日本の2022年のジェンダーギャップ指数は116位。2021年の120位から順位は上がったものの、スコアは0.656 (2021年0.656 )とさらに下がっています。
賃金格差、女性の意思決定層への参入の低さ、ジェンダーバイアス……など問題は山積していますが、男女間の申告な社会的格差を見据えて一つひとつ解消していく地道な努力が求められます。
その中でも、女性経営者や役員などを増やしていく試みは特に大切ではないでしょうか。男性中心の企業文化の中で、女性の意思決定層を増やし、価値を発揮していくために重要なことは何か、一般社団法人 社外取締役女性ラボ代表の椿奈緒子さんにお話をうかがいました。
女性の事業責任者、意思決定層をどう増やしていくか
稲葉編集長:はじめに、椿さんのこれまでの活動について聞かせてください。
椿奈緒子さん(以下、敬称略):シリアルイントレプレナー(連続社内起業家)として、多数の新規事業立ち上げに携わってきました。
出産を機に、ワーキングマザーのロールモデルをシェアする「パワーママプロジェクト」を立ち上げた際、「動けば社会を変えられる」という手ごたえを強く感じました。そこで、社会課題を解決する仕事に携わりたいと思い、外国人向けの求人メディアを運営するYOLOJAPANへ取締役COOとして参画。その後フリーランスとなり、新規事業開発支援を行うメンタリング株式会社の設立に至ります。
稲葉:メンタリング株式会社ではどんな事業を手がけているのですか。
椿:起業家は増えていますが、社内で事業開発を手がけられる責任者は少なく、女性となるとさらに数がかぎられます。
女性の事業責任者を増やさないと、女性の経営者層・エグゼクティブも増えないと私は考えています。孤立しがちな社内の事業責任者のサポートがしたくて、会社を設立しました。
稲葉:女性の事業責任者を増やすことが、社内外の女性取締役を増やすことにもつながるのですね。人事関連のアンケートで、女性のマネージャーが増えない理由として「女性の希望者がいない、やりたがらない」という回答を見ることも多いのですが、どうすれば女性の意思決定層を増やせるとお考えですか。
椿:まずは本人が事業を通じて実現したいこと、やりたいことを聞き、イメージしてもらうことだと思っています。マネージャーや管理職という立場につくことを考えると尻込みする女性は多いですが、それらは自分が主体的に事業を行っていけるチャンスなのです。「やりたいことが自由にできるとしたら、この事業でどんなことをしたい?」と聞かれたら、やってみようと思い手が上がるケースは多いと思うんです。
もちろん結果を出す責任はともないますが、まずは「楽しそう、自分もやりたい」と思う人が増えることが大事。その後、手を挙げた人が孤立しないようサポートできたらと考えています。
女性社外取締役が取締役会で価値を発揮することで、企業の生産性を上げていきたい
稲葉:社外取締役女性ラボをお作りになった経緯についても聞かせてください。
椿:今、女性の社外取締役が急増しています。私自身も社外取締役に就任するにあたり、10人ほどの先輩にインタビューしたんです。「どうやって価値を発揮しているの?」「何から着手して、何を始めて、どういうふうに継続しているの?」と聞いていくと、初年度はみなさん暗中模索しているとわかりました。
特に初めて就任する方に対して、社外取締役として企業価値に貢献するため、具体的にどうすればいいかという事例や工夫、心がけなどの情報が、まったく流通していないんですね。社外取締役は横のつながりも持ちにくく、孤独です。これらの課題を解決し、近年増加している女性の社外取締役がより早く価値を発揮できるようサポートしたいと考えたことが、社外取締役女性ラボを設立した背景です。
椿:私たちは、社外女性取締役を増やすことによって、「取締役会の多様性を促進し、生産性をあげることで、日本企業の価値向上に貢献する」というミッションを掲げています。2030年に、女性管理職比率30%を達成するという目標を達成して解散することが理想です。
「女性の社外取締役が必要だから」という理由でオファーされたものの、具体的に求められていることが曖昧なため、どう価値を発揮していいのかわからない、という女性取締役は少なくありません。「価値を発揮できていない」と不安に思いながら、相談相手がおらず、評価面談もないため何となくそのまま続いてしまうというパターンもよくあります。
そんなとき、ほかの企業で女性の社外取締役が取締役会で価値を発揮し、企業の生産性を上げた事例があれば、企業と個人、双方にとって有益だと考えています。
今は、女性社外取締役採用の混乱期。企業と個人にできること
稲葉:現在は、女性役員採用の混乱期だと思います。企業側もどういう人をどう探すべきかわからず、戸惑っているという印象です。
椿:私もそう思います。企業が何をするべきで、社外取締役はどんな心得を持つべきか。両者の課題を解決するようなガイドラインを作るのが、社外取締役女性ラボとしても一番やりたいことですね。
<提供:一般社団法人 社外取締役女性ラボ>
稲葉:企業は何から始めればよいのでしょうか。
椿:私が企業のご相談にのるときには、最初に取締役会の生産性と、その満足度について聞いています。コーポレートガバナンスコードの変更で社外取締役が増えた今、取締役会で個々の取締役がどれだけ機能し、価値を発揮しているのか、追及している企業はまだ少ないのではないでしょうか。取締役会の生産性について聞けば、「本当はこういうふうにしたい」という率直な意見が出てくることも多いです。まずできるのは、取締役会の現状を客観的に分析、理解すること。すると目指したい理想像が出てくる。理想を実現するために、社外取締役の視点を活かすことが必須だと思います。
稲葉:何となくやっていることをあらためて問い直し、取締役会を意義のある時間にしていくのですね。
椿:取締役会の生産性を追求すれば、企業の価値は上がります。社外取締役女性ラボでも、そのためのサポートをしていけたらいいなと思います。
稲葉:これからは事業責任者などビジネスの真っただ中にいる現役世代の女性がどんどん社外取締役になっていくのかと思います。そんな、初めて社外取締役になる女性に対しても、椿さんからアドバイスをお願いします。
椿:まずは社長と話し、取締役会の理想と現状について聞いてみる。足りない点があれば自分にできることを伝えてみるといいのではないでしょうか。それによって、自分の役割や、どう価値を発揮するかが明確になると思います。萎縮して、悩んでいても解決策にはつながりません。どうすれば価値が発揮できるのか、コミュニケーションをとってすり合わせたら、あとは実行するだけです。
ベテランの取締役の方に「1年目のときはどうされていましたか?」などと質問してみるのもいいと思います。尊敬の気持ちを持って接すれば、きっといろいろなことを教えてくれるはずです。
稲葉:今日は貴重なお話、ありがとうございました。
「社外取締役女性ラボ」のミートアップで、椿さんが現役の社外取締役女性に、「現役世代女性が社外取締役になる意義や、企業が現役世代女性の社外取締役を活かすためのコツ」について質問したところ、以下のようなご意見があったそうです。
「社外取締役にも多様性は必要。現役世代がいることで多様性になる。
ベテランの方々の素晴らしさや成功体験はありつつも、特に多様性関連については時代とともに変化していることも多く、その時代の成功体験と現在は状況が変わっていることも多いため。
多様性ならではの情報収集のしやすさもあると思います。現役世代だからこそ、現場にヒアリングをしやすかったり、声を拾いやすかったりすることもあります。今までに社内にはいないロールモデルとして、現場のやる気UPにつながることも」
〈サーキュラーHRへのヒント〉
- 女性の事業責任者を増やさなければ、女性エグゼクティブも増えない。女性の意思決定層を増やすためには、「楽しそう、自分もやりたい」と感じられるような事例を見せることが重要。
- 女性が取締役として企業価値に貢献するため、具体的にどうすればいいかという情報がまったく流通していない。社外取締役女性ラボでは、企業と個人への情報提供につとめている。
- 企業としては、まず取締役会の現状を客観的に分析、理解することが、取締役会の生産性を上げるための第一歩となる。
- これから社外取締役になる女性にとっては、率直なコミュニケーションを通じ、自分が価値発揮できるポイントを見つけて実行することが、活躍するためのポイントとなる。
【プロフィール】
一般社団法人 社外取締役女性ラボ 代表理事 椿奈緒子
メンタリング株式会社 代表取締役。総合商社、株式会社サイバーエージェント、cybozu.net株式会社CEOを経て、YOLOJAPANへ取締役COOとして参画。連続社内起業家として、デジタル領域の新規事業を手がける。後に新規事業開発支援を行うメンタリング株式会社を設立、元 株式会社リミックスポイント 社外取締役。ワーキングマザーのロールモデルをシェアする「パワーママプロジェクト」共同代表。著書『ワーママ5年目に読む本』(光文社)
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