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キャリアシフトは娘の思いつきから。ライフワークの軸は「ワクワク」と「心地よさ」~えしかる屋・黒崎りえさんインタビュー

2023年4月25日

鎌倉にある「えしかる屋」で店長を務め、エシカル商品や新しい価値観を世に広めようと奔走している黒崎りえさん。以前は、語学力を活かして、大手電機メーカーの輸出部門業務やデザイン誌の翻訳などを手掛けていましたが、妊娠・出産やパートナーの海外赴任などを機にフリーランスに転身し、脚本家としての道を歩み始めました。その後も紆余曲折を経て、思わぬキャリアシフトのきっかけから、ようやく心の底からワクワクし心地よいと思える仕事に巡り合えたそうです。

予期せぬ荒波に揉まれながらもご自身の関心や違和感と向き合い、前に進むことで自律的なキャリアを築いてこられた黒崎さんに、これまでの経歴や自分らしい働き方についてうかがいました。

 

語学力を活かして経験を積むも、パートナーの海外赴任でキャリアを中断

編集部:はじめに、黒崎さんのこれまでの活動について聞かせてください。

黒崎りえさん(以下、敬称略):学内の雰囲気がかなり海外に近いICUを卒業し、最初は東芝に就職し、それまで培ってきた語学力を活かして海外輸出部門で働き始めました。20代前半で結婚し、その後も仕事は続けていたのですが、体調を崩し、退社を決意。以降は正社員という形にとらわれず、専門学校の非常勤講師としてビジネスマナーや英語を教えたり、デザイン誌「AXIS」を発行する株式会社アクシスの嘱託社員として翻訳の仕事をしたりしていました。

当時は日英2ヶ国語で「AXIS」を発行し始めたばかりで、私は和英翻訳以外にも翻訳コーディネータの業務を担当していました。翻訳原稿のプルーフリーディング(添削/校閲)を行うネイティブの方とデザイナー両方からの要望を上手く調整し、紙面に反映させる仕事は大変ではありましたが、面白く、やりがいもありました。

ところが、その仕事を始めてから2年後、夫のインドネシアへの赴任が決まったのです。日本に残り仕事を続けることも考えましたが、第一子を妊娠していたこともあり、夫についていくことに。約6年間インドネシアで暮らし、その間に第二子も出産しました。

 

「好き」を起点に新しい仕事に挑戦、育児と両立するためフリーランスに

編集部:パートナーの海外赴任で、キャリアがいったんリセットされた感じでしょうか。

黒崎:海外での暮らしは、自分の人生を見つめ直すよい機会になりました。もともと私が英語を好きになったきっかけは、映画と音楽だったのです。特に映画が大好きで、その分野に関わる仕事がしたいと、帰国後は脚本家の養成所に通い始めました。

講座を受講しながら、シナリオライターを募集している案件を見つけては応募していたところ、何と漫画の原作を書く仕事が舞い込んできたのです。これを機に色々なところから声を掛けてもらえるようになり、映画やドラマの企画書づくりなどを中心に仕事の幅を少しずつ広げていきました。

編集部:このころからフリーランスとして活動され始めたのですね。

黒崎:はい、当時はまだ子どもが小学生だったので、基本は在宅で働き、たまに都内に打ち合わせにいくような生活でした。正直、育児や家事などによる制限がなく好きなだけ働ける方をうらやましく思った時期もありました。一方で、子どもが脚本家としての視野を広げてくれたのも事実です。子どもと一緒にアニメを観ていると新しい視点を得ることができましたし、何より主人公に自分を重ねて物語にのめり込んでいる我が子を見て、「フィクションの世界は、人びとにこんなに大きなワクワクや喜びを与えることができるのだ」と仕事に情熱を燃やすことができました。

その後も脚本を担当したNHKの朗読劇が局長長を受賞しシリーズ化されるなど、脚本家として着実にキャリアを積んでいたのですが、順風満帆の日々は長くは続かず、少しずつ陰りが見え始めました。企画を出してもなかなか通らず、自分が何を書きたいのか迷走。「私には才能がない」と悩み始めました。

 

娘さんの思いつきがキャリアシフトのきっかけとなり、 「エシカル」という新たな世界へ

編集部:そのモヤモヤの突破口やキャリアシフトのきっかけとなったのは何だったのでしょうか。

黒崎:それまでは家にこもってシナリオを書いており、家族が帰宅するまで誰とも接しない毎日だったので、「この生活を変えてみよう!」と思ったのです。接客業は向いていないと思い込んでいたのですが、今までと違うことをやってみればシナリオ制作につながる何かを得られるかもしれないと、知り合いのカフェで働き始めました。子どもも成長し自由な時間が増えたことも、新しい分野に挑戦するきっかけになりました。

カフェには色々な人が訪れるので、その様子を眺めているだけでも面白く、「自分はこの仕事に向いているかもしれない」と思い始めた矢先、何とお店が閉店することに。ようやく見えてきた道が塞がれ、人生どん底と言っていいほど落ち込みました。

そんな私を見かねたのか、あるとき娘が「エシカル商品のセレクトショップで店番を探しているけど、お母さんやってみない?」と声を掛けてくれたのです。当時、大学生だった彼女はフェアトレードやエシカル消費などに関心があり、そうした分野の集まりによく参加していました。サーキュラーHRの編集長で、当時そのお店をプロデュースしていた稲葉哲治さんと出会い、その求人を紹介してもらったそうです。きっと彼女なりに思うことがあったのでしょう。店番に私を推薦してくれたのです。娘の思いつきと、想像もしてなかったその提案にのってみたことがキャリアシフトのきっかけでした。

編集部:黒崎さんご自身は、フェアトレードやエシカル商品に関心はあったのでしょうか。

黒崎:いいえ、私にとってはまったく新しい世界でした。バブル世代なので、それまでは使うかどうかわからないものまでバーゲンで買ってしまうこともありました。ただ、そのことにどこかで疑問を抱いていたのも事実です。環境や人権に配慮した「エシカル消費」という考え方がとても新鮮で、消費者の責任ある購入・消費が社会貢献につながるという事実に心を動かされました。

「この世界について、もっと知りたい」という気持ちが高まり、勉強しながらお店に立つようになったのです。はじめは「お客様の質問に答えられるかな」とか「会計を間違えないかな」など、とにかく不安で仕方ありませんでした。でも、それ以上に商品の作り手やここで出会う人たちに魅了されていったのです。

 

「この世界をもっと知りたい」と起業

編集部:新しい世界に触れ、視野が大きく広がったのですね。

黒崎:「エシカル」という概念自体もそうですが、そうしたブランドを立ち上げている方々の勇気とバイタリティに感銘を受けて、「この人たちのことをもっと知りたい」「これらの商品を世に広めたい」と強く思ったのです。けれど、コロナの影響などがありやむをえず、お店は数年で閉店することになりました。このとき不思議と落ち込むよりも前に「ここでやめてはダメだ」という気持ちが湧き上がってきたのです。

編集部:その想いが、現在の「えしかる屋」につながっているのですね。

黒崎:それまでもお店の運営などについて一緒に取り組んできた稲葉さんに相談しながら、関係を築いてきたブランドに声を掛けて、地縁があった鎌倉でお店を開くことを決めました。新しいお店やブランドをつくり上げていく中で、それまで抵抗があったSNSにも挑戦してみることに。特にインスタは思いのほか楽しく、子どものころは絵が好きだったことをふと思い出しました。Canvaでバナーやチラシをよく作っているのですが、えしかる屋をはじめるまでは使ったこともなかったのに今は得意なスキルになっています。

思い返してみると、アクシスで働いていたころは発売されたばかりのMacを操作するデザイナーさんを「楽しそうだな」と眺めていたり、サステナビリティ先進企業として知られるパタゴニアの記事などを翻訳したりしていたのです。また、インドネシアでの滞在経験も途上国の暮らしを肌で感じるよい機会でした。点と点だった過去の経験がつながって、えしかる屋での「今」があるのだと感じています。

 

自分に正直でいられる心地よい場所で「好き」を深める

編集部:さまざまな経験をされてきた黒崎さんですが、ようやく「自分の道を見つけた」と言えるでしょうか。

黒崎:やっと「ここだ」という場所を見つけられた気がします。脚本家の仕事もやりがいがあり楽しかったのですが、背伸びをしていた部分が少なからずありました。私は人が好きで、商品であっても価値観であっても人が築き上げてきたものに触れると心が躍るのです。今まさに、「大量生産・大量消費」から環境や人権に配慮した「サステナブルなものづくり・消費」へと価値観が大きく変わろうとしていて、プラごみやリサイクルされた衣類からつくられる商品などもあります。こうした商品が生まれる過程を見るのが、とても楽しいのです。

私自身が商品を生み出すというよりも、コンセプトや作り手の想いとともに商品を世の中に広めていくような場所づくりが、私には合っていると思います。もちろん仕事なのでストレスを感じるときもありますが、自分に正直でいられる心地よい場所を見つけたと感じています。今後は商品だけでなく、トークイベントやワークショップなどを通じて、「エシカル消費」という価値観をより多くの人たちに届ける活動にも力を入れていきたいですね。

編集部:最後に、これからのキャリアについて考えている方々に向け、メッセージをお願いします。

黒崎:現在の仕事に満足していない方は多いと思いますし、私自身も長い間モヤモヤを抱えて生きてきました。自分が何をしたいのかわからなくなったときは、原点に戻るという意味で、子どものころに好きだったことを思い出してみるとよいかもしれません。大人になるにつれ、人は賢くなり「これをやったら褒められる」とか「こうすれば儲かる、得をする」と考えがちです。頑張ったら頑張った分だけ稼げる・評価されるのは素晴らしいことです。

一方で、自分の「ワクワク」や「心地よさ」を軸に、人生や仕事を選択するのも一つの道だと思います。そうした「ワクワク」や「心地よさ」を、過去の経験や現在の仕事とどう結びつけ、何ができるのか考えてみるのが、第一歩。たくさんの情報やロールモデルに触れながら、自分にとって必要な情報を選び、自分が大切にしたいものを深めていけば、自ずと納得のいく道にたどりつけるのではないでしょうか。

【執筆:岩村千明 編集:高東未宇】


 

<サーキュラーHRへのヒント>

  • 黒崎さんはパートナーの海外赴任をきっかけに人生を見つめ直し、自分の「好き」を起点に新しい仕事に挑戦。育児との両立を視野に、フリーランスとして活動し始めた。
  • 仕事に行き詰まったときに、思い切って新しい世界に飛び込んでみたことで、大切にしたい人びとや価値観、ライフワークと出会えた。
  • 娘さんから想像していなかった領域の仕事を提案されたが、思い切ってのってみたことでキャリアシフトになり、新しいスキルも獲得できた。
  • 自分らしい働き方を見つけるためには、「ワクワク」や「心地よさ」を軸に人生や仕事を選択し、自分が大切だと思うことを深めていくことが鍵になる。

【プロフィール】

黒崎りえ

大学卒業後、株式会社東芝に就職。専門学校の非常勤講師、制作会社の嘱託社員を経て、パートナーの海外赴任を機にインドネシアへ。帰国後は脚本家の養成所に通い、フリーランスでシナリオライターとしての仕事を始める。2017年からエシカル商品のセレクトショップに勤務し、2021年、鎌倉で「えしかる屋」をオープン。

 

 

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