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フリーランスが「チーム」で働くということ
~翻訳家・徳田 なおみさんインタビュー

2021年8月17日

働き方の選択肢が広がり、会社に所属せずに働く人が増えています。フリーランスという働き方は、時間や場所の自由度が高い一方で、収入の不安定さや孤独感などの課題もあるもの。そんなデメリットを乗り越えようと、フリーランスのチームで仕事を受注し、プロジェクトを進めていくという新たな挑戦をする人たちがいます。

フリーランス翻訳チームでリーダーをつとめる徳田なおみさんに、チームで働くことのメリットや、チームを運営する上で心がけていることを教えていただきました。

翻訳の仕事をチームで請け負う

ーーまずは、フリーランスのチームで仕事をすることになった経緯を教えてください。

徳田なおみさん(以下、敬称略):私はもともと、企業とプロフェッショナルなフリーランス人材をマッチングする株式会社Warisの紹介で、個人で翻訳の仕事を請け負っていました。2020年、2人目の子どもの産休に入るタイミングで、それまで担当していた仕事の一部をほかのフリーランスの方にお願いすることになったんです。そのときに、ひとつの案件を複数の方と分担するというやり方を初めて経験して、メリットがあることを実感しました。そこで産休から復帰した後も、チーム制を継続することになったのです。

ーーどんなメリットがあったのでしょう。

徳田:当初、一緒にお仕事してくださったのは、パートナーの仕事に帯同して海外に住んでいる女性たち、いわゆる「駐妻」さんでした。日本と時差があり、ちょうど昼夜が逆だったので、たとえばクライアントからの急な依頼を日本時間の夕方にメールで送ると、翌朝には翻訳した原稿を送ってもらうことができたのです。複数人で協力することで、受注する仕事の幅も広がるのではないかと考えるきっかけになりましたね。

ーー今は、どのような体制でどんな仕事をしているのですか。

徳田:徐々にメンバーが増えて、現在は翻訳者だけで10人程度のチームになっています。私がリーダーとして、原稿のチェックや進捗管理を担当しています。チームが大きくなってきたので、クライアントとのやりとりを担当するディレクターの方にも入っていただきました。

業務の内容は、クライアント企業がお客様に提案するプレゼン資料や議事録の翻訳です。日本語から英語に翻訳することもあれば、英語を和訳することもあります。案件数も順調に増え、開始から半年あまりで2.5倍になっています。

チーム制になって、初めて完全な夏休みがとれた

ーー徳田さんご自身のことも教えてください。いつごろからフリーランスの翻訳者として活動を始めたのですか。

徳田:学生時代から英語が好きで、翻訳者になりたいと思っていました。卒業後は東京のシンガポール大使館で働きながら、翻訳の学校に通って学んでいました。フリーランスの翻訳者として働きはじめたのは、十数年前からです。子ども関係の用事を済ませながら、自宅で仕事ができるのは大きなメリットですね。

ーーチームで仕事をするようになって、どんな変化がありましたか。

徳田:翻訳の仕事は基本的に、ひとりでパソコンに向かう時間がほとんどです。チームで仕事をするようになって、チーム内のミーティングなど、話し言葉で伝えるコミュニケーションが増えました。長年続けてきた仕事のやり方が変わる、大きなシフトでしたね。最初は会話の「リハビリ」のような感覚もありましたが、今は新しい体制での働き方を楽しんでいます。

笠原(編集部):私はWarisのメンバーとして、徳田さんたちと一緒にチームづくりをしています。フリーランスの方の中には「自分のペースを守って、ひとりでやっていきたい」という方もいますが、徳田さんのように「楽しい」と感じてもらえるとうれしいですね。

徳田:Warisのようなエージェントが間に入ってくれるのは、チームを作る上でとても心強いと感じています。当初は私ひとりで、原稿のクオリティ管理とクライアントとのやりとりを担当していたのですが、業務量が増えて、翻訳の作業に時間を割けなくなってしまったんです。笠原さんに相談したら、すぐにディレクションを別の方に依頼しましょうと提案があり、ほっとしました。

笠原:感じていることを、お互い率直に言い合える関係が築けていることは、私たちとしてもありがたいです。Warisとしても前例のない試みだったので、試行錯誤しながら、ようやく体制が整ってきたという実感がありますね。

徳田:これは「フリーランスあるある」だと思うのですが、私は子どもが小さいときから、旅行にも常にパソコンを持っていって、行く先々で仕事をしていたんです。最近、新聞で休日に関する記事を読んだ上の子どもから「ママには有給休暇ってないの?」と聞かれました。そう言えばフリーランスになってから、長い間、完全な「お休み」をとっていなかったと気がついて、初めて夏休みをとらせてもらうことになりました。これも、カバーしてくれる仲間がいるチーム制だからこそのメリットだと思います。

笠原:本当に長い間、がんばってこられたのですね。徳田さんは誠実でクオリティの高いお仕事をされるので、クライアント企業内の口コミで他部署にも評判が広がって、「徳田さんに翻訳をお願いしたい」とご指名の電話がかかってくることもある方なんです。

徳田:フリーランスとして、いただいた仕事を着実にこなし、高いクオリティで納品することそのものが営業活動だと思って、ここまで続けてきた感覚はありますね。

オンラインツールを駆使してコミュニケーション

ーー仲間どうし、お互いサポートし合えるのは、フリーランスにとって心強いですね。一方で、チームで働く難しさを感じることはありますか?

徳田:当初は翻訳する原稿の内容やトーンについて心配していました。でも、実際にプロジェクトがスタートすると、フォーマットの統一や原稿の共有方法、数字の表記など、テクニカルな部分で気をつかうことが多いですね。ひとりで仕事をしているときには簡単に統一できたことも、複数の人が同時にひとつのプロジェクトに携わると、意外なところで違いが出るのだと気づきました。

ーーチーム内にはどんな方がいるのですか。

徳田:副業として翻訳の仕事をしている方、海外に住んでいる方など、本当に多様な人材に活躍していただいています。仕事を進めるスピードも、人によって異なります。翻訳の仕事は、「これくらいならできるだろう」と思って引き受けても、実際に翻訳してみたら難易度が高く時間がかかることもあり、対応できる分量の見積もりは難しい部分ですね。長く続けてもらえるよう、できるだけプレッシャーを感じないボリュームのお仕事をお願いするよう心がけています。

ーー多様な人材がそれぞれの能力を発揮して働けるように工夫していくという考え方は、私たちのプロジェクト「サーキュラーHR」にも通じる部分があると感じます。ふだんはオンライン上でコミュニケーションしているのですか。

徳田:はい。チャットやタスク管理ができるオンラインツールを使っています。オンラインの定例会議で連絡事項を伝えていますが、時差があることと、人数が増えてきたので、なかなか仕事以外の雑談をする時間は作れていないですね。

笠原:Warisのメンバーもほぼフルリモートワークなのですが、オンライン上にあるバーチャルオフィスを活用しています。オンライン上にデスクや椅子の画像があって、「出勤」することができます。オフィスにいる人にアイコンを近づけると、隣にいるように音声で会話できる仕組みなんです。

徳田:それは便利ですね! 「チャットするほどではないけどちょっと相談したい」ときに使えそうです。今後、ぜひ導入を検討したいですね。

ライフステージに合わせて働き方を変えられるフリーランス

ーーフリーランスという働き方に興味を持っている方に向け、徳田さんからメッセージをお願いします。

徳田:コロナ禍でリモートワークが広がったこともあり、コミュニケーションや作業内容のシェアをする上でも、便利なツールやプラットフォームがどんどん出てきています。特に女性は、結婚や出産がキャリアの転機になることも多いと思うのですが、人生のステージに合わせ柔軟に働き方を変えながら仕事を続けられるのは、フリーランスという働き方の大きなメリットです。ある程度のスキルがあって、集中して取り組みたい分野が決まっている方は、働き方の選択肢として考えてもいいのではないでしょうか。

ーー徳田さんは個人として、これからやってみたいことはありますか。

徳田:現在はいわゆるビジネス翻訳を専門に手がけていますが、今後は文芸や映像など、まったく違う分野の翻訳にも挑戦してみたいですね。行間から書き手の意図を汲み取るような、クリエイティビティが求められる翻訳に興味があります。

ーー今後のご活躍がますます楽しみです! 今日は貴重なお話、ありがとうございました。

<サーキュラーHRへのヒント>

  • Warisの翻訳チームは、リーダーとディレクター、約10人のフリーランス翻訳者が協力してひとつの案件を請け負う体制をとっている。
  • フォーマットの統一や、それぞれが担当する分量の見積もりなど、チーム制の運営には難しい部分もあるが、お互いにサポートし合えるなどメリットも多い。
  • 人生のステージに合わせ柔軟に働き方を変えながら仕事を続けられるのは、フリーランスという働き方の大きなメリットである。

【プロフィール】

翻訳家

徳田 なおみ

2001年イギリスサセックス大学院国際関係学修士課程修了後、在京シンガポール大使館で7年勤務。その後、シンガポールへの渡星をきっかけに2008年よりフリーランス翻訳者として翻訳会社に登録し、英日・日英翻訳に携わる。帰国後、2014年株式会社Warisに登録以来、クライアント企業の社内翻訳業務を請け負い、現在に至る。

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