見つけたいというようなご相談が、どんどん増えています。

副業解禁の流れにも後押しされ、ここ2年ほどの間に、フリーランスという働き方も市民権を得てきましたよね。

稲葉:外的な要因ではなく、自分自身で働き方を決めていかなければならない時代とも言えますね。今の働き方を変えたいと感じている人が、理想の働き方を実現する上で大切なことは何でしょう。

米倉自由に働き方を選択している人たちの特徴は、「先を見過ぎない」ことだと感じています。転職先を探す前に正社員の仕事を辞めてきたという方とお話して、驚くこともあります。「うまくいかないかもしれない」「失敗したらどうしよう」などと考えすぎることなく、「今、ここ」に生きているのですね。今、すぐに理想の仕事が見つからなかったとしても、「きっと何とかなる」「失敗しても、やり直せる」とリラックスした印象を受けることも多いです。正社員というレールから降りたらもう二度と戻れないという感覚を持つ人は、これからどんどん減っていくのかもしれません。

稲葉:軽やかに変化を楽しめる人がいる一方で、動くことがこわい、現状にとどまりたいという人もいるのではないでしょうか。

米倉大切なのは、シンプルに、自分がどういう状態に幸福を感じるのかを知ることだと思います。今の状態が幸せならば、リスクを冒して変化する必要はないかもしれません。ただ、現状に不満を持っているならば、新しい挑戦をすることもひとつの選択肢です。いきなり会社を辞めなくとも、副業やボランティアなどのプチチャレンジから始めるのもいいと思いますよ。

※1 個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な出来事によって決定されるという理論。米スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した。

「個人の尊重」と「経済合理性」に照らして課題を解決していく

稲葉:組織の変化についてもお話していきたいのですが、Warisはとても変わった組織ですよね。女性3人で起業することも異例なら、その3人が東京、福岡、ベトナムとバラバラの土地に拠点を置いていることも面白いです。こういった組織のあり方も、やはり偶然生まれた形なのですか?

米倉:そうですね。最初はノープランだったので(笑)河が福岡に移住することも、私自身がベトナムに行くことも、社員全員がフルリモートで働くことも、まったく想定していませんでした。

初めは田中と私の2人でスタートしたのですが、必要なときだけ顔を合わせて、あとはお互い好きな場所で仕事をするという距離感が、とても心地よかったんです。その後ジョインしてきたメンバーが、23区内に毎日通勤するには遠い場所に住んでいたこともあり、合理的に考えて、リモートで働いてもらうことにしました。想定外のことが起こるたび、「一緒に働いていくにはどうしたらいいかな」と考えてきた結果、今の形にたどり着いたという感じです。

稲葉:メンバーが増えてもリモートワークをベースに信頼関係やつながりを築いていたので、コロナ禍でも、組織体としての打撃が少なかったという印象を持っています。

米倉:そうですね。ミーティングもリモートベースで、契約書の捺印もクラウド上で、という体制を整えていたことが、コロナ禍というイレギュラーな事態に直面したときに功を奏したと思います。信頼感を維持しながら、ほぼ通常通り業務を進めることができました。

稲葉:変化に強い「レジリエンス」を持った組織を作る上で、大切なポイントはどんなことだと思いますか。

米倉:たとえばWarisという組織の軸にあるのは、「個人の尊重」と「企業としての経済的合理性」です。課題に直面したときには、その2つに照らし合わせて、どう解決していけるかを考えます。もちろん、新たなチャレンジをすることもたくさんあります。

稲葉:チャレンジすると、やはり失敗することもありますよね。

米倉:もちろんです。私たちの働き方も、初めからうまくいったわけではありません。ミーティングひとつとっても、オフィスにいる人と、リモートで参加している人の間で情報の理解度に齟齬が生じてしまうという問題がありました。最終的に、全員オンライン参加にすることで解決したのですが、すべての課題について一つひとつ、トライアンドエラーを繰り返しながら今の状態を作ってきました。

組織が変わろうとするとき、すべての条件が完璧にととのうことはまずありません。大きな変化は、良い結果だけでなく、必ず何らかの歪みをともないます。そのときに、既存の価値観を捨てることができるかどうかが肝心だと思います。既存の枠組みを壊して新しい仕組みを取り入れれば、何かを捨てることになる。最初の段階でその覚悟をもてるかどうかで、組織の柔軟性が変わってくるのではないでしょうか。

先を予測しすぎず、何か起こったときに解決策を考える

稲葉史夏さんはベトナムに住んでいますが、変化に強い組織づくりという意味で、海外に身を置いて感じることはありますか?

米倉:こちらで知り合った経営者で、語学学校のビジネスを手がけているドイツの方がいるんです。ビジネスを多国籍に展開するため、メンバーも多国籍で、アジア、ヨーロッパ、南米など世界各国に散らばっています。時差があるからミーティングを設定するのも大変だそうなのですが、「困ったことが起きたらその都度解決策を考える」というスタイルで、もう15年も事業を拡大しています。

<ホーチミンのタンディン教会

稲葉:制約や制限がある中でも、組織のレジリエンスを育てることはできるのですね。

米倉:ベトナムの人たちが大事にしている考え方に「Vui(ブイ)」という言葉があります。直訳すると「嬉しい、楽しい、陽気な」というほどの意味なのですが、先に起こる変化を心配しすぎず、過去を振り返らず、「今、ここ」を大切に生きようというニュアンスで使われます。

稲葉:どこか、マインドフルネスの考え方にも通じるものがありますね。

米倉:ベトナムの人たちはバイクで移動することが多いのですが、よく見ていると、大量の荷物や、横に何メートルも広がる棒など、日本では考えられないようなものを平気で積んで、道路を走っているんです。今にもぶつかりそうで、ハラハラしてしまうのですが、「ぶつかったら、そのときに考える」という価値観なのですね。平均年齢約30歳、経済成長率がおよそ7%という若く勢いのある国柄もありますが、変化を予測しすぎず、前に進むことを大事にしているのだと思います。高度成長期の日本にも、少し似ているかもしれません。

先のことを考えすぎず、まず事を起こしてみる。チャレンジして、何か起こったらそのときに解決策を生み出すというマインドが、現在のように変化の激しい時代こそ、役に立つのではないでしょうか。

<サーキュラーHRへのヒント>

  • メンバー全員フルリモート、3人の共同代表がそれぞれバラバラの拠点で働くというWarisの組織は「偶然」から生まれた。
  • 既存の型に縛られず、自由に働き方を選択している人たちの特徴は、「先を見過ぎず今、ここ」に生きていること。
  • 変化に強い組織を作るには、先を予測しすぎず、課題が生じてきたときにその都度解決策を生み出すという考え方もひとつの選択肢である。

【プロフィール】

株式会社Waris 代表取締役/共同創業者

米倉 史夏

米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラー。1975年生まれ。1999年に慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、日本輸出入銀行(現国際協力銀行)入行。企業の海外直接投資に関する調査に従事。その後、株式会社ボストンコンサルティンググループにリサーチャーとして入社。ヘルスケア業界を担当し、医療、製薬業界の調査・分析業務に携わる。2007年に株式会社リクルートへ転職。医療領域の新規事業立ち上げ、ブライダル事業の事業企画業務に従事。2011年に取得した、米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラーの資格を生かして女性のキャリア支援に携わりたいと考え、2012年にリクルートを退職。2013年に株式会社Warisを設立。2019年2月よりベトナム・ホーチミン市在住。

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