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外部の組織や人材との協業で、新たな価値を創造する
~京セラ研究企画部・小堀さん、有光さんインタビュー

2022年2月10日

 

1959年に稲盛和夫氏が創業し、日本を代表する電子部品・電気機器メーカーとして成長し続けてきた京セラ株式会社。創業以来、一度も赤字になることなく、黒字経営を継続しています。 

京セラでは、数年前からオープンイノベーションを推進し、新規事業や新製品の開発に取り組んでいるそうです。 

安定した経営を維持してきた大企業が、なぜ、今新たな挑戦をするのでしょうか。大企業が新規事業に取り組む際のポイントや、外部人材の活用について、研究企画部の小堀さん、有光さんにお話をうかがいました。

 

創業62年。さらなる成長のため新規事業にチャレンジ

ーーまず、京セラが新規事業や新製品開発に取り組むようになった背景から教えてください。 

小堀真一さん(以下、敬称略):当社は創業以来、稀代の経営者と言われる稲盛和夫(現名誉会長)の強力なリーダーシップにより、事業を拡大してきました。26年間で15の新しい事業を立ち上げてきた時期もあったのですが、ここ数年は既存事業を安定成長させる時期が続き、研究開発本部発の新事業が多く創出できていません。 

利益率を上げ、さらなる成長を続けるためには新たな価値を創造する必要があるという危機意識から、オープンイノベーションや新規事業の立ち上げを推進することになったのです。 

2018年からは「新規事業アイディアスタートアッププログラム」として、全社員を対象に、新事業のビジネスアイディアを募るプロジェクトを始めました。トップダウンではなく、誰もが積極的にチャレンジするボトムアップの企業風土の実現を目指す取り組みです。社内から800件以上の応募があり、最終選考を経て3件が選ばれています。2021年10月には第1弾として、食物アレルギーがある子どもや家庭向けのごちそうキット「matoil(マトイル)」の事業検証がスタートしました。

 

 <matoil公式サイトより> 

ーー800件はすごい数ですね! 選考はどんな基準で行ったのですか。 

有光真奈さん(以下、敬称略):世の中に求められているかどうか、ニーズがあるかどうかという視点ですね。京セラがこれまで手がけてきた事業の延長線上にあるアイディアも多かったですが、中にはいい意味で「京セラらしくない」ものもありました。書類選考を通過したアイディアは、最終的に経営陣の前でプレゼンをして、熱意をアピールしてもらいました。 

 

培ってきた技術を、子育ての課題解決に応用 

ーー2020年には、子どもの仕上げ磨き専用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」の開発にも取り組まれています。これはどんな経緯で事業化されたのですか。 

 

 <Possi公式サイトより> 

有光:ソニーが展開する、スタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムを通じて、ライオンと共同開発したものです。私自身もソニーのプログラム終了後に京セラ社内で事業化に向けてプロジェクトが立ち上がった段階でチームに加わって、事業推進担当として立ち上げまでを担当しました。Possiは子育て中の技術者のアイディアで、「子どもが嫌がる歯磨きを楽しい時間に変える」というコンセプトのもと、開発した製品です。歯ブラシのヘッド部分に、京セラのセラミックデバイスが入っているんです。 

「Possiを利用することで子どもが歯磨きに前向きになった」という好意的な反応がある一方で、課題も感じています。 

ーーどんな課題があったのでしょう。 

有光:企画チームのメンバーは全員技術者でした。もちろん、ユーザーインタビューを経て設計しているのですが、「京セラの技術を生かして、いい商品を作りたい」という思い入れが強く、部品も高品質なものを使っています。そのため、消耗品としては価格が高くなってしまったのです。技術者の目線だけで製品化すると「市場とのギャップ」という壁にぶつかってしまうことがわかりました。学びの多いチャレンジだったので、この経験を次の事業に生かしていきたいと考えています。 

 

大企業が新規事業にチャレンジするメリットと、難しさ 

ーー大企業が新規事業にチャレンジする場合、ベンチャー企業とは違った難しさもありそうです。 

小堀:経営資源である、人材、商流(製品・サービス・営業力)、研究開発費などが利活用できることが、大企業ならではのメリットだと思います。一方で、既存ルールの中で過去に経験したことのないような意思決定の進言(提案)については、関連部門に説明理解してもらうだけでも大変です。所謂「総論OK、各論NG」という難しさ(煩わしさ)です。 

有光ベンチャー企業と比べ、意思決定に時間がかかり小回りがききにくいのは、やはりデメリットですね。社内の通常フローに載せると、あっという間に1〜2週間が経ってしまいます。 

ベンチャー企業では、事業の成否にメンバーの生活がかかっているという危機感や、プレッシャーもあると思います。その点、大きな組織の中でのチャレンジは、ゆったり構えられることがメリットですが、切実な危機感がないため意識がゆるくなってしまうこともあるかもしれません。 

小堀:研究企画部としては、BtoCのビジネス実績・経験に乏しいため、お客様の声をどう具現化し、こちらが提供したいものをどうお客様に伝えるか、手探りで挑戦し始めたところです。新規事業を担当するメンバーがスタートアップに出向する、外部人材にチームに入ってもらうなどの工夫もしています。 

 

 

外部の組織や人材と協業するためのコツ 

ーー外部の人材は、どのように活用しているのですか。 

小堀:研究企画部メンバーの中で、女性は有光さん1人だけなんです。新規事業を立ち上げた経験のある女性をチームに迎えようと思い、企業とプロフェッショナル人材のマッチングを手がけているWarisに相談しました。紹介してもらったのが、Tさんという女性です。大手企業で新規事業を立ち上げた後、フリーランスになってさまざまな会社の事業立ち上げをサポートしている方でした。 

有光:Tさんには、新規事業のテーマ探索から企画立案・検証までの一連のプロセスを教えて頂き、実際に企画部メンバーが各々立案したテーマについて伴走してもらいました。ほかの企画部メンバーも含め、一日のアクションや進捗、次週までのtodoリストをまとめて、毎日Tさんにアドバイスをもらっていた時期もあります。社外の人だから、素直にアドバイスを聞けるという側面もありました。聞きたいときにいつでも質問できるのは、とてもありがたかったです。 

最近は、それほど事細かなアドバイスをもらうこともなくなりましたが、私は心の中で、Tさんを師匠だと思っているんです。教えてもらったことを、自分だけのものにはしたくないですね。学んだことを生かして、社内に浸透させていきたいと考えています。

 

 

ーー外部の人材から吸収した知見が、社内にも広がりつつあるのですね。私たちはサーキュラーHRというプロジェクトを通じて、人材という資源を使い捨てにしない社会の実現を目指しています。外部の組織や人材と協業するコツがあれば、ぜひ教えてください。 

小堀:創業者の稲盛和夫は、「盛和塾」という私塾を運営するなど、経営者の育成にも熱心に取り組んでいました。そのカルチャーは現在の京セラにも生きていて、スタートアップや外部の人材と一緒に仕事をするときも、相手に何をしてあげられるか、どうすれば相手のビジネスを成長させることができるかを考えなさいと言われています。 

ーー創業の精神が社内に根づいているのですね。最後に、お二人が今後、京セラの中で実現したいことを教えてください。 

有光:京セラの中でも、研究や技術職の女性はまだ少ないのが現状です。例えば同じ子育ての課題を解決する製品でも、女性だからこそ気づくことがあると思います。社内にかぎらず社外の女性とも、今後いろいろな形でつながっていきたいですし、そういったことをきっかけに新たな事業が生まれたらうれしいですね。 

小堀:京セラは「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」を経営理念としています。時代の変化を受け、循環型社会を目指すための研究開発も推進中です。私個人としては、お客様が「京セラだから信頼して選んだ」とおっしゃられ、ステークホルダーの皆様が「京セラと一緒に仕事をしたいね」と言ってくださり、そして社員の皆さんが「京セラでずっと仕事をしたいね」と言ってくれるような会社であり続けるための研究開発を企画推進していきたいと思っています。 

ーー今日は貴重なお話、ありがとうございました。 

 

 

<サーキュラーHRへのヒント> 

  • 安定期に入った京セラでは、利益率を上げさらなる成長を続けるため、オープンイノベーションや新規事業立ち上げを推進することになった。 
  • ボトムアップの企業風土実現を目指し、社内から新規事業のアイディアを募るプログラムでは、800件もの応募があった。 
  • 子どもの仕上げ磨き専用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」の開発では、技術者目線で製品化したため、「市場とのギャップ」という壁にぶつかってしまった。 
  • これまで経験がなかったBtoCのビジネスノウハウを吸収するため、新規事業を担当するメンバーがスタートアップに出向する、外部人材にチームに入ってもらうなどの工夫をしている。 

 

 

【プロフィール】 

京セラ株式会社 研究開発本部 研究企画部責任者 

小堀真一 

1988年京セラ入社。 

半導体事業本部にてセラミックパッケージの開発営業、マーケティング業務に従事。 

2013年CTO(代表取締役副会長)サポートメンバーとして研究開発本部室へ異動。 

2017年より現職。研究企画部にて、研究開発をビジネスにつなげる仕組み(ビジネスモデル)構築を推進中。役割は【新規事業を創る人を支えるヒト】 

 

 

京セラ株式会社 研究開発本部 研究企画部 研究企画2課 1係責任者 

有光真奈 

2000年東芝ケミカル㈱(2002年京セラケミカル㈱へ社名変更、2016年京セラ㈱に統合)入社。 

半導体や電子部品に使用される機能性材料の研究開発およびマーケティングを担当したのち、2016年に第2子出産後の育児休職からの復帰と会社の統合が重なり研究企画部へ異動。 

現職では、最新情報を収集・分析する機能や新規事業の顧客目線での企画伴走を担う。 東京工業大学大学院総合理工学研究科物質科学創造専攻修了、工学修士。

 

 

 

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