気候変動への理解と行動喚起をめざして、世界40カ国で同日開催される音楽イベント「Climate Live」。イギリスの高校生が、音楽を通じて気候変動の問題について知ってほしいとスタートした学生主催のプロジェクトです。
日本でも、大学生や高校生のメンバーで構成される実行委員会が中心となって、4月24日の本番に向け準備を進めています。実行委員会メンバーの皆さんに、学生の立場から社会を見ていて感じること、働くことへの思いなど、本音で語っていただきました。
音楽を通じて、気候変動の問題に関心を持ってほしい
稲葉編集長:今日はClimate Live Japanの4人の共同代表のうち、3人にお話をうかがいます。はじめに、簡単な自己紹介をお願いできますか?
小出愛菜さん(以下、敬称略):私は3月に大学を卒業しましたが、就職はせず、社団法人を立ち上げてプロジェクト運営などの活動をしていく予定です。Climate Live Japanでは主に企業担当をしています。
<小出さん>
高橋英江さん(以下、敬称略):私は日本にあるアメリカの大学に通っていて、6月に卒業するのですが、小出さんと一緒に社団法人の活動をする予定です。Climate Live Japanでは海外との連携を担当しています。
山本大貴さん(以下、敬称略):共同代表の中では唯一の高校生、17歳です。協力団体とのやりとりやサポートを担当しています。
稲葉:Climate Live Japanの活動について、詳しく教えてください。
小出:きっかけは、イギリスの高校生が、「子どもたちの世代に美しい地球を残せないのではないか」と気候変動への危機感を抱いたことでした。音楽の力を借りれば、もっと多くの人に気候変動の問題を知ってもらえると考えたのです。その活動が世界に広がり、4月24日(土)に、44か国の若者が携わり23か国(4/14時点)でライブイベントが同日開催されます。このイベントは10月16日(土)にも開催する予定です。
日本では、まず気候危機の解決を目指す若者たちのムーブメント「FridaysForFuture」のメンバーに、Climate Liveの発起人から声がかかりました。その後、ほかの学生環境団体のメンバーも加わって、大学生と高校生による実行委員会が立ち上がりました。
私たちはこのライブを通じて、気候変動の危機が迫っていること、一人ひとりが今すぐアクションを起こさなければならないことを若い世代に伝えたいと考えています。短期的なゴールとしては、2021年11月に行われるCOP26までに、日本のCO2削減目標を引き上げることを目指しています。
<Climate Live Japan 公式サイトより>
稲葉:ライブはオフラインで開催するのですか。
小出:今年の1月いっぱいまでは、オフライン開催を目指して動いていましたが、新型コロナウイルスの影響などさまざまな事情から、4月24日はオンライン配信で行うことになりました。
稲葉:クラウドファンディングを行っているのですよね。
小出:はい。2月の公開からわずか2日で最初の目標額を達成して、気候変動の問題に対する関心の高さを感じています。現在は次の目標、ネクストゴールに挑戦中です。
稲葉:活動の中で、「MINI(ミニ)」という単位を使っているのがユニークだと思いました。
<Climate Live Japan提供>
小出:SNS投稿へのいいねやリツート、動画再生回数、イベント参加人数など、皆さんの「気候変動を止めたい」という想いや情熱を「MINI」という単位を用いて集めています。「民意」と「みんなの小さな想い」をかけた言葉で、公募で集めた候補の中から選びました。日本の選挙で投票した有権者の数に匹敵する6000万のMINIを集め、民意として日本政府に提出する予定です。この新しい概念を、もっともっと広げていきたいです。
「新卒一括採用」「就社」…日本式採用への違和感
稲葉:私たちはサーキュラーHRというプロジェクトを通じて、働き方の新しい「当たり前」を提示したいと考えています。皆さんが、今の社会や日本企業に対して感じていることをざっくばらんに教えてください。
山本:持続可能な社会を作ることが最終的なゴールだと思うのですが、その前に、今目の前にある危機、地球の温度上昇を止めることが必要だと考えています。国としての対策も必要ですが、企業も努力目標を掲げるだけではなく、ポジティブな使命感を持って、複数の企業同士で連帯してルールを作っていくと、より良い社会になるのではないかと思います。
稲葉:日本企業はまだ、誰かが得をするとほかの誰かが損をするという競争意識が強いので、1社だけでなく、横のつながりを大切にして取り組んでいくことはとても大切ですね。高橋さんはいかがですか。
高橋:私は将来、クリエイティブなフィールドで働きたいと考えているのですが、日本では、クリエイティブな職業の束縛時間が過度に長く、体調を崩す方もいるという現実に驚きました。
私自身、海外で働きたい気持ちもあったのですが、いろいろ学んでいくうちに日本文化の面白さを知り、日本にとどまりたいと考えるようになりました。社会におかしなところがあるから、私一人が別の場所に行って幸せになるというのも自分の中で納得できなくて。それよりは、自分たちで社会を過ごしやすい場所に変えていくほうが楽しいと感じたことが、活動に参加したきっかけでもあります。
<高橋さん>
稲葉:とても本質的な指摘だと思います。日本は最低賃金も低いので、若い世代の人材流出が止まりません。小出さんは、就職せずに社団法人を立ち上げるという選択をされていますが、「働く」ということについてどんなふうに感じていますか。
小出:新卒で就職することを選択しなかったのは、フルタイムで週5日働くとなると、社会のことを考える余裕がなくなってしまうと思ったからです。気候変動の問題について、今するべきことにきちんと取り組みたいと考えました。
新卒採用でどこかの会社に入らないと「マイノリティ」になってしまうという状況にも疑問を感じます。一度はどこかの会社で働いたほうがいいのではないかとも思いますが、新卒で会社に所属することだけがすべてではないので、自分の選択を信じてやっていこうと今は考えています。
高橋:アメリカでの就職活動は、まず仕事があり、「あなたに適した職種を選んで応募してください」というスタンスです。日本では内定をもらって、入社するまでどの部署に配属されるのかわからない会社も多いことが不思議です。自分を活かせる場所で働きたいという意欲を持って就職するのに、別の仕事をしなければならないのはもったいないと感じます。「経験を通して新しい視野が開ける」という考え方もあるようですが、やはり違和感があります。
自己肯定感の低さが、自律的キャリア形成を妨げている?
稲葉:日本では、働きはじめて10年、20年経っても自律的なキャリア形成ができず、自分たちが社会を変える当事者であるという意識を持てない人が少なくありません。その結果、自分が何の役に立っているのかわからないとモヤモヤしながら働いている会社員の方も年齢問わず多いようです。
山本:社会変革に期待しない「あきらめ」のような空気は、学生の間でも感じます。行動を起こせば社会や周囲の環境が変わっていく可能性があるのに、情報が少なく、手段もわからないので、モヤモヤして終わってしまうのではないでしょうか。リーダーとして引っ張っていくポテンシャルを持った先進的な人や会社が、積極的に手を差し伸べて、周りを巻き込んでいくことが必要だと思います。
<山本さん>
小出:日本では、個人が自分を大事にしない傾向があるのではないでしょうか。私自身は、社会のために行動を起こすことが、自分のためでもあると思っています。気候変動の問題を知ると世界が広がりますし、これまで出会ったことがないような人たちとのつながりが生まれ、人生が豊かになると感じています。
会社で働く中でモヤモヤすることがあっても、人生設計があれば、全体を俯瞰して「今、この会社で働くのは自分にとって必要なことだ」と納得することもできると思います。
稲葉:日本には、自己肯定感が低く、周りに合わせようとする人が多いですね。
小出:私自身も自己肯定感が高いほうではないので、ときどき「私たち良くやっているね」とみんなで言い合う「自己肯定感アップキャンペーン」をやっています(笑)
稲葉:企業研修でも使えそうなキャンペーンですね。お互いの足を引っ張るのではなく、ポジティブなコミュニケーションを取ることは組織の生産性を上げることにつながると思います。
高橋:日本では、教育の過程で「自分は何がしたいのかな」と考えたり、自己愛を育んだりする時間があまりないと感じます。私自身、海外留学したときに、みんな自分のことが大好きという環境に身を置いて自信が持てるようになりました。でも、日本に帰国したらまた見えない圧力がかかって、自己肯定感も元に戻ってしまいました。子どもの頃から「個」を大切にして、自分の頭で考えることができるような教育をしていくことも必要ではないでしょうか。
これからキャリアを築く若者にも地方移住の選択肢を
稲葉:最後に、皆さんが今後、個人としてやってみたいこと、実現したい夢を教えてください。
小出:いろいろな価値観の人と交流することがとても大切だと考えているので、人と人がつながるきっかけになるようなプラットフォームを作っていきたいです。
山本:若者が活動することで、新しい価値観が生まれ、社会が変わっていく可能性を感じています。柔軟性がある社会を実現するために、若い人が情報発信したり、交流が生まれたりするような支援や、仕組み作りをしていきたいです。
高橋:自然があって、海が見えるところで、映画を作って発信しながら暮らしたいなあと思っています。でも、それでは社会に適合できないのかなと悩むこともあります。
稲葉:実は今、私は新宿と鎌倉で仕事をしているんです。コロナ禍の影響もあり、ある程度キャリアを積んでスキルのある人は場所を選ばない働き方ができるようになっていますが、これからキャリアを築いていく若い人たちにも、地方に移住して働くという選択肢が増えるといいですね。今日はありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- Climate Liveは、気候変動の問題について広く知らせることを目的にスタートした、学生主催の世界的なライブイベントである。
- 気候変動は、今目の前にある危機であり、個人や企業が連帯して行動することが求められる。
- 自己肯定感の低さが、自律的なキャリア形成や、社会を変える当事者意識を持つ上での妨げになっている可能性がある。ポジティブなコミュニケーションを行うことが、組織の生産性を上げることにもつながる。
- 既にキャリアを積んだ人だけでなく、これからキャリアを築いていく若者にも地方移住の選択肢が増えることで、働き方の選択肢が広がっていく。
【プロフィール】
Climate Live Japan 共同代表
小出愛菜
1998年生まれ、23歳。国際環境NGO FoEJapanでのインターン、気候変動対策を求めるムーブメントFridays For Futureでの活動を経て、現在に至る。2021年に大学を卒業。社団法人weRe:Actを立ち上げ、学生の継続的な活動への参加を目指す。Climate Live Japan実行委員会では企業を担当。
高橋英江
2019年下旬からFridaysForFutureの活動に参加。幼い頃に見た絶滅動物のドキュメンタリーをきっかけに、気候変動の問題に関心を持つ。社団法人weRe:Actを立ち上げ、Climate Live Japan実行委員会では海外連携などを担当。
山本大貴
2003年生まれ、都立西高校3年、17歳。Climate Live Japan実行委員会、共同代表。2020年春、緊急事態宣言で休校になり家での時間が増えたことをきっかけにFridays For Futureで活動を始めた。主に政治や企業に対して早急な対策を求める姿勢でSNS発信、署名活動、各自治体への請願活動、政府・企業との意見交換、街頭でのアクションなどをおこなっている。Climate Live Japanでは世論を大きく動かし、気候変動問題解決への一歩を作り出したいと考えている。
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