国際的に見ても、企業の女性役員や女性管理職の数が非常に少ない日本。コーポレートガバナンス・コードの改訂により、女性役員の登用を検討する企業が少しずつ増えています。
サーキュラーHRを運営する株式会社Warisでは、女性役員を採用したい企業と、厳選した女性人材を結ぶ「Warisエグゼクティブ」というサービスを運営しています。
今、なぜ意思決定層に女性を登用する必要があるのでしょうか。Waris共同代表の田中美和に、企業にとってのメリットを聞きました。
意思決定層に女性がいないことによるリスクとは?
稲葉編集長:はじめに、Warisエグゼクティブがスタートした背景を教えてください。
田中美和:日本は諸外国に比べ、企業の女性役員や女性管理職が極端に少ないのが現状です。グローバルでは管理職全体の3〜4割が女性ですが、日本は1割程度。上場企業における女性役員の比率は7.4%で、女性役員がゼロという上場企業が半数近くにのぼります。しかも、この10年間ほとんど増えていません。明らかに偏りがある状況です(注1)。
私たちは2013年の創業以来、事業を通じて、多様な生き方や働き方を実現することを目指してきました。8年前は珍しかった「ビジネス系フリーランス」という働き方も、かなり広がってきたと感じています。女性3人で立ち上げた会社ということもあり、女性が生き生きと働き続けられる社会を実現することも、Warisが大切にしてきたテーマです。
もっと多くの女性が企業の意思決定にかかわるようになれば、企業の事業成長に貢献できるのではないかという思いから、Warisエグゼクティブのサービスを立ち上げました。
稲葉:意思決定層に女性が増えることのメリットは、学術的な研究でも裏付けられています(注2)。逆に、女性がいないことによるリスクもあるのでしょうか。
田中:例えば、企業の商品やサービスのユーザーに女性がいる場合、女性がいない場で意思決定をすると、ユーザーが重視している視点を見落としてしまう可能性があります。企業で働く女性従業員にとってより働きやすい職場を作っていくという意味でも、ジェンダーの視点を持つことは重要です。
稲葉:社外だけでなく、社内に対しても、意思決定層に女性がいることは大切なのですね。
田中:意思決定層に女性がいることは、社内の女性たちへの強力なメッセージになります。私たちがマッチングをお手伝いした企業でも、女性役員を登用したことで女性社員が勇気づけられた、励まされたという声はとても多いです。
稲葉:社会的意識の高い学生が増える中、役員の中に女性がいることで、採用市場においても強くなるというメリットがありそうです。投資家や株主の意識も変わってきているのでしょうか。
田中:意思決定層に多様性がある企業のほうが財務パフォーマンスが高いことは、統計からも明らかです。そのため、投資家や株主の中にも、ESGやSDGsの観点を重視する方が増えています。自社だけでなく、投資先について女性リーダー層の比率目標を定めているファンドもあります。今後、女性役員や管理職がいないことは、組織の形としていびつなのではないかと指摘されるリスクになると思います。
注2 女性の活躍推進が進む企業ほど経営指標が良く、女性取締役がいる企業の方が、いない企業に比べ、株式パフォーマンスが良くなる。(内閣府資料より https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/mppt_01.pdf)
40〜50代を中心に、約300人のエグゼクティブ人材が登録
稲葉:なぜ日本で女性リーダーが増えないのかという議論に対し、「なりたがる女性が少ないから」と指摘する人もいます。
田中:1990年代以降、複数の研究で、女性のリーダーシップが男性より劣っているという事実はないという結論が出ています。にもかかわらず「組織のリーダーには男性が向いている」「リーダーになりたがらない女性が多い」という言説がまかり通ってしまう。これは、組織や社会の中にある根強いステレオタイプが原因ではないでしょうか。
一方で、女性の自己評価が男性に比べて低いということは、学術的にも証明されています。私の知人は、女性に管理職のポジションを打診するとき、一度断られても必ずもう一度声をかけると決めているそうです。
稲葉:Warisエグゼクティブに登録しているのは、どんな方たちなのでしょうか。
田中:40代、50代を中心に、およそ300人の方にご登録いただいています(2021年10月現在)。これほど多くの方にご登録いただけると思っていなかったので、正直驚きました。経営者や企業役員、経営企画などのご経験や、財務、会計、PR、IRなど専門的なスキルを持った素晴らしい人材ばかりです。豊富な経験を積み、事業を俯瞰する目を養って、ご自身の強みを客観的に意識されている方が多い印象ですね。
稲葉:私も複数の登録者の方とお話しましたが、エグゼクティブ層の人材であるにもかかわらずバランスがよく、話しにくさをまったく感じませんでした。
田中:女性エグゼクティブというと、とても優秀で遠い存在というイメージがあるかもしれません。でも、登録者の方とお話していると、皆さん人間的な魅力にあふれています。謙虚でフラット、かつレジリエントな方が多いですね。就職氷河期を経て、ロールモデルが少ない中で模索しながら道を切りひらいてきた世代ということも、関係があるかもしれません。
登録の理由として「”Live Your Life”というWarisのビジョンに共感した」とおっしゃる方が多いのも特徴です。人材エージェントを選ぶときに「ビジョンへの共感」が理由になることって、一般的にはあまりないと思うんです。「ヘッドハンターに声をかけられたことはあるけれど、自分からエージェントに登録したのは初めて」「応援したくて登録しました」とおっしゃる方もいます。女性3人で起業し、女性が働きやすい社会を実現することを目指しているWarisに対し、連帯や共感、「シスターフッド」のような思いを持ってくださっているのかなと感じます。
稲葉:Warisが積み上げてきた信頼や、共感の力でじわじわと300人の方が自ら登録してくださったというのは、非常にうれしいですね。
「サステナビリティ」と「DX」にチャンスがある
稲葉:外部から女性役員を登用したいという企業の声は、実際増えているのでしょうか。
田中:コーポレートガバナンス・コード(上場企業が守るべき企業統治の行動規範)が改訂されたことで、取締役のスキルマトリックスの開示が求められるようになりました。このことを念頭に人選をし、できればジェンダーのバランスを考慮して女性の方を登用したいという企業の声が増えています。
2021年のキーワードは「サステナビリティ(持続可能性)」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。サステナビリティに関する自社の取り組みを開示することが求められるようになり、サステナビリティ領域における知見を持つ女性を探しているという声をよく耳にします。CSR関連の経験を積んできた人材、PRやIRのバックグラウンドを持ち、サステナビリティに関する取り組みを発信する業務に携わってきた人材などは、特にニーズが高まっていると感じますね。
稲葉:サステナビリティは近年注目されるようになった新しい領域で、営業や開発などの分野に比べ、比較的女性の割合が多い印象があります。まだ社内にサステナビリティの知見を持つ人材がいない企業にとっては、女性役員を登用するチャンスかもしれません。
田中:女性役員の数を増やすと言っても、すでに取締役の椅子の多くは男性で埋まっており、女性が意思決定層に入っていくのは簡単なことではありません。サステナビリティやDXという新しい領域は、女性にとってチャレンジしやすく、企業としても女性を登用しやすい分野だと思います。
自社にフィットする人材と出会うには、早めの情報収集が鍵
稲葉:今後、どんな企業にWarisエグゼクティブのサービスを届けていきたいですか。
田中:プロダクトやサービスのユーザーに女性が多い企業や、女性を中心とするファミリーに向けた商材を扱っている企業の担当者は、緊急度が高いと感じている印象があります。例えば塾などの教育関係、ハウスメーカーやファッション、化粧品、飲食業界などで、まだ女性役員がいない企業の方には、ぜひご検討をおすすめしたいですね。
また、そもそも女性従業員が少ない製造業やインフラ系の企業でも、グローバルな展開を視野に入れている場合、投資家の目線が日本国内以上に厳しくなっています。意思決定層にジェンダーの視点が入っているかどうか、ますます見られるようになっていくのではないでしょうか。
稲葉:女性エグゼクティブを採用するタイミングは、いつがいいのでしょうか。
田中:早ければ早いほどいいと思います。6月に株主総会があるとして、意識が高い企業は1年前から動いています。Warisにも前年の夏、7〜8月ごろから問い合わせが増える印象です。今や、「女性なら誰でもいい」という時代ではありません。スキルマトリックスを念頭に、自社が求めるスキルを持っている女性を採用したいというかけ合わせで探している企業が多いので、人材もかなり絞られています。
社長や経営陣の個人的なネットワークだけだと、どうしてもリーチできる人材がかぎられてしまいます。外部のエージェントを利用したほうが、本当の意味で自社にフィットする人材をフラットに見きわめられるのではないでしょうか。まずは情報収集から、なるべく早くお声がけいただけると、お手伝いできる余地が広がると思います。
稲葉:最後に、これからWarisエグゼクティブが実現したい世界観について、あらためて教えてください。
田中:これから5年くらいの間に、意思決定層の半分は女性という状態を実現したいです。これだけ長い間、女性役員、管理職の比率が非常に低い状態が続いている根底には、やはり何らかのバイアスの存在があるのではないでしょうか。女性側に課題の解決を求めても限界があります。組織としてバイアスを外し、仕組みを変えることに取り組んでもらえるよう、働きかけていきたいですね。
<サーキュラーHRへのヒント>
- 諸外国に比べ、日本は企業の女性役員や女性管理職の割合が極端に少なく、偏りがある状況が続いている。
- 意思決定層に女性を登用しジェンダー視点を取り入れることで、社外のみならず社内に対しても多くのメリットがある。
- 女性役員を採用したい企業と、厳選した女性人材をマッチングする「Warisエグゼクティブ」
は、もっと多くの女性が企業の意思決定にかかわるようになれば、企業の事業成長に貢献できるのではないかという思いからスタートした。
- サステナビリティやDXという新しい領域は、女性にとってチャレンジしやすく、企業としても女性を登用しやすい分野である。
【プロフィール】
株式会社Waris代表取締役/共同創業者 田中美和
国家資格キャリアコンサルタント。1978年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。編集記者として働く女性向け情報誌「日経ウーマン」を担当。取材・調査を通じて接した働く女性の声はのべ3万人以上。女性が自分らしく前向きに働き続けるためのサポートを行うべく2012年退職。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て2013年株式会社Waris設立。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』がある。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」理事。講談社ミモレにて『100年時代のキャリアデザイン』連載中。
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