江戸時代から伝わる日本の伝統工芸「つまみ細工」。小さく切った布をつまんで折り畳み、糊づけすることで、花などの美しい形を作り上げる繊細な芸術です。そんなつまみ細工の世界に魅せられ、会社員として働くかたわら、作家としての活動を続けている女性がいます。つまみ細工作家の蒼菊さんです。つまみ細工の魅力、そして会社員と作家活動の両立について、お話をうかがいました。
シンプルで奥深い、つまみ細工の魅力
編集部(以下、――):初めて蒼菊さんのつまみ細工を見たとき、花びらの1枚1枚が布で作られていることに驚きました。ため息が出るような美しさですね。
蒼菊さん(以下、敬称略):ありがとうございます。布で作った花びらがきれいに並んでいる、「自然界にはない美しさ」がつまみ細工の魅力です。ふつう、造花は生花の美しさにかなわないと言われますが、つまみ細工には生花とも、一般的な造花とも違う美しさがあると思います。
――これだけ精緻な作品を作るには、かなり高度な技術が必要なのでしょうね。
蒼菊:実は、つまみ細工に使われる基本的な技法は、たった2種類だけなんです。最近では初心者向けのキットなども販売されていて、誰でも気軽に始めることができます。技法はシンプルですが、どんな布を使って、花の形をどうデザインするかはすべて作り手次第なので、とても幅広い世界だと思います。
――入り口が広く、そして奥深い芸術なのですね。蒼菊さんは、どんなきっかけでつまみ細工を始めたのですか?
蒼菊:3年前、病気療養のために1ヶ月ほど会社を休んだことがありました。もともと和の文化が好きだったのですが、時間があるときにたまたま見た雑誌で、舞妓さんのかんざしがつまみ細工で作られていることを知ったんです。その美しさに引き込まれて、さっそく自分でも作品を作ってみました。作品の写真をInstagramに載せたり、つまみ細工の職人さんや作家さんの作品をSNSなどで見たりしているうちに、とりこになりました。
漫画家から自衛官、そして会社員へ
――蒼菊さんのInstagramやTwitterを見ていると、作品そのものの魅力に加え、写真がとても美しく、SNSの活用にも慣れていらっしゃる印象を受けます。
蒼菊:本業では、ベンチャー企業のマーケティングディレクター兼システム担当として仕事をしているので、WebデザインやSNSの運用に慣れているということはあるかなと思います。
――本業のキャリアのお話も聞かせてください。もともと、デザインやものづくりに興味があったのですか?
蒼菊:実は、高校生のときから5年間、漫画家として活動していたんです。
――そうなのですね! 雑誌で漫画を描いていたのですか。
蒼菊:はい。短大在学中にプロデビューしましたが、プロになると、自分の好きなように描くだけでなく、大勢の読者に読んでもらうことを意識しなければならないので難しかったです。その後、働きながら漫画を描こうと思って自衛官になりました。
――漫画家から自衛官! まったく違う業種に転身されたのですね。
蒼菊:父が同じ職業だったので、仕事のイメージがつきやすかったということはあります。主に広報業務に携わり、航空写真の撮影や、HP制作、販促物のデザインなどをしていました。
――なるほど。一見違う分野のようですが、業務内容としては、デザインをしたり絵を描いたりという部分で共通しているのですね。
蒼菊:はい。その後、Webデザインの学校で専門知識を学び、デザイン事務所などを数社経験しました。システム会社のプロジェクトマネージャーとして働いているとき、結婚して子どもが生まれたんです。週5日、毎日出社してハードな業務をこなすのは辛いと感じているときに、「Waris」の求人が目にとまりました。
5年ほど前ですが、まだ珍しかった「場所にとらわれない働き方」、リモートワークを実践している会社で、毎日出社しなくても、自宅で仕事ができるというところに魅力を感じました。入社すると、本当に社員全員が基本的にリモートワークで働いていたので驚きました。
――サーキュラーHRの運営母体でもあるWarisですね。システム担当者を募集していたのですか。
蒼菊:そうですね。システム担当として入社しましたが、創業間もない頃だったので、システムのみならず、マーケティングからイベント運営、HP運用まで、できることは何でもやりました。現在も、マーケティングとシステムの担当を兼任しています。
本業と副業、両方続けることでナレッジが行き来する
――本業も、育児も多忙な日々の中、つまみ細工の制作時間はどうやって捻出しているのですか?
蒼菊:子どもの成長と共に、少しずつ自分の時間が持てるようになりました。わが家は夫も自宅で仕事をするクリエイターなので、家事や育児を分担しやすいこともあります。
つまみ細工の制作には、主に週末や休日の時間を充てています。本業に余裕がある時期は、平日、子どもを寝かしつけた後に作業をすることもありますが、疲れていると、子どもと一緒に眠ってしまうことも多いです。
――花びらを1枚ずつつまんでいくつまみ細工は、とても手間がかかる印象がありますが、1つの作品を仕上げるのにどれくらい時間がかかるのですか。
蒼菊:作品によって違うのですが、小さいもので2週間、大きくて複雑なものだと2ヵ月くらいかかることもあります。私は副業として隙間時間に制作をしていますが、つまみ細工を本業にしている方ならもう少し早く仕上げられるかもしれません。
つまみ細工に使う布も、基本的には絹を仕入れて、染めるところから始めます。つまむ工程は全体の後半の部分で、実はつまみ細工は「準備が7割」なんです。
――布も自分で染めるとは驚きです。本当に丁寧に仕上げていくのですね。本業のマーケティングやシステムのお仕事とは、まったく違う仕事だと思うのですが、ダブルワークのメリットは感じていますか?
蒼菊:それぞれ思考の分野が違うので、ちょうどいいストレス解消になっています。たとえばお菓子作りが好きな人は、仕事が忙しい時期に、夜中に急にケーキが作りたくなることがあるといいますが、そんなイメージです。本業もとても楽しいのですが、仕事ですから当然大変なこともあり、そんなときにつまみ細工のシンプルな作業に没頭することでリフレッシュできます。
また、本業で身に着けたSNS運用やプロモーションの知識を作家活動に生かしたり、逆に作家活動で気づいたことを本業に生かしたりと、ナレッジを行き来させることができているので、長く続けられているのかなと思います。
――マーケティングやシステムとつまみ細工、入り口はまったく違いますが、蒼菊さんの中では、2つのお仕事につながっている部分があるのですね。とても興味深いです。
まず好きなことから始めて、共通点を見出す
――初めはご自身で楽しんでいたつまみ細工を、販売しようと思ったきっかけはありますか?
蒼菊:自分で作った作品の画像をSNSで紹介しているうちに、「作ってもらえませんか?」という問い合わせを頻繁にいただくようになりました。出来上がった作品もどんどん増えていきますし、誰かのために作ることがやりがいになると思い、会社に副業を申請して、積極的にオーダーをとるようになりました。
――作品を見た方から、自然に注文が入るようになったのですね。発信し続けることの大切さを感じます。蒼菊さんは「つまみ紋」というオリジナル商品で商標登録も取得されていますが、これはどのようなものなのですか?
蒼菊:つまみ細工で家紋を表現しています。家紋は丸い形の中でさまざまなモチーフを表していて、その無駄のないデザインがもともと好きだったのですが、実は、つまみ細工の土台も丸い形をしているんです。「丸の中で表現しきる」点が共通していると気づいたことをきっかけに、家紋をモチーフにしたつまみ細工を作り始めました。
つまみ紋は「娘さんの成人式や七五三に使いたい」と、お母様からオーダーをいただくことが多いです。意外なところでは、大衆演劇の役者さんへのプレゼントとして、ファンの方からご注文をいただくこともあります。
――ご自身の作品が心のこもった贈り物になったり、世代を超えて受け継がれたりするというのは、とても素敵ですね。最後に、これから副業を始めてみたいと考えている方や、副業導入を検討している企業の方に向けて、アドバイスをお願いします。
蒼菊:私はこれからも、本業と副業のどちらかに絞るつもりはなく、両方続けていきたいと考えています。お互いにナレッジを共有することで相乗効果が生まれますし、ストレスを解消できるので生産性が上がります。
副業を始めたいと考えている方は、まず自分の好きなことから始めるといいのではないでしょうか。本業と関係ないように思えても、実はつながっている部分、共通点を見出すことができるかもしれません。
Warisでは制度として副業や兼業を認めていて、副業していることをオープンにできる雰囲気もあるので、安心して働くことができます。そういった制度を作り、社内文化を醸成することが、会社全体の生産性を上げることにもつながるのではないでしょうか。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 本業と副業、それぞれ思考の分野が違う仕事を手がけることで、ストレス解消や気分転換になる。
- 本業で身に着けた知識を副業に生かしたり、逆に副業で気づいたことを本業に生かしたりと、ナレッジを行き来させることができると生産性が上がる。
- 副業は、まず自分の好きなことから始める。本業と関係ないように思えても、共通点を見出すことができる可能性がある。
- 副業や兼業の制度を作り、両立しやすい社内文化を醸成することが、会社全体の生産性を上げることにもつながる。
【プロフィール】
つまみ細工作家 蒼菊
漫画家、自衛官、Webディレクター、システム会社マネージャーなどを経て、2015年株式会社Warisに入社。マーケティングディレクター、システム担当として働くかたわら、2017年、つまみ細工作家としての活動をスタート。2018年には家紋をつまみ細工で表現する「つまみ紋」をリリース。和菓子をモチーフにした作品など、独自の表現を追求している。
https://www.instagram.com/aogiku/
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