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Withコロナ時代、働く人は「不安」とどう向き合えばいい?

~マイコーピング株式会社・徳政憲和さんインタビュー

2021年1月22日

新型コロナウイルスの流行は、暮らしや働き方を大きく変えました。先が見えない状況の中、うつ病など心の病気になる人や、強い不安を抱える人が増えています。

自分らしく働き続けるために、私たちは「不安」とどう向き合っていけばいいのでしょうか。2020年夏、「心の問題を予防的に解決するサービス」を目指してマイコーピング株式会社を創業した徳政憲和さんに、不安の時代を生きるヒントを教えていただきました。

15年間「不安症」に苦しんだ経験から創業を決意

――徳政さんは、なぜマイコーピングを創業しようと考えたのですか。

 

徳政憲和さん(以下、敬称略):実は私自身が、15年間「不安症」に苦しんでいたという背景があります。浪人時代、受験のプレッシャーで強い不安を感じて以来、大学生活や留学、就職活動、転職など、プレッシャーがかかる場面になると不安が襲ってきてうまくいかないということを繰り返していたのです。2008年、32歳のときに、通院していた精神科医がすすめていた「認知行動療法」を受けてみようと思いました。

 

認知行動療法を使ったカウンセリングを受けるようになり、ストレスによって不安が止まらなくなるという症状を劇的に改善させることができました。認知行動療法について世の中に広めたいと思い、個人のブログやSNSで「ストレスケア」についての情報を発信するようになったのです。非常に多くの方が興味を持ってくださり、「励まされました」「もっと知りたいです」などとコメントやメッセージが届くようになりました。

 

ちょうど、欧米でメンタルヘルス系のスタートアップが伸びている状況も目にしていました。もともとの専門である「経営」と「心の領域」を組み合わせて、かつての私のように苦しむ人が増えないようにしたい。そんな想いから創業を決めました。

 

認知や行動を変えることで、感情を変容させる

――そもそも、認知行動療法とはどんな治療法なのでしょうか?

徳政:例えば、苦労して作った資料を上司からダメ出しされたり、同僚の成功に嫉妬したりと、働く人の悩みのきっかけは、実は日常的なものであることが多いと思います。でも、それが曲者で、日常的で些細な悩みであっても、それが原因で不安が止まらなくなって仕事が手につかなくなったり、「今の会社で働いていていいんだろうか」「人生を考えなきゃ」とさらに悩みが大きく膨らんでいったりしてしまうことがあります。こういう「悩みの負のサイクル」にアプローチしていく上で認知行動療法はとても役立ちます。

徳政:つまり、上司にダメ出しされたら「人生終わりだ」と落ち込むのでなく、「ちょっと資料を改善してみようかな」と前向きに捉えてみたり、ダメ出しされた部分を少し修正してみる。このように、対象の捉え方(認知)や対処の仕方(行動)を変容させることで、ストレスにうまく対応する方法を身につけていくのが認知行動療法の基本的な方法論になります。

――薬に頼らず、視点を変えることで不安から自由になれたら、とても楽になりますね。ただ、考え方の癖を変えるのはなかなか難しそうです。

徳政:認知行動療法では、ストレスを感じた時の捉え方(認知)、感情、行動、身体の反応などを、メモに書き出して、それを使いながらカウンセラーさんと対話しながら進めていきます。例えば、海外出張前日の夜10時、明日使う資料がまだ出来上がっていないとします。「もうダメだ……」(認知)と絶望して不安(感情)が高まります。現実から目を逸らすために、つい1時間ネットサーフィン(行動)してしまう。この時点で11時です。「本当に終わりだ……」とさらに不安になり、結局朝までネットサーフィンしてしまって、絶望したまま空港に向かう。これは私が経験した実話なのですが、まずはこうやってストレスとそれへの反応を書き出してみます。

こうやって書き出してみることで、自分のストレスへの反応を客観視できるようになることがポイントです。自分を俯瞰して眺めるのが大切なんです。そして、こういったメモを見ながら、カウンセラーさんと一緒に、この場面でもう少し違った対処ができたのではといろいろと検討していきます。「もう10時だ、絶望だ」と考えるのでなく「まだ朝まで時間あるから大丈夫そう」と考えてみたり、「手のつけやすいとこからはじめよう」と行動してみたりができたのではないか、と。これを繰り返していくことで、徐々にストレス状況にうまく適応できる思考や行動を身に着けていくことが認知行動療法の基本的な進め方です。

不安に対処するための「スキル」を身に着ける

――マイコーピングでは、具体的にどんな事業を手がけているのですか。

徳政:「心の問題を予防的に解決するサービス」を目指しています。認知行動療法についての良質な情報の提供と、専門家によるオンラインカウンセリングを行っていきたいと考えています。認知行動療法をベースにしたカウンセリングを10年以上実践してきた臨床心理士、岩間優子さんと二人三脚で、実際に苦しんでいる人たちの問題を解決していくために準備を進めています。働く人が不安に対処する「スキル」を身に着けることができるようサポートしていきたいですね。

――認知行動療法を、ビジネスに必要な「スキル」としてとらえるという観点は、とてもユニークですね。

徳政:「メンタルヘルス」という言葉には、多くの人がタブー感を持っていますよね。私はなるべくメンタルヘルスという言葉を使わず「仕事をうまくこなしていくための心のスキル」と表現するようにしています。心をうまく使いこなすことは、ビジネスにおけるスキルであるとすることで、心理的なハードルを下げればより多くの人が身近に感じてくれると思うからです。

マイコーピングは「悩み苦しむ人が、その対処法を身につけ、自ら歩み出すことを助ける」というミッションを掲げています。人生を自分自身の選択で生きていくことは大切ですよね。でも、心が不安でいっぱいになると、意思決定が阻害されて、選択ができなくなってしまうのです。マイコーピングでは、そんなときに使えるスキルを身に着けられるよう、悩んでいる人に並走して、自分の足で歩き出してもらうことを大切に考えています。

――カウンセラーが上から目線で「教える」のではなく、あくまでも「並走」なのですね。

徳政:そうですね。カウンセラーが「並走者」として、悩んでいる人が自ら悩みにうまく対処できるようになることをサポートしていく。認知行動療法はこの点をすごく重視しています。

人の心理は、組織の方向性によって左右される

――コロナ禍で社会が大きく変わり、仕事や生活への不安を感じる人が増えています。自分らしく働き続けるために、私たちは不安とどう付き合っていけばいいのでしょうか。

徳政:この不安定な状況では、「ソーシャルサポート」という概念が重要だと思います。家族や友人だけでなく、上司や同僚、もしくは趣味の活動で知り合った人たちなど、自分と関わっている人からうまく「サポート」をもらうことで、自分の不安を少し楽にできたり、困っている問題の解決策が得られることにつながります。誰もが不安を感じやすい状況ですから、我慢せずに積極的に誰かの助けを求めていくことが大切と考えています。

――社員の心のケアにかかわる経営者や人事担当者の方に向け、知っておいてほしいことがあれば教えてください。

徳政:まず、会社としては、この不安定な状況下で、社員のサポートがきちんとなされているか、コミュニケーションは取れているかを確認すべきと思います。その上で、経営陣は自分たちが手掛ける事業が目指すところを明確にすることが大切です。その目標によって、組織の形態や文化が規定され、その構造が社員の心理に影響を与えていきますから。事業の目標にあわせて、協調的な組織を作るのか、競争的な組織を作るのかが決まるし、それをもとに適切なストレスケアを設計していくことが大切です。

――心が疲れてしまった人が出たとき、対症療法的に対応するのではなく、初めから戦略的に制度設計をしておくといいのですね。


徳政:あとは、「中間管理職(マネージャー)の疲弊問題」にも目を向ける必要があると思います。売り上げ目標の達成と、メンターのようにメンバーに寄り添う、両方の役割を丸投げされて、悩んでいるマネージャーが増えていると感じます。もともと心理の専門家ではないマネージャーに、心のケアまで期待するのは酷ですし、組織全体を疲弊させる要因になりがちです。役割分担をしっかり決める必要があるのではないでしょうか。

日本の組織が守ってきたものをポジティブにとらえる

――私たちは、人という資源を社会の中で循環させていこうという考え方のもと「サーキュラーHR」プロジェクトを運営しています。こういった視点から日本の組織を見たときに、徳政さんはどんな印象を持っていますか?

徳政:人材の活用については、欧米のほうが進んでいるという文脈で語られることが多いと思いますが、日本の組織が優れている面もあると思うんです。例えばアメリカでは、「株主価値の最大化」が企業の目的となっていて、従業員の解雇も頻繁に行われます。いろいろと課題はありつつも、日本企業の雇用や育成を大切に考える文化は、いまあらためてポジティブに捉え直すこともできるのかなと思っています。

サーキュラーHRのような新しい考え方を取り入れつつ、日本が持っているもの、守ってきたものと、うまく組み合わせていくことが大切と考えています。――最後に、徳政さんがマイコーピングの組織運営で大切にしていることを教えてください。

徳政:私は、自分たちの感情がサービスに乗り移ると思っています。例えば、パティシエが荒れた心で作っているケーキはたぶん美味しくないですよね。会社でも、メンバーがそれぞれ自分の役割に集中できているときは気持ちが穏やかで、仕事も楽しく感じられます。その雰囲気は、お客様との接点や、サービスにも宿るものではないでしょうか。

Apple社の製品は、外から見えない基盤まで美しく設計されています。人間は論理や意味だけでなく、目に見えない、言語化されていない想いに「気づく」ものだと思うのです。マイコーピングの場合、穏やかに楽しく働ける雰囲気を守り続けることを大切にしたいと考えています。

――今日はとても学びの多いお話、ありがとうございました。

<サーキュラーHRへのヒント>

  • 認知行動療法とは、対象の捉え方(認知)を俯瞰して、相対化する視点を自分の中に持つための手法のこと。
  • マイコーピングでは、不安を感じたときに使えるスキルを身に着けられるよう、悩んでいる人に並走して、自分の足で歩き出してもらうことを目指している。
  • 人間の心理は、組織の形態や、その組織の方向性によって左右される。経営者は、自分たちが手がける事業の状況や、何を目指しているのかということを明確にすることが重要。
  • 人材活用について、欧米のほうが進んでいるという文脈で語られることが多いが、日本の組織が優れている面もある。日本の組織が守ってきたことを、あらためてポジティブに捉え直す視点も有効である。

【プロフィール】

マイコーピング株式会社 代表取締役社長 徳政憲和

大学卒業後、コニカミノルタにて新規事業の海外営業・マーケティング。IBMビジネスコンサルティングサービスでのCRMコンサルタントを経て、日本IBMにてグローバル・ビジネス・サービス(GBS)事業のリソース管理部長、上海のオフショア拠点での駐在も経験。アドビにてエクスペリエンス・クラウド事業の経営企画本部長。2020年マイコーピング株式会社を創業。中央大学法学部政治学科卒。

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