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エシカルな挑戦が企業の価値を高める
~エシカル協会代表・末吉里花さんインタビュー

2020年9月11日

「エシカル」を知っていますか?
直訳すると「倫理的」、特に「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」のことを指して使われています(「エシカル協会」HPより)。

今回は、一般社団法人エシカル協会代表の末吉里花さんと、自身もセレクトショップ「エシカルペイフォワード」を経営するサーキュラーHR・稲葉編集長が、エシカルの視点から見たアフターコロナの世界や、これからの働き方について対談しました。

エシカルとは、内なる規範を持って行動すること

稲葉編集長(以下、敬称略):最初に、末吉さんが考える「エシカル」とは何かというところから教えていただけますか。

末吉さん(以下、敬称略):はい。エシカルは一般的に、「法的な縛りはないけれども、多くの人たちが正しいと思うことで、人間が本来持つ良心から発生した社会的な規範」のことを指しています。

「正しさ」や「倫理」は人それぞれ違うものなので、私自身、伝え方について悩んだ時期もありました。そんなとき、エシカル協会の相談役を務めてくださっている環境ジャーナリストの枝廣淳子さんが「『正』という感じは『一』と『止』でできています。つまり『この線で止まれ』という意味なんですよ」と教えてくれました。「一」は規範やルールを表しているのですが、現代はその規範が多様化し、そもそも、規範を持っていない人もいるという状況です。

まずは個人が、自分の中に内なる規範をしっかりと持つことが大切だと考えています。規範を持っていれば、何か問題が起こったときも、その規範を使って物事を考えたり、対話を通じて答えを見つけたりすることができるでしょう。内なる規範を育てていくことが「エシカルな自分づくり」につながります。

人や地球環境、社会、地域に対して内なる規範を持ち、思いやりのある考え方や行動をするということがエシカルだと、私たちは定義しています。エシカルは形容詞なので、さまざまなジャンルと掛け合わせて「エシカルな人事」「エシカルな金融」などを考えることができますが、その中でも私たちの団体では「エシカルな消費」に力を入れて活動をしています。
 

©一般社団法人エシカル協会

「できていない部分」を公表することが企業の信頼につながる

稲葉:私たちサーキュラーHRでは、人材を「もっとも価値のある資源」と位置づけ、その人という「資源」を、使い捨てるのではなく、社会の中で育て、持続的に活躍できる仕組みを整えようという活動をしていて、エシカルと共通する部分が多いと考えています。

末吉:従来のエシカルの文脈の中では、発展途上国などで働く立場の弱い人について取り上げることはあっても、日本の一般企業の中で、エシカルな働き方をするにはどうすればいいかという視点は抜け落ちていたと思うので、サーキュラーHRのような考え方は心強いですね。

稲葉:人事業界では、よく「自律性」という言葉を使います。僕は一人ひとりの自律性こそがダイバーシティだと思っているのですが、日本では「内なる規範」を持って自律的に行動することが苦手な方も多いですよね。たとえば新型コロナウイルスへの対応を見ても、リモートワークへの移行など、混乱している企業も多いという印象を持っています。一方で、拠って立つ規範を明確にしている企業はスムーズな対応ができたりと、規範の有無によって大きな差が生まれています。

末吉:パタゴニアで元環境・社会部門シニアディレクターを務めていた佐藤潤一さんが仰っていたことなのですが、会社をひとつの人格としてとらえると、その人格をつくるのは、会社に集っている人たちなのですよね。ときどき「会社はこう言っているけれど、自分はこう思う」と発言する方がいますが、「表」と「裏」を使い分けるというのは、個人でも、会社でもあまり気持ちのいいものではないと思います。

稲葉:今、アメリカではブラック・ライブズ・マターに対して、企業が意見表明をするという動きがあります。日本でも、「プラスチックごみが増えるお菓子の過剰包装をやめてほしい」と高校生からブルボンに意見が寄せられ、それに対するブルボンの回答が真摯で誠実なものであるとして話題になりました。企業も、自分たちが何を考えてどう行動していくのか、今できていること、まだできていないことは何なのかを、正直に開示していく時代になっていくのかもしれません。

末吉:まさにその点が重要だと思います。日本では、エシカルな活動をしていてもあえて言わなかったり、「やっていること」しか発信しなかったりする企業もありますが、「できていること」「できていないこと」の両方を公表することで信頼を獲得できますよね。

一方、生活者の側も、おかしいと感じたことは積極的に企業に伝えることが大切です。日本では、問題意識を持ってもなかなか声を上げることが難しいですが、安心して意見を言える社会をつくっていくことも大切ですね。

稲葉:マイナスの部分をきちんと認めて、みんなで良くしていこうという取り組みができるようになるといいですね。
 

エシカルを学び、行動に変えていく

稲葉:今、新型コロナウイルスの影響で「エシカル」や「SDGs」に関心を持つ人が増えていると感じます。私が経営するセレクトショップ「エシカルペイフォワード」では、平日の日中、リモートワークの合間に来てくれる方もいるんです。

末吉:それは素敵ですね!

稲葉:エシカル協会では「エシカル・コンシェルジュ講座」という一般向けの講座も行っていますね。社会情勢が大きく変わる中、受講する方の意識など、何か変化は感じていますか。

末吉:これまで何年も講座をやってきましたが、実はこの春から開催した講座が、一番受講生が多かったんです。このような状況下で申し込んでくれる方がいるのかな、と当初は不安だったのですが、新型コロナウイルスの影響で、自分の暮らしや幸せ、働き方を見つめ直す方が増えているのかもしれません。

ここ数年の変化を見ていると、従来は、比較的自由な働き方をしている女性の受講者が多かったのですが、今は圧倒的に、企業に勤めている方が増えています。また、会社員の中でも、当初はCSR部門の方が多かったのですが、最近では部門は関係なく、あらゆる職種の方が受講しています。企業の中でもSDGsを推進していかなければならない時代になり、問題意識を持っている方が増えているのかもしれません。個人として「自分自身が本当にこの会社で働いていていいのか」と疑問を持っている方もいるようです。
 

©一般社団法人エシカル協会

末吉:実際に受講すると、まずは個人の暮らしの中から変わっていく人が多いです。たとえば、近所のスーパーに平飼いの卵が置かれていなかったので、仲間と一緒に声を届けた結果、平飼いの卵が置かれるようになったというような報告は本当にうれしいですね。自分だけが変わるのではなく、自分の行動によって社会が変わるということを体験できると、大きな自信になると思います。講座をきっかけに、今の会社ではできないことを実現したいと一歩踏み出して会社を辞めるなど、キャリアチェンジをする方も少なくないんです。

一方、会社の中でできることを実践している方もたくさんいます。社内で「エシカル部」のようなものをつくり、興味のある人が集まって学んだり、実践できることを探したりする活動をしてくれているようです。会社に所属しながらエシカルを実践していくときに大きな力になるのは、やはり同じ志を持った「仲間」の存在だと思います。

稲葉:「エシカル・コンシェルジュ講座」にはいろいろなメニューがあるので、何かしら自分が興味のあることを見つけるきっかけになりますよね。

末吉:そうですね。学んで終わりではなく、行動に移そうとする人がどんどん増えていると感じます。企業の方たちも、SGDsのピンバッジをつけるだけでなく、SDGsについて自分の言葉で語れるようになることが大切だと思います。重要なのは、「どんな成功事例があるか」というHowの部分よりも、「なぜその行動をするのか」というWhyの部分なので。
 

エシカルを社会人の学び直しの「入り口」に

©環境省グッドライフアワード

末吉:日本の人たちが自分の言葉で語るより唯一の正解、Howを求める傾向があるのは、教育の影響が大きいと考えています。

稲葉:そうですね。これまでの日本では、一度会社に入ってしまうと、「学び直す」という発想もあまりなかったと思います。エシカルは、自分の暮らしの中のさまざまな領域にかかわるテーマなので、会社員が何かを学んで仕事につなげたいと考えたときに、入りやすいテーマかもしれませんね。

末吉:コンシェルジュ講座を受講してくれる方も、ちょっとしたきっかけでエシカルのことを耳にしたり、暮らしの中で疑問を持ったことをきっかけに学んでいる方が多いです。連続で受講している方からは「ヤバい扉を開けちゃった」という声をよく聞きます。もう何も知らなかった頃の自分には戻れない。でも「何も知らなかった無知な自分よりは今の自分のほうが好き」「自然体の自分でいられるようになった」という感想を多くいただいています。

 

稲葉:学びの中で、自分が大切にしていることに気がついたり、これまで当たり前だと思っていた身の周りの物事に疑問や関心を持つようになるのは面白いですよね。
 

どの部署の社員に聞いても、自分の言葉でエシカルを語れるか

©一般社団法人エシカル協会

稲葉:末吉さんは若い世代にも、エシカルをテーマにお話をされているのですよね。

末吉:はい。先日、とある高校で聞いた話なのですが、校長先生が生徒に個包装のチョコレートを配ったそうなんです。それに対して生徒たちから「プラスチックで個別に包装されたチョコレートは食べません」という声が上がったそうです。全員ではなくとも、エシカルな視点から、自分の意思をはっきりと表明できる世代が出てきているのですね。

若い世代にとっては、自分たちの未来そのものの話ですから、真剣に考えていますし、「自分たちが変えなければ」という危機感もあるでしょう。SNSでは「#エシカル就活」というハッシュタグが盛り上がっていますし、就活中の学生は「企業が倫理的な行動をしているかどうか」という視点で企業活動を見ています。企業が優秀な人材を獲得するためにも、若い人の声に耳を傾けることは重要だと思います。

稲葉:若い人と一緒に働く上で、基本的な知識としてエシカルやSDGsのことを知らないと、世代間で価値観のギャップが生まれてしまいます。基礎教養として知っておくことが求められるようになるでしょうね。

©一般社団法人エシカル協会

末吉:ある企業が本当にエシカルかどうかを知るには、広報や人事だけではなく、どの部署の社員にエシカルについて聞いても、それぞれ自分の言葉で答えられるかどうかということが、若い人たちにとっての判断基準になると思います。

稲葉:エシカルな活動を含め、会社が何を目指していくのかを社員がしっかりと理解して、その中で自分がどの部分を担うのかがわかっていれば、きっとその会社で働くことは楽しいですよね。次の世代のために、企業内でもできることがたくさんありそうです。

末吉:企業にとっては、自分たちの価値を高めるために、エシカルに取り組むことは意義のあることです。今後エシカル協会としても、実際に行動に移すためのプラットフォームをつくっていきたいと思っています。

稲葉:今日は貴重なお話、ありがとうございました。
 

<サーキュラーHRへのヒント>

  • エシカルとは、人や地球環境、社会、地域に対して内なる規範を持ち、思いやりのある考え方や行動をすること。
  • 自分たちが何を考えてどう行動していくのか、今できていること、まだできていないことを正直に開示していくことが、企業の信頼につながる。
  • エシカルやSDGsに取り組む上で重要なのは、「どんな成功事例があるか」というHowの部分よりも、「なぜその行動をするのか」というWhyの部分。
  • 企業の広報や人事だけではなく、どの部署の社員にエシカルについて聞いても、それぞれ自分の言葉で答えられるかどうかが、その企業がエシカルかどうかの判断基準になる。

【プロフィール】

一般社団法人エシカル協会代表理事 日本ユネスコ国内委員会広報大使 末吉里花

慶應義塾大学総合政策学部卒業。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し講演を重ねている。著書に『はじめてのエシカル』(山川出版社)、絵本『じゅんびはいいかい?〜名もなきこざるとエシカルな冒険〜』(山川出版社)、英語版絵本『Are You Ready? The Journey to the Veiled World』 (山川出版社)ほか。東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、地域循環共生社会連携協会理事、SOMPO環境財団評議員、花王株式会社ESGアドバイザリーボード、NPO法人FTSN(Fair Trade Students Network)関東顧問、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン アドバイザー、ピープルツリー アンバサダー。
 

※2020年10月17日(土)より、エシカル協会が開催する「2020 秋 エシカル・コンシェルジュ講座」が開講します。詳細はこちらから。

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