日本最大のフリマアプリサービスを展開する株式会社メルカリのEngineering Officeで、エンジニア組織の人事制度、研修、イベントなどを担当する大角佳代さん。社内で立ち上げられたD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)コミュニティに所属し、マイノリティへの理解を支援する活動を行っています。インドで働いた経験を持ち、インドのビジネスに関する情報発信も行っている大角さんに、D&Iを社内に浸透させるポイントや、リモートワーク下でのダイバーシティについてお話をうかがいました。
※取材はオンラインで行いました。
まずはリーダー層から、D&Iを社内に浸透させていく
編集部(以下、――):メルカリでは2年前に、「D&Iコミュニティ」を立ち上げられたのですよね。立ち上げの経緯や、活動内容を教えていただけますか?
大角佳代さん(以下、敬称略):はい。私は現在、メルカリのEngineering Officeに所属しているのですが、それとは別に、D&Iコミュニティの活動にも取り組んでいます。
D&Iコミュニティは、最初は社内有志による部活動のような形で、勉強会を開くところからスタートしました。その動きが社内でどんどん活発になり、賛同する人が増えてきたのでチーム横断のプロジェクトが立ち上がり、その後2019年2月に専門の部署が発足したのです。現在は、3つのコミュニティに分かれて活動しています。
【メルカリD&I 3つのコミュニティ(メルカリHPより)】
・Multicultural@Mercari・・・多文化・多言語間の理解を促進する活動
・ Pride@Mercari・・・LGBT+コミュニティとアライを支援する活動
・ Women@Mercari・・・女性のエンパワメントに取り組む活動
※「アライ」とはLGBT+を理解・支援する人びとのこと
この1年間、それぞれのコミュニティに賛同するメンバーが参加して、さまざまな活動を行ってきました。たとえば、Multiculturalのコミュニティでは、Googleなど外資系の企業で、多様なバックグラウンドを持つメンバーがどのようなルールの下で働いているかという勉強会を行いました。Womenのコミュニティでは、女性がリーダーとして活躍しようとするときなぜバイアスがかかるのかという勉強会をしたり、Prideのコミュニティでは、LGBT+の勉強会を開いたりと、社内メンバーの多様性を受け容れる文化をつくることを目指して活動してきました。
<社内でのパーティの様子>
――コミュニティには、どのような方々が参加しているのですか?
大角:活動の様子を見て、共感してくれるメンバーが集まっているのですが、やはりMulticulturalのコミュニティなら外国籍のメンバー、Womenのコミュニティなら女性など、当事者の割合が多いですね。私自身はMulticulturalのコミュニティに参加しています。インドで働いていたことがあり、さまざまな国籍を持つメンバーと一緒に仕事をすることの難しさを実感しているからです。
――メルカリ社内にも、D&Iの当事者ではない、いわゆるマジョリティの方がいると思うのですが、彼らにD&Iの必要性を認識してもらうために工夫したことはありますか?
大角:私たち自身も、長期的な活動を通じて、参加してくれるメンバーの顔ぶれが毎回あまり変わらないことに課題を感じていました。この壁を乗り越えるために、まずはメンバーへの影響力が高い、リーダーやマネージャー層に声をかけ、関心を持ってもらおうと考えました。勉強会に参加するメンバーが8割固定していても、毎回2割ずつ新しい人が参加してくれれば、少しずつでも確実に活動が浸透していきます。特に組織への影響力が大きい経営陣やマネージャーがこういった活動に耳を傾けてくれる姿勢は「理解しよう」という気持ちの現れであって、メンバーの安心感や長期的な希望につながると思うんです。
D&Iは、その重要性をしっかり理解して、信念を持って長期的に向き合おうとしている企業や組織でないと、なかなか取り組みにくいテーマです。世界に通用する企業に成長していくためにはD&Iの視点も大切だということを、長期的に伝えられるといいなと思います。
自分と違う相手への想像力を持つ
<Multicultural community主催のクリスマス会での様子>
――D&Iに関して、よく「ダイバーシティ」は理解できるけれど「インクルージョン」が難しいという声が聞かれます。大角さんは、どのような状態が「インクルージョン」だと思いますか?
大角:そうですね。文字通り訳すと「包括的」という意味ですが、実際にインクルージョンの事例を挙げるのはなかなか難しいですね。そんなとき、私は逆に「インクルージョンではない事例」を紹介することにしています。
例えば社内でのミーティングは、参加するメンバーの国籍構成や言語構成によって、やり方が大きく変わります。仮に、参加者の9割が日本人というミーティングがあるとします。会話は日本語で進められ、日本語話者でないメンバーは最後に要約のブリーフィングを受けるかもしれません。でも、日本語話者でないメンバーにとっては、議論に参加していないので、「自分は必要とされていない」と感じてしまいます。そのような状況が「インクルージョン」でないということは、誰でもわかりますよね。
インクルージョンとは、誰もが「自分はここに存在していい」「自分は必要とされている」と感じられる環境のことなのです。誰かが心理的安全性を感じられない、お互いへの配慮がない状況は、インクルージョンではありません。
ミーティングの例でいえば、「今日は日本語話者でないメンバーがいるからゆっくり話そう」「3分話したら通訳を入れよう」など、完璧でなくてもいいので、同じ条件で参加できないメンバーに配慮したアクションを入れることが大切だと思います。
この話をすると、日本の方は「自分たちが外国籍の方を排除してしまっているかもしれない」と感じる人がいるかもしれませんが、こういう事例は逆のパターンもよく起こっています。例えば自分は英語が苦手なのに、全編英語のミーティングがネイティブのスピードで進んでしまったとき。「ゆっくりした英語で話してほしいな」と感じることがあれば、それは「インクルージョンな環境ではない」と言えますよね。
こうやって、実は日常的に「もう少し配慮してほしいな」というシーンはたくさんあります。発想が出てくるかどうかは、自分と違う相手への「想像力」を持っているかどうかで決まってきますね。
<ホームパーティーにて。メンバー同士でカレーを食べている様子>
リモートワーク下でのダイバーシティとは?
――今、新型コロナウイルスをきっかけにリモートワークを導入する企業が急増しています。このような状況下では、相手がどういう人なのか、相互理解を深めることが難しいと思うのですが、リモートワーク下でのダイバーシティについてはどのようにお考えですか?
大角:これはとても難しい問題ですよね。リモートワークの導入が進んでいる会社では、アウトプットを出す人が評価される「成果主義」に偏る傾向があるかな、と個人的には思っています。すべてを成果主義の物差しで測るのが良いことなのかという議論もあると思いますが、成果主義が進むと、良くも悪くも全員がフラットな環境下に置かれます。ひとりひとりが自律的に仕事をしなければならない現在の状況では、自分の持っている背景に関わらず結果が評価されやすくなるからです。
ただ、リモートワークによって、これまでより成果を上げづらい環境で仕事をすることになった人たちがいるのも事実なので、何をもって「公正な評価」とするかの議論は今後ますます必要になると思います。多様な働き方に関する議論が広まること自体がD&Iを促進するきっかけになるのではないでしょうか。
ミッションをぶらさずに、淡々と日々を積み重ねていく
――日本企業がD&Iを進めていくためには、どんなことが必要だと思いますか。
大角:現在の日本で、D&Iについてディスカッションできる環境は、まだごく一部だと思います。社員ひとりひとりが、心からD&Iの必要性を理解して動けるようになることが理想ですが、それは一日で実現できることではありません。草の根的に、小さなステップでも少しずつ賛同者を増やし、外部の人も巻き込んで活動を広げていくことが重要ではないでしょうか。
長期的に続けるのは大変ですが、見てくれている人、理解してくれる人は必ずいるので、続ければ少しずつ文化がつくられていくと思います。
――大角さんご自身も、メルカリでのお仕事のほか、インドのビジネスに関する情報発信など、ユニークな活動をしておられます。これからの時代、働く個人はどんな意識を持っていけばいいのか、何かアドバイスはありますか。
大角:大切なのは、自分が成し遂げたいミッションや、「こんなふうに社会を良くしたい」という思いをぶらさないことではないでしょうか。私はもともと、発展途上国の社会問題に関心があり、実際インドで仕事をしたこともあります。ビジネスを通じて世の中のためになることをしたいと考える中でメルカリと出会い、理念に共感して入社することになりました。さらにメルカリは、本当のグローバル企業を目指すべく、D&Iに力を入れているので、会社への貢献と、個人としてのミッションに重なる部分があり、相乗効果が得られています。
<インドの結婚式の様子>
誰かから注目を浴びたり、偉くなりたいという動機で、短期的な結果を出そうと思えばできる時代にもなったと思います。ですが、何か社会に対してインパクトを残そうと思えば、本当に誰かのためになることを考えたり、その難しさと向き合っていくことが必要だと考えています。これからの時代は「たとえ注目されなくても、お金にならなくても、それが本当にやりたいことか」の問いに、正直に向き合える人が強いと自分は思っています。
――大角さん個人としては、これからどんなことを実現したいと考えていますか。
大角:淡々と日々を積み重ねることが大きな結果につながる、長期的に続けていった結果、誰もたどり着けない何か大きな変化が生み出せることを実証したいなと思います。私自身、スタートは1本記事を書く小さなステップだったのですが、いつかこの活動を続けていった際に、インドの首相に会えるようになったらとても嬉しいですね!
――今日は素敵なお話、ありがとうございました。
<サーキュラーHRへのヒント>
- D&Iの活動を社内に浸透させるには、まずリーダーやマネージャー層に関心を持ってもらうことが大切。
- インクルージョンとは、誰もが「自分はここに存在していい」「自分は必要とされている」と感じられる環境のこと。
- D&Iを社内文化として根付かせるには、少しずつ賛同者を増やし、外部の人も巻き込んで活動を広げていくことが重要。
【プロフィール】
大角 佳代(カヨリーナ)
北海道出身。2016年にインドへ渡航。現地で働きながら、インドのビジネスや暮らしについて発信するブログをスタートする。2018年より東京に拠点を移し、現在は株式会社メルカリのEngineering Officeで、Dev PRや社内のイベント企画を担当する傍ら、社内D&Iコミュニティの運営に携わる。
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