人生100年といわれる時代。大企業で定年を迎えても決して安泰ではなく、60代、70代になっても学び、働き続けることが一般的になりつつあります。年齢を重ねてもモチベーションを保ち、いきいきと働いているのはどんな人たちなのでしょうか。
ドコモグループで働く大山城治さん(60歳)と原田正一さん(64歳)は昨年、社内の新規事業創出プログラム「LAUNCH CHALLENGE」に挑戦。見事最終選考に残り、幹部の前でプレゼンテーションを行いました。
心の若さを失うことなく、重ねてきた経験や知恵を生かしながら新たな挑戦を続けるために大切なことを、お二人に教えていただきました。
定年退職直前の大山さんと、再雇用4年目の原田さんが新規事業に挑戦
――まずはお二人が、新規事業にチャレンジしようと考えたきっかけを教えてください。
大山城治さん(以下、敬称略):私はシステムエンジニアとして働いてきて、今年3月に定年退職を控えています。今の仕事が楽しくて仕方がないので、再雇用の制度を利用して働き続けるつもりですが、LAUNCH CHALLENGEへの応募を決めたときには「これがラストチャンスだ」と思っていました。また、昨年春、7年かけてビジネススクールを卒業したのですが、そこで学んだことをビジネスに活かしたいと考えたのが応募の理由です。
新規事業のテーマとして選んだのは、BCP(災害などの緊急事態にも、企業が重要な事業を継続することができるよう対応策などを定めた計画)です。システムエンジニアとして仕事をする中で、非常時のシステム運用に課題があることを感じていました。その部分を深掘りしてみたいと思ったのです。
LAUNCH CHALLENGEでは応募者にそれぞれメンターがついて、選考過程でも至れり尽くせりのサポートをしてくれます。私は関西人なので「このチャンスを活かさない手はない!」と感じました。
<大山城治さん>
原田正一さん(以下、敬称略):私は定年退職後、再雇用されて4年が経ちます。60歳までは大阪で働き、それ以降は姫路支店に勤務しています。現場のこともよくわかっていますし、モチベーションは現役時代と比べて下がっていません。収入は減りましたが、その分肩の力を抜いて、気楽に働けています。
LAUNCH CHALLENGEでは、当初、教科書のデジタル化をテーマに応募したのですが、二次選考で落選してしまいました。エントリー内容を見ていた大山さんに声をかけていただき、大山さんのプロジェクトにジョインすることになりました。
<原田正一さん>
「もっと学びたい」という思いから「還暦MBA」を取得
――年を重ねても新しいことを学び、挑戦し続けるお二人の姿に、多くの方が励まされたのではないかと思います。「心の若さ」を失わない秘訣はありますか?
原田:NTTの前身である電電公社に入社する以前は、「公務員っぽい仕事」をすることになるのだろうと漠然と考えていました。それが時代の変化と共に、NTT、ドコモへと変わって行き、ドコモの中でもマルチメディア系の仕事をすることになって、結果的に刺激の多い日々を過ごすことができたことは大きいと思います。
新しいことにチャレンジするのは以前から好きで、営業の仕事を始めたのも50代からです。営業職はお客様と接するので、技術的な知識も求められます。技術は日々進化していくので、飽きることがないですね。
大山:私が働いているソリューションサポート部は、会社の中でも数少ない、お客様と直接触れ合える「舞台」だと思っています。お客様の困り事を聞いて解決策を考える、いわば毎日が小さな新規事業開発のようなものです。お客様が喜んでくれたり、苦労して仕事をやり遂げ、仲間同士握手して涙を流したりする瞬間の喜びは「やめられまへんなあ」という感じです。
もうひとつ、転機になったのはビジネススクールでの経験です。学べば学ぶほど、もっと学びたい、知りたいという好奇心が膨らんでいきました。
ーー大山さんが、50代の働き盛りに、あえてビジネススクールへ行こうと考えたのはなぜなのですか。
大山:LAUNCH CHALLENGEに応募する以前にも、社内公募や研修の機会があれば、積極的に手を挙げていました。そんな中、会社が1科目だけビジネススクールの講義を受けさせてくれるプログラムがあり、参加することにしたのです。講義を受けて、自分がビジネスについて何にも知らなかったと気づきました。系統立てて学びたいと思い、自腹を切ってビジネススクールに通うことを決めました。
ビジネススクールでの学びは翌日から実務に活かせることばかりで、学んだことは会社での評価にもつながっていると実感しています。妻には冗談で「ビジネススクールにかかった費用はちゃんと取り返せているから大丈夫」と説明しています(笑)
若手とのコミュニケーションはフラットに「さん」付けで呼ぶ
――若手をはじめ、多様な世代とコミュニケーションをとることも多いと思うのですが、一緒に仕事をする際に意識していることはありますか?
大山:役割分担はありますが「上司・部下」「年上・年下」ということを意識することはほとんどないですね。お客様の困り事を解決するという目的のためには、年齢や性別、立場はまったく関係ありません。言いたいことは言い合うし、年齢や性別にかかわらずフラットに接しているつもりです。あまり先輩面はしたくないのですが、長年の経験から「このまま進むと地雷を踏みそうだな」と予想ができるときは、さりげなくアドバイスをしたり、困っている人がいれば上長にそっと伝えたりすることはあります。今の職場では年齢にかかわらず風通しよく、仲良く楽しく働けていると思います。
原田:私も大山さん同様、自然体でフラットに接しています。そのためにひとつ意識しているのは、年齢や性別を問わず、皆を「さん」付けで呼ぶことです。若い男性も「君」ではなく「さん」を付けて呼んでいます。
幅広いマッチングと、正当な評価制度でシニアが働きやすい社会に
――私たちサーキュラーHRでは、人は年齢を重ねることで価値が上がっていく唯一の「資源」だと考えています。変化に対応できず働くことへのモチベーションが下がってしまう人も多い中、シニア層が能力を発揮して活躍できる社会に変わっていくためには、何が必要だと思いますか。
原田:今年4月からは、70歳までの就業機会を確保することが努力義務(※)になって、シニア層が働く環境もいい方向に変わっていくのではないかと思います。働く人はそれぞれができることをしっかりとやって、少しでも存在価値を高めていく努力を続けることが大切だと思います。
(※2021年4月1日に「高年齢者の雇用の安定等に関する法律」が改正され、70歳までの就業機会の確保について、事業主が何らかの措置を講ずることが努力義務となった)
また、定年退職した人が働き続ける際、今は個人が持っている経験やスキルをもとに企業内で配属先を決めていますが、今後はもっと範囲を広げて、業界全体など、広い市場でマッチングができる仕組みができるといいなと思います。
大山:私自身は今の仕事を天職だと思って楽しんでいますが、これまでには社内の人間関係や偏見に悩んだ時期もありました。どんな組織もパーフェクトということはないですから、変えていく努力が必要です。会社が定年退職した人材を「雇ってあげる」という上から目線では、仕事への意欲も萎えてしまうかもしれません。チャレンジする機会を作り、正当な評価をすることで、モチベーションも上がるのではないでしょうか。
雇われる側の個人としても、年齢にかかわらず、自分が何のために今の仕事をしているのか、理解することが大切だと思います。特に大きな組織では、役割が細分化して、「手段が目的化する」という現象が起こりやすいです。仕事の目的を共有するだけでも、モチベーションを保ちやすくなり、いい方向に変わっていくのではないでしょうか。
――今日は貴重なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- NTTドコモでは、グループ内の全社員を対象とした新規事業創出プログラム「LAUNCH CHALLENGE」を通じて、イノベーションや新規事業が生まれる土壌作りに取り組んでいる。
- LAUNCH CHALLENGEに応募し、最終選考に残ったうちの一人である大山さんは60歳。昨年春には還暦を目前にしてMBAを取得するなど、学びとチャレンジへのモチベーションを失っていない。
- 大山さんのプロジェクトにジョインした原田さんは64歳。定年までドコモで働いた後、再雇用で現場に立ち続けている。時代の変化と共に技術が進化し続ける環境で、刺激の多い日々を過ごしたことが、心の柔軟性につながっている。
- 個人が学び続け、自身の価値を高める努力をすること、企業はチャレンジする機会を作り、正当な評価をすることで、シニア層が能力を発揮し、活躍できる社会に向けて変化していくことができる。
【プロフィール】
株式会社ドコモCS関西 ソリューションサポート部 大山城治
1960年生まれ。グロービス経営大学院大学経営研究科卒業 MBA(経営学修士)。メーカー勤務を経て1984年日本電信電話公社(現NTT)に入社。無線通信士として無線海岸局勤務、ネットワークオペレーションシステム開発、マイクロソフトと協業したインターネットコンテンツ配信システムの企画検証、音声トラフィック分析サービス(新規事業)の立ち上げ等を経験した後、2000年NTTドコモに転籍。ドコモでは法人SEとして様々な企業へのモバイル利用によるソリューション提案、システム開発、パートナー企業とのアライアンスビジネス企画に従事、勤務の傍ら、ビジネススクールで経営を学び2020年3月MBAを取得。その学びを活かして同年、ドコモ新規事業公募(LAUNCH CHALLENGE)にチャレンジして合格、役員プレゼン等を経て161作品中2位(銀賞)に入賞、現在、本業の法人SE業務とマルチワークで自身の企画したサービスの市場提供に向けて後継新規事業プログラム(39works)挑戦中、今春退職予定であるがドコモ初の退職再雇用者による新規事業立ち上げを目指している。
株式会社ドコモCS関西 姫路支店 原田正一
1956年4月大分県(朝地町)生まれ。大分県立緒方工業高等学校卒業後、1975年に日本電信電話公社 入社 。大阪を中心に、無線技士として、「統制無線中継所」にて、電話やテレビ中継の設備保守や運用に従事。NTTに民営化後、1990年から「テレビジョン中継センター」で衛星通信等を利用したSNG(放送番組素材収集システム)、災害対策業務やイベント利用促進への衛星回線の販売に従事。2000年に、(株)NTTドコモ関西モバイルマルチメディア推進部にて、現在のスマートホンとなる端末の販売支援、技術支援やiモード提供にかかわる支援業務に従事。また、利用促進用「i・joy's」の開発と運用に従事。2009年から法人営業部にて、主に公共(国・自治体)への営業に従事。2017年にNTTドコモを退職し、(株)ドコモCS関西姫路支店法人営業部に再雇用中。2020年新規事業創出プログラム「docomo LAUNCH CHALLENGE 2020」に挑戦し、銀賞を受賞。
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