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「制度」と「風土」の両面から、妊活と仕事を両立しやすい社会に
~株式会社ファミワン社長 石川勇介さんインタビュー

2020年8月25日

妊活コンシェルジュサービス「famione(ファミワン)」。妊活の専門家によるLINE相談や、企業向けの妊活セミナーなど、妊活する人たちに寄り添うサービスが人気です。5.5組に1組の夫婦が妊活をするという時代に、企業は妊活する人たちとどう向き合っていけばいいのでしょうか。株式会社ファミワンの代表取締役、石川勇介さんにお話をうかがいました。

専門家から妊活のアドバイスを受けられるサービス

編集部(以下、――):最初に、なぜ妊活コンシェルジュサービスを立ち上げたのか、経緯を教えていただけますか?

石川さん(以下、敬称略):今、日本では、5.5組に1組の夫婦が、何らかの形で妊活をしています。妊活には時間も費用もかかり、仕事との両立も簡単ではありません。仕事をしながら妊活を経験した人のうち、5人に1人が退職したというデータもあります。私自身も、会社を立ち上げる以前に、妊活で悩んだ経験がありました。自分たちの世代でこの問題を解決しなければ、子どもたちの世代が同じことで苦しむことになる。そんな思いから、2015年に創業しました。

<ファミワン提供>

石川:LINEを使ったサポートサービスをスタートしたのは2年前からです。登録すると自動で質問票が届くので、ユーザーは受け身で参加することができます。不妊症専門の看護師や臨床心理士、培養士などの専門家チームからきめ細やかなアドバイスを受けられることが特徴です。また、どれだけ多くの人がアクセスしても適切なサポートが受けられるよう、システムを整備することにもこだわっています。

ファミワンは、「妊娠したい」と思ったら、誰でも気軽に使えるサービスを目指しています。一般的なサポートサービスは、悩んだ際に「その悩みを解決するために」利用することが多いと思いますが、ファミワンは「悩む前に」、妊活したらまず使ってみるサービスでありたいと考えています。

――ユーザーからは、例えばどんな相談が寄せられるのですか。

石川:妊活の進め方の相談に加えて、不妊治療のため病院を受診した方から、薬に関しての質問や、検査結果の数値の意味、治療法などについて相談を受けることもよくあります。医療行為ではありませんが、専門家としての知識の中でお答えしています。

5月からは、妊活について動画で学べるサービス「妊活ライブ」も新たにスタートしました。様々な専門家や経験者からのアーカイブ動画と、当日もチャットでリアルタイムで質問できるようなライブ開催のイベントも揃えています。動画だからこそ伝わることもありますし、zoomのチャット機能を使って質問をしたり、ほかの方の悩みやアドバイスも聞くことができるので好評です。

石川:「妊活」と一口に言っても、最初から体外受精を検討している方もいれば、ゆっくり夫婦でステップアップしていきたいと考えている方もいます。例えばタイミング法から始めたいと考えている方が、ネットの評判を見て体外受精専門のクリニックに行き、ビジネスライクに急かされているように感じたなど、その方のニーズと、選んだ病院のミスマッチが起こっていることも少なくないのです。ご相談を受けて、その方のスタンスに合った病院や治療法を紹介するということも行っています。

――ファミワンでは、企業向けのサービスも提供しているのですよね。

石川:はい。当社の専門家への相談サービスを、社員の福利厚生として導入している企業もあります。また、企業や自治体向けに、管理職を対象にした妊活セミナーも行っています。働きながら妊活する人とどう関係性を築き、支えていくのか、そのために会社の風土をどう変えていくのかについてお話しています。
 

個人に寄り添うサービスを、より多くの人に

――将来の事業展開としては、どのような方向性を考えているのでしょうか。

石川これまで築いてきた妊活サポートのノウハウを活かして、妊娠出産育児をサポートする仕組みをつくりたいと考えています。専門家に相談したり、場合によっては外部の機関を紹介することで、悩みを抱えている方たちの力になれたらと思います。

海外では、妊活分野の新しい技術の研究がどんどん進んでいます。そういったテクノロジーの紹介や、メリット・デメリットをお伝えするということにも挑戦したいです。やりたいこと、やるべきことはまだまだたくさんあると感じています。

――ファミワンのサービスは、「より多くの人に提供する」という観点と、「個人に寄り添う」という視点を両立しているところがユニークだなと感じました。

石川:ありがとうございます。1対1で相談を受け付けている個人のカウンセラーや看護師の方も多いのですが、多くの利用者に安心して使ってもらえるシステム構築と、積み重ねてきたサービス改善の知見は弊社の強みだと思います。過去に妊活を経験した方から「自分たちのときにもファミワンのようなサービスがあれば心強かった。自分も妊活中の人たちをサポートするために力になりたい」と連絡をいただくこともあります。

相談を受ける看護師や臨床心理士にとっても、医療機関に所属していると、例えばほかの病院に行ったほうがいいかもしれないというような意見は、なかなか患者さんに伝えられません。一方ファミワンでは、原則として匿名で、純粋にユーザーにとって最良の選択肢をアドバイスできるので、専門家としてもやりがいを感じているようです。

――非常に興味深いです。妊活のみならず、人事全般に転用することのできる知見だと思います。
 

「制度」と「風土」の両面から社会を変えていく

――今、日本では新型コロナウイルスの影響もあり、妊活や育児をしながら働くことがますます難しくなっています。解決策はあるのでしょうか。

石川:「制度」と「人の内的な要因」の両方から変えていく必要があると思います。まず制度面では、例えば不妊治療を保険適応で受けられるようにする、企業として費用補助を行う、などの改革が考えられます。

もうひとつは、考え方や接し方など、個人の内面的な課題ですね。今、多くの会社が生理休暇の制度を設けていますが、数%程度しか使われていないという実態があります。制度を変えても、社会や企業の中にそれを使いやすい環境や関係性がなければ、変化を根付かせることは難しいでしょう。

――産み育てやすい社会を実現するためには、「ハードとソフト」、あるいは「制度と風土」の両面からアプローチすることが非常に重要ですね。妊活のようなプライベートな事情をオープンにしやすい、互いに尊重し合える組織をつくるには、どうすればいいのでしょうか。

石川:やはり、普段からコミュニケーションをとり、信頼関係を築くことが基本だと思います。その上で、例えば妊活についての相談を受けたときに、「知っているよ」「大変なんでしょ」などと中途半端な共感や決めつけをしないことも大切です。一般論ではなく、その個人がどうしてほしいのか、どんな配慮をしてほしいのか、相手を尊重する姿勢で話を聞くことです。

相手の話に耳を傾けるのは、実は特別なことではなく、マネージャーとして働いている方なら、普段の仕事の中でやっていることではないでしょうか。例えば、ある業務に着手できていないメンバーがいたとして、最初から責めたりせず、「どこまでできているの?」「どうしてほしい?」と話を聞くことはマネジメントの基本だと思います。

同様に「実は不妊治療をしています」と伝えられても過剰に反応せず、その方にとって一番いい方法を一緒に考えるといいのではないでしょうか。

――「聞く」力、相手に「教えてもらう」姿勢は、これからの時代、より一層求められていくマネージャーの姿勢ですね。

石川:まさに「サーキュラーHR」に通じる考え方ですよね。お互いに違いを認めることが、社会にもっと浸透していくといいなと思います。

――妊活に限らず、多様性を認め合うことは、企業の生産性向上にとって非常に重要だと考えています。特に妊活については、まだ「女性の話題」と考えている男性が多いですよね。

石川:そうですね。まずはダイバーシティを推進しようとする組織や企業自身から、変わっていく必要があるのではないでしょうか。ダイバーシティをテーマにしたイベントのスピーカーが8割男性、というような事例もまだまだ見かけます。世の中を変えようとする前に、まずは自分の会社を、自分が手がけているイベントを、そして自分の意識を変えることが必要なのかもしれません。

ただ、大きな視点から見ると、「ダイバーシティのイベントだから女性スピーカーを呼ばなければならない」と考えること自体が、もしかすると思い込みなのかもしれません。女性向けのサービスをすべて女性が作っているかというと、必ずしもそうではないですから。「男性」「女性」というのは見た目を表す一種の記号にすぎないので、一番大切なのは人間の中身、個人の意識の部分かなと思います。

――なるほど。本来、人間は性別や年齢などの属性にかかわらず、一人ひとりばらばらな個性を持っていますからね。多様性の本質について考えさせられます。今日はありがとうございました!

<サーキュラーHRへのヒント>

  • 今、日本では、5.5組に1組の夫婦が、何らかの形で妊活をしている。仕事をしながら妊活を経験した人のうち、5人に1人が退職したというデータもある。
  • 不妊治療では、自分たちのニーズと、選んだ病院や治療法のミスマッチが起こることも少なくない。
  • ファミワンでは、不妊症看護認定看護師や臨床心理士が原則として匿名で相談に応じるので、純粋にユーザーにとって最良の選択肢をアドバイスすることができる。
  • 産み育てやすい社会を実現するためには、「制度」と「風土」の両面からアプローチすることが重要である。
  • 妊活などプライベートな事情について相談を受けたときに、「知っているよ」「大変なんでしょ」などと中途半端な共感や決めつけをしないことが大切。

【プロフィール】

株式会社ファミワン  代表取締役社長 石川勇介

愛知県犬山市出身。自身の妊活で強く感じた課題を解決するため、2015年に株式会社ファミワンを創業。前職の国内最大級の医師向け情報提供企業のエムスリーでは、新規事業「AskDoctors評価・開発支援サービス」の担当として企画、営業、運用まで全て実施。優しい長男と元気な長女の二児の父。家庭では土日の料理、ゴミ捨て、洗濯担当。妻には頭があがらない。

※2020年7月にサーキュラーHRが行った「マイノリティ人材」活用セミナーにも、石川さんにご登壇いただきました。イベントレポートはこちらでお読みいただけます。

サーキュラーHR~「人材ロス」ゼロ社会を目指して~

https://circularhr.waris.jp/

Warisプロフェッショナル~ビジネス系・女性フリーランス × 企業のマッチングサービス~

https://waris.co.jp/service/waris-professional

Warisワークアゲイン~女性のための再就職支援サービス~

https://waris.co.jp/service/waris-work-again

Warisキャリアエール~フリーランス女性のためのキャリア伴走サービス~

https://careeryell.waris.jp/