「『サーキュラーHR』ってどういう意味?」
サーキュラーHRの事業を始めるにあたり、運営会社のWaris社内でも、こんな疑問が飛び交いました。この記事を読んでくださっている皆さんも、きっと同じ疑問を抱いているのではないでしょうか? そこで今回は、「サーキュラーHR」という新しいメディアの立ち上げに込めた想いを、編集長・稲葉哲治にインタビューしました。
今、「サーキュラーHR」を立ち上げる理由
編集部(以下、――) まずは、てつさん(編集長)がサーキュラーHRを立ち上げようと思った理由をあらためて教えてください。
稲葉:もともと、僕は「エシカル」といって、「人と社会のサステナブル(持続可能)な関わり方を、ファッションや食を通じて応援していこう」という活動を7年ほどやっていたんですね。具体的には、環境に配慮したものづくりをしている企業の商品を積極的に買うとか、社会貢献活動を行っている企業を支援するということです。
エシカルという言葉が日本に入ってきたのは2012年末ごろです。当時、僕は人事関係の仕事をしていたのですが、学生たちに教えてもらって初めて知りました。これからの社会では、あらゆる領域でエシカルが主流の考え方になると直感し、そちらに軸足を移していきました。
「人事領域でエシカルを広めていきたい」ということも、実は2013年くらいから考えていて、本業として人材系のメディアで働くかたわら、構想を練っていました。「人的資源」という表現に抵抗がある方もいると思いますが、僕は初職でセゾングループの人材会社に入ったころから「人材とは一番価値のある資源だ」と教えられてきました。その人という「資源」を、使い捨てるのではなく、社会の中で育て、持続的に活躍できる仕組みを整えていくことが必要で、それはエシカルの活動と、根本的に同じだと感じていたからです。
ここ数年、人事関係の方々の間で、エシカルへの関心が高まっていることを感じます。人事としてお仕事をされている方々は、社会の変化にとても敏感です。今こそ、循環型社会に関心のある人事の方をもっと巻き込んで、この価値観を広めたいと考えたんです。
――そんな流れの中で、2019年1月、Warisにジョインしたんですね。
稲葉:そうですね。エシカルに関心のある人事関係者の集まりを個人的にやってきて、一定の手ごたえを感じていました。もっと具体的な形にしたいと思ったタイミングで、Warisに入社しました。Warisは僕がこれまでやってきたことと、すごく近い価値観の中で事業を行っている会社だと感じたんです。メンバーと「エシカル+人事」について議論を重ねる中で、「事業化しよう」「まずはメディアとしてこの世界観を広めていこう」というところに行きつきました。
なぜ「エシカル人事」ではなく「サーキュラーHR」なのか
――メディアの名称を「エシカル人事」ではなく「サーキュラーHR」としたのはなぜですか。
稲葉:「エシカル」ではなく「サーキュラーエコノミー」と関連づけようと思ったのは、現行のシステムの中で行動を変えるのではなく、社会全体の変革が必要だと思うようになったからです。
人材業界ではSDGsという言葉が流行していますが、残念ながら多くの企業でSDGsが単なるチェックリストになっていて、行動につながっていないことに違和感を持っていました。「このポイントはわが社でも達成できている」「この事業部はここができてないからだめだ」という議論はあっても、「自分たちが当事者だ」ということまではなかなか行き着かないのが現状だと思うんです。
もちろん間違いではないのですが、やはり現行のシステムの中での行動規範を示しているエシカルやSDGsよりさらに高い次元のもの、社会全体を変革する原動力になる価値観が必要だと感じたんです。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、これまで「廃棄物」とされていたもの、活用されず捨てられていたものを「資源」として活用することで、ものと経済を循環させる新しい仕組みのこと。地球環境や経済に持続可能性を持たせなければ、ビジネスを続けることが難しくなるという危機感から出発しています。ビジネスモデルや社会システム自体の変換を促す考え方なんです。
ヨーロッパを中心に、ビジネス界で当たり前の価値観になりつつあるのですが、日本では、まだほとんど知られていません。日本企業もサーキュラーエコノミーの考え方を取り入れていかないと、気づいたら世界経済の蚊帳の外……という状況になりかねないです。
そんな危機感もあり、サーキュラーエコノミーによって経済システムが大転換した後の人事制度がどうなっていくのかを考え、見てもらうことが社会の変革を早めると考えました。企業で人事に関わっていて「エシカル」や「サーキュラーエコノミー」を知らない方はまだ多いと思います。循環型経済がスタンダードになったとき、既にその価値観を取り入れていれば、ビジネスにとって大きなアドバンテージになります。「サーキュラーHR」を通じて、まずは人事の方たちと未来のビジョンを共有して、つながっていきたいですね。
「誰一人取り残さない」未来を創るために
――サーキュラーHRが描く未来とは、どんな世界なのでしょうか
稲葉:いろんな未来像があると思っていますが、その中でとてもとても大事だと思っているのが、「誰一人取り残さない」ということ。世界の人口は、現在70億人ですが、数年後に100億人を超えるといわれています。100億人と、動植物まで含めた個々の幸せを尊重しきることを目指していかなければならない。これから生まれてくる人たちも含めた、地球上のすべての人が「Live Your Life」できる世界を、絶対にあきらめないことが何よりも大切だと思います。
――具体的には、どうやって実現したらいいのでしょう?
稲葉:「みんなでみらいを」という「使えば使うほど地球がキレイになる化粧品」を作っている方がいます。発酵食品を使っていて、水に流しても環境への悪影響がないというものです。その方が「“未来の当たり前になるもの”を作れば絶対にビジネスとして成功する」と仰っていました。
僕はこの話がとても好きなんです。「未来の当たり前はこういうことです」と一人ひとりにイメージしてもらう、「自分ごと化」が重要だと思います。サーキュラーHRというメディアをきっかけに、半径1mの世界でできることを見つけてもらう、一緒にやっていくことで社会を変えていきたいですね。
――「仲間を増やす」ことがひとつのキーワードになりそうですね。
稲葉:まさにそうですね。このメディアを通じて、「私たちがやっていることってサーキュラーエコノミーの一部だったんだ」と知ってもらえたら嬉しいですし、「この人がやっていることなら取り入れられそう」と身近に感じてほしいです。
そのためにサーキュラーHRでは、サーキュラーエコノミーに関心のある人や、サーキュラーエコノミー的な世界観で事業を行っている人、これからの未来を作っていく若者に「これからの人事ってどうなっていくと思いますか」ということを問いかけるインタビューを掲載していきます。
「雇用」という言葉をなくしたい
――てつさんが思い描く、未来の人事のイメージを教えてください。
稲葉:エシカルでは「消費」という言葉をなくすことを目指しています。ごみは必ず残るのに、「費やして消える」という表現はおかしいですよね。
同じように「雇用」という言葉もなくしたいと思っています。「雇って用いる」って、とても直線的で一方的な表現です。「雇用者・被雇用者」ではなく、「相互契約者」でよいのではないでしょうか。
Warisのビジネスは、まさにこういった世界観を実現するものです。お互いに対等な立場で、時間や場所に縛られない働き方を実現していきたいですね。
――「企業に雇用されたい」という人も、中にはいるかもしれません。
稲葉:もちろん「社員契約を世の中からなくそう」と言いたいわけではありません。ただ、社員として働くことで、「当事者性」を失いやすいのは事実だと思っています。
例えば、会社の愚痴を言っている社員がなかなか転職しないということは、企業ではよくありますよね。当事者性とは、自分が持っている権利を自覚して、どう行動するのかを考えること。今の会社に不満があれば、自分の意志で転職するのも当事者性です。
企業で働くにしろ、フリーランスにしろ、「自分は何をやりたいのか」「自分の仕事は社会にどうつながっているのか」ということを知ることが、基本になると思います。結論が出なくてもいいので、自分のキャリアや生き方を日々考えてみる。その上で行動を起こすことが、望む働き方を実現し、社会を変える力になると思います。
人材の「埋蔵資源」活用が、ビジネスの可能性を広げる
――「誰一人取り残さない」未来を実現するために、経営者や人事担当者は何ができるのでしょうか?
稲葉:最初にお話した通り、日本企業では「人的資源」という考え方がまだ一般的ではありません。人材の「埋蔵資源」がすごく多いんです。例えば、キャリアにブランクのある方、メンタル不調の方、LGBTs、働く時間に制約のある方など。視点を変えて、チームメンバーに興味を持つと、個人のポテンシャルが見えてくるはずです。身近に眠っている埋蔵資源を見直すことで、ビジネスの可能性が広がると思います。
これからは、ポジションに人を当てはめるのではなく、人にポジションを合わせていく、カスタムの時代になるでしょう。サイボウズではいち早くその考え方を導入して、「100人100通りの制度」を実現しています。人的資源を最大限に活かすことで、従来なら切り捨てられていた情報も活用できるようになり、新規ビジネスにつながるかもしれません。
組織やチームのメンバーにとっては、心理的安全性も重要です。社員が経営者や管理職に「実はこういうことをやりたいんです」と安心して話せる、そんな環境が理想ですね。相談しながら、働き方や仕事内容を柔軟に組み替えていける仕組みが大切だと思います。
ここまでお話したことを実現するために、大企業は組織を細かく分けて、権限移譲をしていくことが必要なのではないでしょうか。「1万人の組織」ではなく、「10人の組織が1000個ある」と考える。会社として取り組むことはもちろんですが、働く個人がそれぞれ自分自身のリーダーとして考えることで、持続可能な価値観が、組織や社会に浸透していくことを期待したいです。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 人という「資源」を、使い捨てるのではなく、社会の中で育て、持続的に活躍できる仕組みを整えていく。
- もっとも大切なのは「誰一人取り残さない」こと。
- 日本は人材の「埋蔵資源」が多い。チームメンバーに興味を持つと、個人のポテンシャルが見えてくる。
- ポジションに人を当てはめるのではなく、人にポジションを合わせていく。
【プロフィール】
サーキュラーHR編集長 稲葉哲治
開成、東京大学から一転、中退して社会的ひきこもりを経験。当事者性を活かしてセゾングループ人材会社にてNPO協働事業等を担当後、日立グループにて新規事業、若者キャリア支援会社起業、人事、人材コンサルタントを経て、日本最大の人事・HRメディアにて人事コミュニティ運営等に従事。現在は㈱Warisコンサルタントの他、ダイバーシティ&インクルージョンを推進するNPO法人GEWEL理事、ワールドカフェ・OSTファシリテーターとして活動中。
エシカルを軸にソーシャルセクターでも活動し、フィリピン少数民族と作るブランド「EDAYA」やセレクトショップ「エシカルペイフォワード」、「エシカル男子の会」、参加型社会投資イベント「SOIF」などで人と社会の関わり方の変革を行う他、ソーシャルビジネスのハンズオンインキュベーションも実施。
サーキュラーHR~「人材ロス」ゼロ社会を目指して~
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Warisキャリアエール~フリーランス女性のためのキャリア伴走サービス~ https://careeryell.waris.jp/