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「教育が社会とつながっている」という視点が自律的な人材を育てる
~オランダ在住・クリエイティブディレクター 吉田和充さんインタビュー

2020年6月20日

クリエイティブディレクターとして、オランダを拠点に活躍する吉田和充さん。お子さんの教育のため、2016年、日本からオランダに移住したそうです。海外での子育てや、教育について綴ったブログ「おとよん」と、姉妹サイト「おとかん」が大人気の吉田さんに、オランダと日本の教育や、企業文化の違いについてインタビューしました。

オランダの教育は「社会とつながっている」

編集部(以下、――):吉田さんは、大手広告代理店で活躍された後、オランダに移住されたのですよね。移住を決めた一番の理由は、やはりお子さんの教育ですか?

吉田さん(以下、敬称略):そうですね。子どもが小学生になる前に、オランダへ行こうと決めていました。少しずつ準備をして、2016年に移住しました。現在はオランダと日本で複数の会社を経営しています。

――オランダは教育先進国として世界の注目を集めていますが、日本の教育と比べて、どんなところが違うのですか。

吉田一番大きな違いは、「教育が社会とつながっている」という視点があるかどうかだと思います。オランダでは、先生は新しいことを教える立場ではありません。子どもに寄り添って、背中を押してあげる「コーチ」という位置づけです。子どもたちが将来、どんな大人になりたいか、社会の中でどんな職業を選ぶかを考える機会を提供することが、オランダの教育の根本になっています。

子どもが両親の職場を見学したり、親たちが学校へ来て、自分たちの仕事を紹介したりすることも頻繁に行われていますし、ゴールデンタイムには子ども向けのニュースが放送されます。

――子どもたちが、自然に社会への関心を持つような風土があるのですね。

吉田:そうですね。ですから、たとえば日本の教育関係の方がオランダの教育を視察に来て「ぜひこの手法を取り入れたい」と感じても、ピンポイントで取り入れられるものではないので、なかなか難しいと思います。

――社会全体が共有している教育についての考え方を変えるとなると、短期間では難しいですね。もしかすると、10年単位の時間がかかるかもしれない。

吉田:そうなんです。変化を待っている間に、子どもはどんどん大きくなってしまうので、わが家は移住を決めました。
 

<吉田さんのブログ「おとよん」>

「とりあえずやってみる」実験思考が多様性を生む

――私たちは「サーキュラーHR」というメディアを通じて、人と“はたらく”のあり方を再構築することを目指しています。吉田さんのお話をうかがっていて、学校だけでなく、日本の企業にも人を育てる力がなくなりつつあるなと感じました。

吉田:これはもう会社だけの問題ではなく、教育を含む日本全体の問題ですよね。いかに正解を求めるかという教育しか受けていないのに、突然「自主性を持って」とか「リーダーシップを発揮して」と言われても、自分の頭で考えることは難しいと思います。

「即戦力」という言葉が、日本では、「上司の言うことを聞いてその通りに成果を出す」という意味になってしまっています。日本企業の成り立ちが、官僚制や軍隊の階級制をベースにしているので、出る杭は打たれることになってしまうのだと思います。

ヨーロッパでは、歴史的に職業組合が強く、プロフェッショナルとして自分の立場と価値を築いていくという職業観を多くの人が持っています。教育もその価値観に根ざしているので、みんな一緒に正解を求める日本の傾向とは、本質的に違うのではないでしょうか。

<ロックダウン中のユトレヒトの様子(吉田さん提供)。普段は多くの人で賑わうユトレヒトの中心街も閑散としている>

――日本でも、キャリア観の教育から変えていく必要があるということが、10年以上前から言われ続けています。なぜなかなか変われないのでしょうか。

吉田:日本では、多くの人たちが変化を恐れているように感じます。オランダでは「とりあえずやってみよう」という実験思考が基本にあるので、制度も法律も頻繁に変わります。イギリスやドイツ、フランスなど列強の国々に囲まれ、資源や人も少ない中で生き延びるために、新しいことにチャレンジしていかなければならなかったからです。

オランダはプラットフォーム型のビジネスに優れていて、決済サービスプロバイダのアディエンや、オンライン旅行予約のBooking.comなどもその一例ですね。国が小さいので、商売人気質も徹底していて、どうすれば利益を出せるかということを常に考える傾向があると感じます。

――日本は、なかなか実験ができない環境ですね。試して失敗すると、もう次の挑戦をさせてもらえなくなってしまいます。

吉田:そうですね。オランダの人たちは、意外に行き当たりばったりなんです。実験してだめだったら、また考えようという感じです。一方、日本では、数十ページの企画書をがちがちに固めて準備を重ね、失敗したと気づいたときには、もう元に戻れない場所まで来ていたりしますよね。みんなが「だめだろうな」と思いながら、空気に流されている。本質的には戦時中からあまり変わっていないのではないかと感じることもあります。
 

歴史の積み重ねの上に、新たなビジョンをデザインする

<ユトレヒト大学>

――日本企業が変わるには、やはり多様な教育を受けられるようにすることが有効なのでしょうか。

吉田:日本ではいまだに偏差値という単一のものさしでランク付けをしていますが、生まれたばかりの子どもに偏差値はないですからね。成長の過程で、ほかの子と比べるようになってしまいます。繰り返しになりますが、やはり社会とつながった教育をしなければ、根本的な変化にはつながらないのではないでしょうか。

オランダでは、たとえばデザイン事務所を立ち上げるときに、デザイナーのほかに歴史家や哲学者がメンバーに加わることがあります。まず歴史の蓄積があり、その上に新しいビジョンをデザインしていくことが基本的な考え方なのです。

日本にはヨーロッパよりも長い歴史があるのに、現在の社会で歴史の教訓をあまり活かせていないことは残念に感じますね。

――確かに日本では、3~4代前の先祖が何をしていたか、知らない人も多いですね。せっかくサステナブルな文化の伝統があるのに、惜しいなと思います。

 

吉田:日本人はとても優秀で、信頼できて、一緒に働きやすいパーソナリティを持っていると思います。海外の教育や文化について知らないために、チャンスを失っているのはもったいないです。少しでも変化のきっかけになる情報を発信しようと考えて、私もブログをスタートしました。今後はメディアなどを立ち上げ、さらに新しい形で発信を続けていきたいと思っています。

 

また、オランダ式の「教えない」「自分で考える」教育を重視した、子どもの育ちを応援するオンラインスポーツ&アートクラブ「Serrendip(セレンディップ)」もスタートする予定です。日本の過保護な教育や、子育てのhow toをとっぱらい、子どもがもともと持っているものを引き出す仕組みを作りたいと考えています。

 

――今日は貴重なお話、ありがとうございました。
 

<サーキュラーHRへのヒント>

  • オランダの教育には、「教育が社会とつながっている」という視点があり、先生は子どもに寄り添って背中を押す「コーチ」の役割を果たしている。
  • オランダ社会には「とりあえずやってみよう」という実験思考が基本にあり、制度や法律も頻繁に変わる。
  • ヨーロッパでは、文化の根底に歴史の蓄積があり、その上に新しいビジョンをデザインするという考え方で社会が成り立っている。

【プロフィール】
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director 吉田 和充

1997年博報堂入社。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど数多くのクリエイティブを手がけ、ACCグランプリなどの受賞歴多数。2016年、子どもの教育のためオランダへ拠点を移す。日本とオランダで複数の会社を経営し、クリエイティブディレクターとして活躍している。海外での子育てや教育事情を綴ったブログ「おとよん」が人気を集めている。
http://otoyon.com/

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