「女性初」が、ニュースなんかじゃなくなる日まで。
アメリカでカマラ・ハリス氏が副大統領になったとき、そんな見出しのついたメッセージ広告が、新聞に掲載されました。
企画したのは、不動産賃貸仲介を手がけるエイブル。同社では、ひとり暮らしの女性を応援するブランド「MAISON ABLE(メゾンエイブル)」の運営も行っています。
ひとり暮らしの女性たちはどんな課題に直面しているのか、企業が働く女性を支援することの意味について、エイブルホールディングスの赤星昭江さんにお話をうかがいました。
ひとり暮らしの働く女性をサポートしたい
稲葉編集長:「MAISON ABLE(メゾンエイブル)」とは、どのようなブランドなのでしょうか。
赤星昭江さん(以下、敬称略):ひとり暮らしの女性を応援するため、5年前に立ち上げた「衣・食・住」でひとり暮らし女性の生活を支援するブランドです。入会費や年会費も無料で、ファッションやグルメなど、さまざまな特典やクーポンを利用することができます。エイブルが仲介した物件に限らず、国内の賃貸物件でひとり暮らしをしている女性であれば、誰でも入会できます。
いま、日本国内ではひとり暮らしの女性が増えています。結婚や同棲を選択しない人が増えていることに加え、高齢の単身女性も増加が見込まれます。その一方で、日本は、女性の就業率が7割を超えアメリカよりも高い女性就業率の実態がある一方(※1)、男女の賃金格差は主要先進国の中でも最下位。ひとり暮らし女性の経済的な支援は大きな課題となっています。MAISON ABLEは入会費・年会費など一切無料で、生活をサポートするセーフティネットになれたらと考えています。
※1 総務省「労働力調査」より
<MAISON ABLE Webサイトより>
稲葉:赤星さんはなぜ、そのようなサービスを立ち上げようと考えたのですか。
赤星:MAISON ABLEの原点にあるのは、実は私自身の経験です。私は地方出身で、早くに父を亡くしたので、シングルマザーの母に育てられました。地元の大学を卒業して、東京に本社がある会社に就職しようと考えたのですが、採用試験を受けるためにも交通費がかかります。アルバイトをしながらの就職活動は、体力的にもギリギリでした。
赤星:就職してからも、家賃や生活費の負担は軽くありません。都市部に実家があり社会人になってからも実家暮らしの女性と、地方から出てきてひとり暮らしをしながら働いている女性の間では大きな経済格差があることを実感したのです。私の周りにも、経済的な理由から夢をあきらめて地元に帰った女性がいます。社会の見えない不平等を解消し、女性が生涯にわたって豊かに生きられるようサポートしたい、ひとり暮らしの女性の夢を応援したいという思いで、このブランドを立ち上げました。
理想は「MAISON ABLE」がいらなくなる社会
稲葉:カマラ・ハリス氏が副大統領に就任するタイミングで、MAISON ABLEが出した意見広告が印象的でした。
赤星:カマラ・ハリスさんはとても優秀な方なのに「女性初」という点ばかりがフォーカスされている状況に違和感を感じていました。ブランドのサポートメンバーとも話し合い、会社としてブランドメッセージをきちんと出すべきだと判断しました。
稲葉:広告には、どんな反応がありましたか。
赤星:ジェンダーに関係なく、平等な社会を実現したいという思いで企画した広告ですが、いろいろなご意見をいただきました。「MAISON ABLEのビジョンがわかったので、安心してサービスを利用できるようになった」というユーザーの声は嬉しかったですね。
一方で、男女平等をうたいながら、「エイブル女子割(※2)」のサービスを行っているのはダブルスタンダードではないかという意見もありました。もちろん、理想は男性と女性が完全に平等な社会です。私たちも最終的には、女子割やMAISON ABLEがいらなくなる社会を実現したいと考えています。ただ、現状としては、まだ女性の単身世帯が貧困に陥りやすいという課題があり、サポートが必要だと考えています。
※2 ひとり暮らし女性を対象に仲介手数料が規定額より10%OFFになるエイブルのサービス
自分の得意なことを見つけ、育てていくキャリア形成が大切
稲葉:私たちはサーキュラーHRというプロジェクトを通じて、「人」という資源を使い捨てない社会を実現したいと考えています。
赤星:素晴らしいコンセプトだと思います。女性は一定の年齢になると、新しいステップへのチャレンジを控える傾向があります。一方で、私たちがおよそ1500人の女性を対象に行ったアンケートでも、女性たちが必ずしも結婚や恋人、パートナーを必要としなくなっている(※3)ことが分かりました。結婚はライフステージではなくライフスタイルとなり、また既婚未婚に関係なく生涯を通して社会で働きたいという女性が増え、女性の自立した生き方が求められている中で、まだ企業が寄り添えていない部分が大きいと感じています。
稲葉:これからの働き方は、どう変わっていくと思いますか。
赤星:組織や社会に対して自分がどう貢献できるのか、明確にすることが求められると思います。
例えば私自身は2009年に株式会社エイブルのグループ会社である株式会社CHINTAIに入社し、不動産営業、不動産雑誌の編集長、新規事業の立ち上げや法人営業、ブランドマネジメントなど、さまざまな業務を手がけてきました。さまざまな業務に携わる中で、自分は「外部の人とつながってコラボレーション設計をするのが好き」「女性ならではの視点で新しいサービスや事業を企画するのが得意」という強みを見出し、会社が求めている経営ビジョンに対して自身のスキルがどのように貢献できるかを常に提示できるようにしています。
企業から与えられる業務に取り組むことはもちろんですが、自身がどのように貢献できるかを自分で考え、自分にしかできない仕事、自身のポジションを作っていく自発的な行動が大切だと感じています。
AIやデジタル化がすすみ、あらゆる業務がテクノロジーへの代替がされていく中で、企業も個人に対し、「本質的に何ができるのか」という視点を持つようになっています。自分の得意なことを見つけ、育てていくキャリア形成が大切ではないでしょうか。
稲葉:自分のキャリアを会社に預けておけば安心という時代は既に終わり、個人がキャリアを作っていくことが求められるようになっていますね。厳しさと同時に、面白さもある時代だと感じています。
サステナブルに働ける環境をつくる
稲葉:女性のライフスタイルが変化する中、企業の経営者や人事担当者にはどんなことが求められるのでしょうか。
赤星:生涯にわたって、女性が人生を豊かに生きられるよう、サステナブルに働ける環境を整えることが大切だと思います。
私自身は仕事が好きで、昔から睡眠時間を削ってでも働くことが楽しくてまったく苦ではないのですが、このスタイルを続けていると、時にチームにも影響を与えてしまうことがあります。日本には長時間働くことを美徳とする風潮がありますが、良い仕事をするためにはチームの協力が必要不可欠であり、そのチームが持続的に機能するために力加減を調整し、気力や体力を温存しながらサステナブルなチームを作ることが大切だと実感しました。
また、海外では、卵子凍結や不妊治療を希望する社員を支援する企業もあるといいます。日本でも、ただ単に労働時間を短くするだけではなく、福利厚生を含め、女性がより輝ける働きやすい環境作りへのサポートが必要だと感じています。
稲葉:労働時間をかっちり決めて、型にはめてしまったらそれはダイバーシティではないですからね。選択肢を広げるためのサポートは、多いほどいいと思います。
MAISON ABLEとして、今後はどんなことに取り組んできたいと考えていますか。
赤星:女性が自立して生きていくためには、キャリアやお金について学ぶ機会も重要です。今後、MAISON ABLEでは、オンライン講座として無料で学ぶことができる「メゾンエイブルカレッジ」に力を入れていきたいと考えています。講師と双方向のコミュニケーションを取りながら学び、女性同士のつながりが生まれるような場所にしたいですね。
稲葉:疲れたときに話し合ったり、つながり合える場所があることはとても大切だと感じます。今日は素敵なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 日本では、女性の就業率が7割を超える一方、男女の賃金格差は主要先進国の中でも最下位であり、ひとり暮らし女性の経済的な支援が大きな課題となっている。
- 今後は日本でも、社会課題に対して企業の経営者が意見を表明することが求められる時代になっていく。
- 女性たちが必ずしも結婚を必要としなくなる中、企業にも、女性の自立した生き方、働き方に寄り添っていく姿勢が求められる。
【プロフィール】
株式会社エイブルホールディングス MAISON ABLEブランドマネージャー
赤星 昭江
1986年生まれ。山口県出身。2009年株式会社CHINTAI入社後、不動産営業、雑誌CHINTAI編集長、動画メディア、新規事業の立ち上げ、法人営業など様々なキャリアを経て株式会社エイブルへ出向。エイブルでは単身女性の生活を豊かに新しい暮らし方を提案していくことをミッションに、国内単身女性向けブランド「MAISON ABLE」の立ち上げ、会員数20万人以上の単身女性応援クラブ「MAISON ABLE CLUB」や、ファッションレンタルショップ「airCloset×ABLE」、回転スイーツ食べ放題カフェ「MAISON ABLE Cafe Ron Ron」、その他単身女性向けサービスを数多くプロデュース。現在は、株式会社エイブルホールディングスでMAISON ABLEのブランドマネージャーとして、ブランド内で80社以上の企業とコラボする等、企業を巻き込み新しい価値を創造する共創主義を掲げている。
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