サステナビリティや、ダイバーシティへの先進的な取り組みで注目を集める丸井グループ。制度面のみならず、人材の多様性を自然に受け入れる風土が社内に根付いているといいます。ダイバーシティを実現するためどんな工夫をしてきたのか、人事部の山崎さん、遠藤さんに教えていただきました。
※取材は6月下旬、オンラインで実施しました。
上司の一言で、男性の育休取得率が3年連続100%に
編集部(以下、――):丸井グループがダイバーシティに取り組むきっかけは、どんなことだったのでしょうか。
山崎さん(以下、敬称略):バブルが崩壊して、会社の業績が悪化していたころ、取締役や部長など幹部の男性たちが、連日夜遅くまで会議をしていたことがあったそうです。現在代表取締役を務めている青井が「もしかして、同じ性別、年代の人たちばかりが集まっているこの会議こそが、業績の回復を妨げているのではないか?」と気づいたことが、ダイバーシティに取り組むきっかけのひとつになったと聞いています。
最初は、女性活躍推進の取り組みからスタートしました。2013年、国が策定した「202030(2020年までに指導的位置に女性が占める割合を少なくとも30%程度にするという目標)」を受けて、社内プロジェクトがスタートしました。2014年には、女性活躍の重点指標として「女性イキイキ指数」を設定。育休取得率などの意識改革や、女性リーダー数など制度づくりの両輪で取り組みを進めてきました。
――女性活躍について、具体的にはどんな取り組みをしているのですか。
山崎:たとえば、育休からフルタイム復帰する前の社員に集まってもらい、マインドセットをする機会を設けています。当初は女性だけだったのですが、前回からパートナーの男性もどうぞと呼びかけて、一緒に参加してもらっています。参加した男性からは、男性同士の交流や意見交換のきっかけになったと好評でした。
また、当社は3年連続で、男性育休の取得率100%を達成しています。これは小さなきっかけで、大きな成果が得られた取り組みなのですが、上司から男性へ出産お祝い金を渡すときに「おめでとう。それで、育休はいつ取るの?」と声かけをしてもらうようにしたのです。その結果、男性は育休が取りにくいという雰囲気を払拭することができました。期間は特に定めていないのですが、半年以上の長期で休む社員も出てまいりました。
性別も、年代も多様な人材が組織を活性化する
――女性活躍以外の分野では、どんな取り組みがありますか。
山崎:家族の形も、今後ますます多様化が進んでいくと思います。当社も2018年から、配偶者制度を変更しました。従来は法律婚を前提としていましたが、現在は同性婚を含む事実婚の方も、申請すれば社内の福利厚生制度の対象となります。同時に配偶者という言葉から、「パートナー制度」という名称に変更しています。
当社の場合、以前から東京レインボープライド(TRP)に参加するなど、まず社内の風土を醸成し、その上に制度を設計するという考え方でダイバーシティを進めています。
<「東京レインボープライド2019」出展ブース>
――女性活躍からスタートして、さまざまな分野でダイバーシティを推進しているのですね。
山崎:はい。年代や性的指向、身体的特徴など、さまざまな観点からダイバーシティを実現するための取り組みを行っています。性別役割分担意識を乗り越えるための取り組みや、人生100年時代の働き方を考えるプロジェクトなども進行中です。社内で実施しているダイバーシティ研修の受講率も6割を超えました。
2016年には、丸井グループのダイバーシティへの取り組みをまとめた「ダイバーシティブック」を作成しました。その中でも最初のページに、トップのメッセージとして「多様性は楽しい」という言葉を載せています。性別や年代が多様な人材が集まることで、組織全体がイキイキと成長していくと考えています。
当事者との対話を通じ、ダイバーシティの風土を育てる
――先ほど、ダイバーシティの「風土づくり」についてのお話がありましたが、社内にダイバーシティを根付かせるために、何か工夫していることはありますか。
遠藤さん(以下、敬称略):2015年からほぼ毎月、「中期経営推進会議」という会議を行っています。今後の経営にとって重要となるテーマについて考える場で、ダイバーシティがテーマとなることも多いのですが、参加希望者は手を挙げて意思表示をすることになっています。会場の関係上、約300人が定員なのですが、毎回1,000人前後の応募があり、応募文を書いて選抜されたメンバーが参加し、活発な対話が行われています。
――1,000人とはすごいですね! 会議はどんな内容なのですか。
遠藤:社長の青井とも話し合い、各界の著名な方々をお招きしています。たとえば、ユニバーサルデザインに取り組むミライロの垣内俊哉さんに登壇して頂いて、車椅子のお客様との接し方を学んだり、TRPの共同代表理事である杉山文野さんをお招きしてLGBTQについてのお話を聞いたこともありました。
そういった場で当事者の方のお話を聞いたり、対話したりすることを通して、お客様がどんなことで困っているのか、丸井グループに何を期待するのか、社員も体感として知ることができ、自分たちで考えるきっかけになっていると思います。
――会議で聞いたこと、話し合ったことが、実際の行動につながっていくのですね。
遠藤:たとえば就職活動をしているセクシャルマイノリティの方が、小さいサイズの男性用スーツを着たいと思っても、ちょうどいいサイズが見つからないというお声を受け、複数の店舗で予約販売を実施したことがありました。
就職活動用のスーツ、それもこれまでになかったサイズを新しく作ることは在庫ロスにもつながりかねないので、通常のメーカーや百貨店であれば、社内決裁を通すことがなかなか難しいのではないかと思います。当社の場合、ダイバーシティを大切にする風土が経営層から現場まで浸透しているので、反対の声などが上がることもなく、スムーズに実現することができました。
山崎:実際に新たな企画をしてみて、気づいたこともありました。お客様から、とてもいい商品だけれど、私が本当に欲しかったのは「男性用のジャケット+女性用のパンツ」という組み合わせだとお声をいただいたのです。新たな挑戦としてやってみようと取り組みを始めています。当社の特徴として、お客様の率直な声をバイアスなく受け止め、実現していこうとする風土は大きな特徴になっていると思います。
すべての人が「しあわせ」を感じるインクルーシブな社会へ
――丸井グループでは、スタートアップへの出向制度も設けているそうですね。
遠藤:はい。実は私自身が、ファッションテックのスタートアップに1年ほど出向していました。人事や法務、労務など、管理部門全般を構築する役割を担ったので、勝手がわからず最初は戸惑うこともありましたが、未知のことにどう対応するのか、経営者の目線に近いところで経験することができ、非常に勉強になりました。
私の場合は管理部門への出向でしたが、今後一緒に事業を創っていくスタートアップとの協業を見据え、営業や接客販売の分野でも、ここ2~3年で累計30~40名が出向しています。当社は中途採用数があまり多くないので、社員が異なる企業文化や価値観に触れるという意味でも、意義のあることだと考えています。
――これからダイバーシティやインクルージョンに取り組もうと考えている企業の担当者の方に向けて、何かアドバイスはありますか。
山崎:先ほどもお話しましたが、やはり、どうすれば社員みんなが働くことを楽しめるかという視点で考えることが長続きして定着させるコツかなと思います。ダイバーシティの施策は、やろうと決めてから半年で実現するというようなものではなく、じっくり時間をかけて実現するものだと考えています。1年、2年、場合によっては5年くらいかけて、「風土」「文化」として育てていくことが大切なのではないでしょうか。
遠藤:当社のダイバーシティが進んだ大きな要因のひとつに、トップの意識の高さがあげられると思います。まずトップを巻き込み、ダイバーシティを経営課題のひとつとして浸透させていくという進め方が有効なのではないでしょうか。
――ダイバーシティ、インクルージョンについて、今後グループ全体として目指す方向、またお二人の個人的なお考えをそれぞれ教えていただけますか。
山崎:丸井グループでは、「すべての人が『しあわせ』を感じるインクルーシブで豊かな社会の実現」をミッションとして掲げています。どのようにそこへ向かっていくか、社員一人ひとりが考え、行動できる形を実現していきたいです。
ダイバーシティが「みんな違ってみんないい」ということだとしたら、インクルージョンは、その個性がさらに入り混じって、それぞれの色を残しながらも新しいものを創り出していくことなのではないかと考えています。そんな社会を実現したいというのが個人的な思いですね。
遠藤:丸井グループでは「ファイナンシャル・インクルージョン」をビジョンのひとつとして掲げています。既存の金融ではサービスが行き届かなかった方たちにもお金を届けるということなのですが、一人ひとりにどれだけ寄り添い、信頼して融資をすることができるのか、誰も取り残さず手を伸ばしていきたいと日々考えながら仕事をしています。
人事にもマインドチェンジが求められる時代
――私たちは「サーキュラーHR」というプロジェクトを通して「誰一人取り残さない社会」を実現したいと考えています。率直なご感想など、聞かせていただけると嬉しいです。
遠藤:先ほど私がお話したことにも通じる部分があって、とても素敵なコンセプトだと思いました。当社では、共通の人事制度の下、グループ会社間を異動する「職変」という制度があります。たとえばこの制度は、グループ内での人材の循環、「雇用の流動化」に当たるのかなと感じました。一般的な企業の正社員であれば、長い間同じ部門で働き続けることも多いと思うのですが、このような形であれば、これまでの自分の仕事をまったく違う視点で見ることができ、メリットが大きいと感じています。
山崎:サーキュラーHRの考え方には私も共感しました。日本企業はどうしても人材が硬直しがちなので、循環させていく必要があるということは、個人的にも感じています。フラットな組織をつくっていくという意味では、外部人材を取り入れることも、ひとつの選択肢なのかもしれないと思います。
――新型コロナウイルスの影響で、社会情勢が大きく変化する中、これからの人事はどのように変わっていくとお考えになりますか。
山崎:マインドチェンジをする時期、転換期だと感じています。以前は平均して月2回程度だった当社のテレワーク率も、現在は6割を超えています(2020年4月現在)。前例にとらわれず、今までの働き方や制度を大幅に見直す時期に来ているのではないでしょうか。
遠藤:これまでも当社は、社員一人ひとりの声を聴きながら、人事制度や評価制度を作り上げてきました。社員と対話しながら、実態に合わせて柔軟に制度を変えていくのが、人事の役割ではないかと思います。
――今日は貴重なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 上司から男性へ出産お祝い金を渡すときに「おめでとう。それで、育休はいつ取るの?」と声かけをすることで、男性育休の取得率が3年連続100%に。
- 社内会議にゲストを招き、障がいのある人や、LGBTQの当事者との対話を通じて、ダイバーシティの風土づくりを進める。
- 店づくりや商品企画においても、お客様のダイバーシティ&インクルージョンを大切にする。
- どうすれば社員みんなが働くことを楽しめるかという視点で考えることが、ダイバーシティを定着させるコツ。
【プロフィール】
株式会社丸井グループ 人事部 ワーキング・インクルージョン推進担当 山崎美樹子
1997年に(株)丸井グループへ入社。婦人服販売などを経て、婦人服バイヤー、婦人服PB企画・生産・販売の責任者を担当しお客様ニーズの実現に取り組む。2018年より現職にて、社員のダイバーシティ&インクルージョンの推進に携わる。
株式会社丸井グループ 人事部 人事課長 遠藤真見
2006年に(株)丸井グループへ入社。スポーツ用品販売・カード発行業務に始まり、財務部・経営企画部・IR部等で決算業務、中計策定、投資家対応などを経験。2019年には外資系スタートアップ企業へ出向し、経理・総務・法務・労務の統括として会社の管理部門を構築。2020年より現職にて、新たな人事戦略や人事制度の改善を模索中。
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