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多様な個人が実現するサステナブルな社会
~IDEAS FOR GOOD編集長・加藤佑さんインタビュー

2020年4月10日

社会をもっと良くするためのさまざまなアイデアを集めたWebマガジン「IDEAS FOR GOOD」。サステナブルな社会を実現する技術やデザイン、世界のサーキュラーエコノミー(循環型経済)事情など、素敵なアイデアが詰まった記事が満載です。今、なぜサーキュラーエコノミーが注目されているのか、加藤佑編集長にお話をうかがいました。

サーキュラーエコノミーという新たな眼鏡を通して見える日本の強み

編集部(以下、――) 私たちにとってIDEAS FOR GOODは、早くからサーキュラーエコノミーにフォーカスしてこられたメディアの先輩です。なぜ、ソーシャルグッドやサーキュラーエコノミーという価値観に注目されたのでしょうか。

加藤佑編集長(以下、敬称略):実は現在の会社を始める前に、サステナビリティをテーマにした企業向けポータルサイトを運営していました。そんな中、企業の優れた取り組みが、外に広がっていきにくい状況を実感していました。

IDEAS FOR GOODでは、社会課題に対する「解決策」に光を当てることを大切にしています。例えば環境問題を、デザインやマーケティングの力で解決することができるかもしれない。解決のための手法に着目することで、サステナビリティやソーシャルグッドに興味がない人にも関心を持ってもらえるのではないかという考えから、2016年にメディアをローンチしました。

――創刊当初と比べ、サステナビリティやソーシャルグッドという考え方に対する社会の風向きは変わってきていると思いますか?

加藤:そうですね。例えばプラスチックの問題にしても、コンビニがエコバッグの普及を推進するというような動きは、数年前にはなかったですし、すごく変わってきていると思います。

――SDGsやサーキュラーエコノミーについては、欧米諸国に比べ、日本がかなり遅れを取っているという見方もあります。

加藤:もちろん遅れをとっている部分もありますが、すべての面で遅れているとは考えていません。例えば日本でも、江戸時代には限られた資源を最後まで徹底的に活用する、とてもサステナブルな文化があったと思います。そんな日本の良さが、「サーキュラーエコノミー」という言葉、新たな眼鏡を手に入れたことで見えてくる。あらためて日本の「強み」を再発見するフェーズに、私たちはいるのではないでしょうか。

日本は昔から、東洋と西洋の文化を融合させて、新たな文化をつくり上げてきました。サステナビリティにおいても、西洋的な考え方と東洋的な考え方をミックスすることが有効です。日本が持つポテンシャルは本当に大きいと思いますね。

「リペア人材」「複業人材」へのニーズが高まる

――私たちは、サーキュラーエコノミーを人事領域に応用した「サーキュラーHR」という考え方を通じて、誰一人取り残さない社会を実現したいと考えています。加藤さんは国内外で多くの事例を見てこられたと思うのですが、サーキュラーエコノミー×働き方という切り口で、思い浮かぶ事例はありますか?

加藤:まず、「サーキュラーエコノミー」と「人事」というアジェンダセッティングが素晴らしいなと思います。私たちは昨年、サーキュラーエコノミーの取材で欧州を回ってきました。サーキュラーエコノミーに移行することで、新しい仕事が生まれると同時に、失われていく仕事もあります。変化によって職を失う可能性がある人たちの学び直しをどうするかということが、大きなトピックになっているんですね。経済モデルが変わるということは、当然企業が変わり、働き方も変わるので、非常に大切なテーマだと思います。

サーキュラーエコノミーでは、新しく物を作るだけでなく、今ある物を修理して再利用することが重要になります。今後は単純に新しい物やサービスを生み出すだけの人材ではなく、今ある資源をうまく活かし、価値を保持しつづけられる「リペア人材」のニーズが高まっていくのではないでしょうか。

シェアリングプラットフォームという視点でいえば、複業人材やギグワーカー(インターネットを介し、単発で仕事を請け負う人)にも注目しています。これからの時代は、誰かがいらないと思っている物に、違う視点から価値を発見することにビジネスの可能性があると思います。複数の業界での経験、バックグラウンドを持っている人材は、新たな価値の発見がしやすいんですね。そういった意味でも、組織の枠を飛び越え、パラレルキャリアでさまざまな業界の知見を持っている人材の需要は高まると思います。

1社では達成できないビジョンを掲げることが協働を生む

――社会全体がサーキュラーエコノミー、ソーシャルグッドな方向にシフトしていくために、企業に求められるのはどんなことでしょうか。

加藤「1社では達成できないビジョンを掲げる」ことが有効だと思います。一人ではできないほど大きなビジョンを掲げてしまえば、協働が必要になります。「協働の必要性を自ら発明する」ということですね。

このことは、企業と従業員の関係にもいえると思います。どちらかが得をするとどちらかが損をするというようなゼロサムの関係性ではなく、目線を上げることで、同じビジョンに向かって同じベクトルで進むパートナーとして位置づけることができれば、協働しやすくなるのではないでしょうか。

――IDEAS FOR GOODでは、チーム作りやメンバーのマネジメントをする上で、どんなことを大切にしていますか?

加藤:私たちは、コンテンツマーケティングを通じて社会をもっと良くすることをミッションに掲げています。コンテンツマーケティングはあくまでも「手段」で、ソーシャルグッドへのアプローチのひとつだと考えています。そのために、チームとして大切にしているのは「自分らしさを追求すること」です。

システム全体の持続可能性は、「個体の多様性」と「関係性の多様性」の2つによって実現されると考えています。多様性には、国籍や年齢などさまざまな指標がありますが、それ以上に、個人が「自分らしさ」を追求すれば、必ず一人ひとりが違う個性を持っているはずです。同じインプットをしても、アウトプットはそれぞれ違います。インプットとアウトプットが多様であればあるほど、結果としてシステムがサステナブルになると思うんです。

会社としてできることは、一人ひとりの個性に合わせた支援をすることではないでしょうか。私たちの会社では、人が資産だと考えているので、人材への投資は惜しみません。会社を設立して4年になりますが、現在まで、正社員の退職者は1人も出ていません。

つながりの中で「ギフト」を見つけ、世の中に貢献する

――「自分らしさ」や「得意なこと」が分からないという人もいると思います。メンバーが自分らしさを見つけるために、工夫していることはありますか?

加藤:個人の強みだけでなく、弱みもあえてそのまま表現することで、ほかの誰かがその人の役に立つチャンスを発明することになると考えています。強みや才能は、自分自身では案外気づけないものですが、周りからのフィードバックで発見できることがあると思うんです。

具体的な制度としては、感謝の気持ちをピアボーナスで送り合ったり、他部署メンバーとのコミュニケーションのきっかけをつくるため、くじ引きでメンバーを決めてランチをする制度を設けたりしています。グランピング合宿やヨガのワークショップなど、会社の枠組みを外してつながりを生むためのイベントも開催しています。

――働く個人は、どのような視点で自分の働き方を考えるといいのでしょう。

加藤:いろいろな社会課題がありますが、つきつめて考えると、地球が存在していることそのものに「目的」も「課題」もないですよね。持続可能な社会も、温暖化の防止も、いわば人間が自分たちの不安を解消するため、勝手に設定した目標です。究極的には、人間は自分ひとりを幸せにすることができれば、全員が幸せになれるんですよね。まず自分自身を大切にして、幸せにすることで、自然と周りの人や物を大切にすることにつながっていくのではないでしょうか。

一人ひとりが自分らしさを大切にし、個が多様になることが、社会全体にとっても一番サステナブルだと思います。まず、自分に与えられたギフトを探し、見つかったらそれを使って世の中に貢献する。先ほどもお話したように、自分一人でギフトを見つけるのは難しいので、つながりの中で探していくといいのではないでしょうか。

過去は常に未来によって変わっていく

――社会の価値観が大きく変化する中、現状を変えたいと思っていても、転職するべきなのか、副業を始めるのか、はたまたこのまま我慢するのか、迷っている方も多いと思います。

加藤:人生にはいろいろな選択肢がありますが、「何を選ぶか」ということよりも、「選んだ道をどう成功に変えていくか」が大切なのかなと思います。今失敗だと思っていることも、3年後には必要な経験に変わっているかもしれません。過去は、常に未来によって変わっていきます。過去の出来事に意味づけをするのは自分だからです。まずは自分の中の違和感を大切にしつつ、置かれた状況のもとでベストを尽くすことではないでしょうか。

――IDEAS FOR GOODでの発信を通じて、今後、どんな社会を実現していきたいと考えていますか?

加藤:誰もが自分らしさを活かして、貢献できるような社会を実現できればいいなと思います。そのためには、一人ひとりが「弱み」に耳を傾けてもらえる環境が必要です。話を聞いてもらうだけで、人はとても楽になります。いつかは自分も高齢者になって、介護を受ける可能性があるわけですから、弱者を前提とした制度設計は、社会的支援というより自分たちのためでもあります。

――誰もが生きやすい世の中をつくる…という言葉をよく聞きますが、私たちは「誰もが生きにくい世の中をつくりたい」と考えています。それはつまり、「誰もが生きにくさを認められる社会」ということなんですよね。

加藤:おっしゃる通りだと思います。多様な関係性の中で、個人が自分の生きる場所を見つけ、自分らしさを追求していく。そんなビジョンに向けて、これからも自然体で発信を続けていきたいと考えています。

<サーキュラーHRへのヒント>

  • 日本には昔からサステナブルな文化があった。現在は、あらためて日本の「強み」を再発見するフェーズに入っている。
  • 今後は単純に新しい物やサービスを生み出すだけの人材ではなく、今ある資源をうまく活かし、価値を保持し続けられる「リペア人材」のニーズが高まっていく。
  • 一人ひとりが自分らしさを大切にし、個が多様になることが、社会全体のサステナビリティにつながる。
  • 誰もが生きにくさを認められる社会、一人ひとりが弱みに耳を傾けてもらえる環境を実現していく。

【プロフィール】
IDEAS FOR GOOD創刊者&編集長 加藤佑

Harch Inc.の創業者。社会を「もっと」よくするクリエイティブなアイデアが大好き。英国CMI認定 サステナビリティ(CSR)プラクティショナー/エストニア e-Resident

<お知らせ>
『サーキュラーHR』を運営する株式会社Warisと、『IDEAS FOR GOOD』を運営するハーチ株式会社は、2020年3月、業務提携を開始しました。サーキュラーエコノミーに取り組む企業や地方プロジェクトへのビジネス系フリーランスのシェアリングを通じ、人手不足解消につなげていきます。
※詳しくはこちら

サーキュラーHR~「人材ロス」ゼロ社会を目指して~

https://circularhr.waris.jp/

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