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地方から起こすDX革命 働く時間をもっと幸せに
~株式会社ウチダレック・内田光治さんインタビュー

2021年10月25日

鳥取県米子市の「ウチダレック」。創業50年を超え、地域に愛される不動産会社です。2016年に始めた経営改革により、不動産業界初の週休3日、営業利益2.5倍を達成し、今、全国から注目されています。

生産性が高く、働きやすい組織をどうやって実現してきたのか。取締役の内田光治さんにお話を聞きました。

社員が本来優先するべき仕事に集中できる環境をつくる

ーーはじめに、ウチダレックはどんな会社なのか教えてください。

内田光治さん(以下、敬称略):鳥取県米子市で、1969年に私の祖父が創業した不動産会社です。仲介業から始めて、現在の代表取締役である父の代で、建物の管理や建築、プロパンガス販売などにも事業を拡大しました。私は東京のIT企業で働いていたのですが、29歳だった2016年に退職して、地元へ戻りウチダレックに入社しました。

ーーなぜ、ITを活用した改革をしようと思ったのですか。

内田:きっかけは、社員たちが、本来優先するべき仕事以外のことに忙殺されている様子を目の当たりにしたことです。たとえば、お客様の情報や契約の状況も紙の資料やエクセルで管理されていて、探すのに時間がかかっていました。業務がそれぞれ属人化していて、お互いに誰が何をしているのかわからないという問題もありました。

私たちが取り組むべきは、物件の資産価値を上げるための提案をしたり、よりよい物件を紹介するための努力をしたりすることです。それ以外のことに時間をとられるのは、会社にとっても、社員にとってもよくないと思いました。

ーー具体的に、どんなところから変えていったんですか。

内田:まずは私自身が、各部署の業務を実際にやってみて、業務プロセスを洗い出すところから始めました。その結果、無駄な工程が多いことがわかってきたのです。まず、やりやすい部分からDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていこうと思いました。社員のスケジュールを書き込むホワイトボードを、クラウドツールに移すところから始めたんですよ。

情報を見える化して、特定の社員しかわからない業務をなくすことにも取り組みました。属人化した仕事を減らすモチベーションを上げるために、「7日間以上リフレッシュ休暇を取得した社員には3万円を支給する」という制度も作ったんです。

ーーすごい! それはうらやましい制度です!

内田:来店アンケートや物件の申し込みもデータ化することで、お客様のニーズを把握するだけでなく、来店の傾向も分析できるようになりました。従来は2つの店舗でそれぞれ火・水曜日を定休日にしていたのですが、分析の結果、水曜日のお客様の数が多いことがわかったので、定休日を金曜に変えたのです。一般的に不動産会社は水曜日を休みにしていることが多いので、定休日をずらすこと自体が他社との差別化につながり、来店者数も増加しました。

社員の半分が退職しても、改革をあきらめなかった理由

ーーデータを見ながら、どんどん戦略も変えていくのが素晴らしいですね。社内から、とまどいの声や変革への抵抗はなかったですか。

内田:もちろんありました。当初は改革に否定的な社員が多く、結果的に社員の半分が退職してしまったんです。スケジュールをクラウドに変えてからも、操作に慣れていないなどの理由からなかなか入力してくれない人もいて。紙のノートに質問を書いてもらって私が答える、交換日記のようなアナログな方法も使って、根気強くサポートしていきました。

ーー会社を支えていたメンバーも辞めてしまう中、心が折れそうになることはなかったですか。

内田:折れそうになりましたね。でも、米子市では特に当社のメインのお客様である20〜30代の人口がどんどん減少していて、今後さらに減り続けることが予想されます。これまでと同じやり方を続けていたら、いずれ苦しくなることが目に見えているのです。今のうちに生産性の高いやり方に変えておかなければならないという思いで改革を進めました。

ーー改革を経て、会社にはどんな変化がありましたか。

内田:ITの活用について前向きなメンバーが残ってくれて、社内の雰囲気も明るくなっていると思います。人数は減りましたが生産性が上がったので、繁忙期ではない時期は、週休3日、残業ゼロを実現することもできました。

ーー結果的に、働きやすい環境も実現できたのですね。

内田:そうですね。DXによって空いた時間で組織を組み替えて、より効率よく仕事ができるようにしました。たとえば、以前は営業担当者がお客様のヒアリングから物件の現地案内、契約書の作成まですべてをひとりで担当していました。引っ越しのシーズンには、1日4人程度のお客様の現地案内をするのが精一杯。夕方6時ごろから契約書を作り始めて、仕事が終わるのは日付が変わるころということもありました。

このような状況を解消するために、まず契約書を作る専門の部署を立ち上げ、書類作成業務を一元化しました。物件案内についても、以前は1件につき2時間程度かかっていました。この時間を短縮するため、まず30分程度のヒアリングで内見する物件を決めた後、社員が同行せずお客様にタクシーで内見をしてきていただく「タクシー内見」を導入したのです。これにより、1日に対応できるお客様の人数が7〜8人に増え、生産性が大幅に向上しました。

まず仕組みを変え、行動が変わるとマインドも変わる

ーー不動産業界にとって革新的な改革ですね。

内田:このノウハウを他社の方々にも役立ててほしいと思い、「カクシンクラウド」という賃貸管理システムを開発しました。現在、約50店舗で導入していただいています。

ーーウチダレックから始まった改革が、全国に広がりつつあるのですね。内田さんはいろいろな企業をご覧になっていると思うのですが、効率化がうまくいく会社と、なかなか進まない会社の違いはどんなところにあると思いますか。

内田:カクシンクラウドの導入を決めてくださる企業は、皆さん効率化に前向きです。ただ、当社がそうだったのと同じように、社員の方がなかなかスケジュールを入力してくれないというような課題が、初めは必ず起こってきます。

ーーそんなときは、どうやってサポートするのですか?

内田:軌道に乗るまでは、入力しているかどうかをこちらでチェックして「入力してくださいね」とご連絡するようにしています。使い方のご説明なども随時行っています。

ーー経営者が改革すると決めても、社員の方々のマインドを変えていくのは、なかなか大変そうです。

内田:マインドから変えようとすると、難しいのではないでしょうか。順番としては、仕組みを変えるのが先だと思っています。仕組みが変わると行動が変わりますし、行動が変われば、結果としてマインドも変わってきます。

たとえばホワイトボードを撤去してクラウド化すれば、いずれみんながカレンダーを共有するようになります。「どこでも確認できて、とても便利」と感じてもらえれば、ITを活用していく土壌ができたことになります。最初から大きく始めようとせず、取り組みやすいところから一歩ずつ仕組みを変えて、少しずつ広げていくやり方がおすすめです。

DXの成果が出たら、その都度振り返って成果を共有することも大切です。紙の資料をなくした結果、こんなに効率がよくなり成約率も上がったということが数字で目に見えれば、自然に取り組みたくなるのではないでしょうか。

生産性を上げることが、多様な人材の働きやすさにつながる

ーー私たちは「サーキュラーHR」というプロジェクトを通じて、誰ひとり取り残さない社会の実現を目指しています。

内田:この考え方が広まったら、「働く」ということが、世の中全体でもっと幸せになっていくんじゃないかと思いました。

ーーありがとうございます! 原則週休3日で残業がないウチダレックさんの働き方は、ダイバーシティの観点からも、多様な人が働きやすい環境だと感じます。

内田:1日の中で、仕事をしている時間は大きな割合を占めていますよね。働く時間が幸せだと、人生がもっとハッピーになると思うんです。子育て中の女性など、働きたくても働けない状況にあった人が、もっと力を発揮できるようになるといいですよね。

ーーウチダレックでは、子育て中のメンバーも多いのですか。

内田:そうですね。従業員の6〜7割が女性で、子育て世代も多いです。それぞれの事情に合わせて、フルタイム正社員や契約社員、パートタイム、業務委託など、雇用形態もさまざまです。職種によって、毎日出社している人もいれば、ほぼリモートワークで働いているメンバーもいます。業務の生産性を上げるための取り組みが、結果的に育児中の方でも働きやすい環境につながっているのだと思います。性別にかぎらず、人生にはいろいろな時期があるので、状況に合わせて柔軟に働けるような仕組みにしたいと考えています。

ーー業務委託のメンバーに仕事を任せる際には、業務の「切り出し方」も重要ですね。

内田業務のプロセスをひとつずつ見直して整理していくことで、外部に任せられる業務とそうでない仕事が見えてくると思います。カクシンクラウドのサービスでも、業務を整理するところからお手伝いすることが多いです。また、不動産業では個人情報の取り扱いが重要なので、どの情報をどこまで開示するか、ITを活用して線引きをしています。

ーーお話をうかがって、ウチダレックさんは、まさにサーキュラーHRを体現している企業だと思いました。今後、会社としてどんなことを目指していきたいと考えていますか。

内田:従来の不動産業界は、残業が多くて休みが取りにくく、離職率も高い、いわゆるブラックな職場のイメージがありました。でも、進学や就職、結婚など、一生に何回かしかない大切な人生の転換点に立ち会うことができる、やりがいのある仕事だと思うんです。DXにより業務を効率化して、働きやすい環境が実現することで、もっともっといい仕事ができるようになり、業界全体のイメージも明るいものになっていけばいいな、と思っています。

ーー不動産業界の明るい未来が見えてくるような素敵なお話、本当にありがとうございました!

<サーキュラーHRへのヒント>

  • 鳥取県米子市の不動産会社「ウチダレック」では、DXによる業務改革を進め、週休3日、コスト40%減、売上20%増を達成した。
  • 当初は改革に否定的な社員が多く、結果的に社員の半分が退職してしまったが、根気強くサポートし、DXの成果を共有しながら少しずつ仕組みを変えていくことで、大きな成果を上げることができた。
  • 業務の生産性を上げるための取り組みが、結果的に多様な人材が働きやすい環境につながり、さまざまな雇用形態の人材が活躍している。
  • 業務のプロセスをひとつずつ見直して整理していくことで、外部に任せられる業務とそうでない仕事が見えてくる。

【プロフィール】

株式会社ワークデザイン代表取締役/株式会社ウチダレック専務取締役 内田光治 

慶應義塾大学経済学部を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。

楽天株式会社、フィンテックのベンチャー企業株式会社ネットプロテクションズを経て、株式会社ウチダレックに入社。繁忙期の深夜残業、業務の属人化を目の当たりにし、地方の人口減少下においても働きやすい企業を目指し業務改革を実行。不動産業界初の週休3日を導入、同時に営業利益2.5倍を達成。

【内田さんの近著】

サーキュラーHR~「人材ロス」ゼロ社会を目指して~

Warisプロフェッショナル~ビジネス系・女性フリーランス × 企業のマッチングサービス~

Warisワークアゲイン~女性のための再就職支援サービス~

Warisキャリアエール~フリーランス女性のためのキャリア伴走サービス~