フリーランスによる、フリーランスのための、オープンでゆるやかなつながりを持ったプラットフォームを目指して、2017年1月に誕生した「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」。協会の代表理事をつとめ、2019年11月、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」を受賞した平田麻莉さんに、雇用の流動化やリモートワークの広がりについて、お話をうかがいました。
フリーランスをめぐる状況は「変わり目」を迎えている
編集部(以下、――) まずはウーマン・オブ・ザ・イヤーのご受賞、おめでとうございます!
平田麻莉さん(以下、敬称略):ありがとうございます。
――3年前、フリーランス協会の設立時にも「フリーランスという働き方が広がってきたのだなあ」と時代の変化を感じましたが、今回のご受賞は、さらなる潮目の変化を象徴する出来事ではないでしょうか。
平田:はい。この3年で、働き方をめぐる状況は、本当に大きく変わったと思います。2017年の協会設立時は、フリーランスという働き方が、今ほど一般的に認知されていなかったですし、啓発活動や政府への働きかけを続ける中でも、新しい働き方の必要性を伝えることの難しさを感じていました。
協会では、フリーランスの活用が、東京一極集中を解消する切り札になるのではないかという問題意識のもと、全国でフリーランス人材と企業のマッチングツアーや、企業向けのフリーランス活用セミナーを開催しています。2017年から首都圏、地方の両方で開催してきたのですが、当初は地方での反応が、正直あまり芳しいものではありませんでした。
今年1月には熊本で、九州財務局が主催する首都圏の人材を活用するためのセミナーがあり、リモートワークなど、場所にとらわれない働き方についての基調講演を私がさせていただきました。驚いたことに、50~60代を含む幅広い年齢層の経営者や人事担当者の方が、520人も集まってくださって。「目からウロコが落ちました」という感想もいただいて、本当に感動しました。文字通り隔世の感がありましたね。
――首都圏だけでなく、地方でも、働き方についての意識が変わりつつあると見ていいのでしょうか?
平田:そうですね。特に地方では人材不足が進み、このままでは事業が存続・継承できないという危機意識、当事者意識を持って、フリーランスの活用やリモートワーク導入に取り組もうとする企業が増えていると感じます。行政の取り組みに加え、首都圏と地方を結んで人材をマッチングするサービスも登場しています。実際に、フリーランスや副業人材の活用に挑戦した企業の事例も出てきています。
リモートワーク導入をはばむ「心理的なハードル」
――地方の企業と東京に住んでいるフリーランスをマッチングする、あるいは逆に、首都圏の企業と地方在住のフリーランスをマッチングするときに、ハードルになるのはコミュニケーションの問題だと思うんです。リモートワークのためのツールもたくさんありますが、やはりオフィスに出社してほしいと考える企業は少なくありませんよね。
平田:そうですね。ツールはかなり進化しているので、物理的なハードルというよりも、心理的なハードルが高いのだと思います。例えばフリーランス協会には、全国4ヶ所の拠点に約40人のスタッフがいて、ふだんはリモートでコミュニケーションをとっています。全員が一堂に会したことはありませんが、まったく支障はありません。また、私のアシスタントは福岡在住で、直接顔を合わせるのは半年に1回程度ですが、毎日の会話の頻度は、たぶん夫より多いくらいだと思います(笑)
Chatworkなどのコミュニケーションツールを使うことで、会話のログが残るのでミスコミュニケーションが減りますし、毎回議事録を残す手間も減るので、業務の効率化にもつながります。
一度使ってみれば、物理的に同じ空間にいなくても業務に差し障りがなく、メリットが多いことを体感できると思うのですが。ツールを使ったことも、見たこともない世代にとっては、最初のハードルが高いかもしれません。先ほどお話した熊本のセミナーでは、関東から地方企業を支援する副業人材の事例紹介のため、担当者が実際にオンラインで登壇したので、説得力があったと思います。まずはツールを見てもらう、使ってもらうことで、ハードルが下がっていくことを期待したいです。
個人が提供できる価値を社会全体でシェアする
――私たちは「サーキュラーHR」というモデルを通じて、「人材ロス」ゼロ社会を目指したいと考えています。ご自身もフリーランスという働き方を続けてこられた平田さんは、雇用の流動化や複業・副業解禁の動きについて、どのようにご覧になっていますか?
平田:個人のスキルや知見を流動化させていくというサーキュラーHRのコンセプトには、とても共感しています。
私は学生時代、アメリカやオーストラリアなどに留学していたことがあり、海外のホストファミリーの働き方を身近で見てきました。学校の先生として働いている親が、途中で仕事を抜けて子どもの学校にランチを届けたり、小さい子どもを連れて研修を受ける人がいたり、事業を起こす女性がいたりと、雇用されることにこだわらない、キャリアに対して能動的で柔軟な考え方を持っている人たちの仕事ぶりが、私の仕事観のベースになっているんです。
欧米やアジアの企業に比べ、日本企業の寿命は非常に長いのが特徴です。そんな中、成熟産業を担う大企業に優秀な人材が集中していて、これから日本経済を牽引していく新興産業が人手不足になっている。これは非常にもったいないことですし、社会的損失だと思います。
一方で個人は、代わり映えのしない仕事や人間関係の愚痴を言いながらひとつの企業に勤め続けている。これでは、誰もハッピーになれないですよね。いきなり転職や独立するのはハードルが高いかもしれませんが、複業・副業として新しいことにチャレンジするのはそれほど難しいことではありません。
これからの時代は、一人ひとりが「何のプロなのか」「どうやって社会に貢献するのか」を意識することが求められる、ある意味厳しい社会になっていくと思うんです。ただ、これは欧米では当たり前のことですし、日本がグローバル化の波に対応するため、避けては通れない道だと思います。優秀な人材には「ミッション」があると、私は考えているんです。その人が社会に提供できる価値を一社が囲い込むのではなく、複数の企業がシェアして受益者を増やすことが、一般的になっていくと思います。
――年功序列、終身雇用という従来の雇用モデルは、社会のセーフティネットのような役割も果たしていたと思います。雇用の流動化によって、その仕組みからこぼれ落ちてしまう人もいるのではないでしょうか。
平田:そうですね。国の施策としては、多様な働き方に対応した社会保険制度や、不当な契約・トラブルから保護するルールを整備しようとする動きが始まっています。私たちフリーランス協会も、民間団体としてできることを模索し、会員の方を対象にした所得補償制度や傷害保険、賠償責任保険、弁護士費用保険などを提供しています。雇用の前提が大きく変わろうとしている中、誰もが自由に働き方を選び、安心して働ける社会を実現するために、繊細な議論を積み重ねていく必要があると思います。
すべての人が、自分のキャリアの手綱を握る社会に
――雇用の形が急激に変化する中、企業の経営者や人事担当者は、どんなことを意識していけばいいのでしょうか。
平田:これまでの人事では、「わが社に必要な人材」の要件を満たす人を採用するやり方が主流でした。けれど、労働人口が減っていくことが目に見えている現在、今ここにいる人材をどう活かすかという方向に発想を転換することは、生き残りのために必須です。
例えば週に1日、業務委託の人材に仕事を任せるとしたら、仕事を切り出すために業務全体の棚卸しが必要になりますから、当然手間がかかります。日本企業は今までそういった経験が少なかったと思いますが、欧米ではごく当たり前のことです。一度慣れてしまえばそれほど大変なことではないですし、早く取り入れればその分先んじて競争力を獲得できるので、億劫がらずに始めてみることが大切だと思います。
――フリーランス協会としては、どんな未来を実現していきたいと考えていますか。
平田:フリーランスも、会社員も、すべての働く人が、自分のキャリアの手綱を握る社会であってほしいと考えています。自律した個人が専門性を持って、どこで誰と働くかを自由に選択でき、人材がうまく循環していくような基盤づくりをしたいですね。
私は大学院時代、JBCC(日本ビジネススクール・ケース・コンペティション)というイベントを立ち上げたんです。既に10年目を迎える取り組みなのですが、私が立ち上げたことを知らない後輩たちから「実はJBCCというものがあるんですよ」と言われたことがあって。プロジェクトが大きく育って一人歩きしていることが、とても嬉しかったんですね。
フリーランス協会も、私が表に出て協会の顔になっているうちは、サステナブルではないと思っています。いつか、私たちが立ち上げたことを知らない人から「実は、フリーランス協会という組織があるんですよ」と言われる日が来たら、それこそインフラとして定着したということなので本当に嬉しいなあと思いますね。
<サーキュラーHRへのヒント>
- リモートワークのためのコミュニケーションツールを導入することで、会話のログが残る。ミスコミュニケーションや議事録を残す手間が減り、業務効率化につながる。
- これからの時代は、働く個人一人ひとりが「何のプロなのか」「どうやって社会に貢献するのか」を意識することが求められる。
- 労働人口が減っていくことが目に見えている中、今ここにいる人材をどう活かすかという方向に発想を転換することが、企業の生き残りのために欠かせない。
- 優秀な人材が社会に提供できる価値を一社が囲い込むのではなく、社会全体でシェアして受益者を増やす時代になっていく。
【プロフィール】
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会/代表理事 平田麻莉
慶應義塾大学総合政策学部在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、2011年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。現在はフリーランスで広報や出版、ケースメソッド教材制作を行う傍ら、2017年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。プロボノの社会活動として、政策提言を始めとする8つのプロジェクト活動、フリーランス向けベネフィットプランの提供などを行い、 新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。政府検討会の委員・有識者経験多数。日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)発起人、初代実行委員長。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。
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